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再び王城、魔導具献上

 ヘルミーナの助言というか、御用錬金術師としての慣習を知っていてくれたおかげで、何とか極刑は免れることができそうだ。改めて王城に遣いを出すと、すぐに二人の王子からアポを取ることができたのだった。


 正直に言うと、積極的に王族などには関わりたいわけではない(面倒臭いから)のだけど、御用錬金術師としてリーンハルトとパトリックから指名されたからには慣習に従わないわけにはいかない。


 渋々ながらヘルミーナにアポを取ってもらったところ、その日のうちにリーンハルトとパトリックの二人と謁見することになったのだ。しかも、こちらで馬車を用意する必要もなかった。リーンハルトとパトリックが馬車を屋敷まで寄越したせいだ。


 仕方なく迎えの馬車に乗って貴族街から王城に向かうと、イザークが門番と一緒に俺たちの到着を待っていた。


「お待ちしておりました、ハルト殿とお付きの方々。リーンハルト様とパトリック様がお待ちです!」


「ありがとうございます、イザーク様。リーンハルト様とパトリック様はどちらに?」


「お二人ともリーンハルト様のお部屋でユリアン様やランベルト様と一緒にハルト殿の到着をお待ちになられていますよ。皆様、ハルト殿の新しい魔導具を大変楽しみにされているようです。もちろん、この私も楽しみにしています!」


 イザークはそう言うと眩しい笑顔を向けてくれた。


 なるほど、そんなに楽しみにしてもらえているのなら、何か余興のようなものができれば良いのだけれど……。そんなことを考えながら、この前と同様にリーンハルトの部屋の前までやってきた。


 そして、イザークが扉をノックすると内側からメイドが扉を開けてくれた。


「リーンハルト様とパトリック様、御用錬金術師のハルト・アサヒナ殿をお連れ致しましたっ!」


 イザークがそんなことを言いながら、俺たちを部屋の中へと誘導する。すると、そこには笑顔で出迎えてくれるリーンハルトとパトリックの二人とテーブルの上にゲルヒルデとブリュンヒルデの姿が目に入った。


 また、その側には二人の教育係であるユリアンとランベルトがいた。リーンハルトとパトリックの後ろにはイザークも控えている。


 そんな四人を視界に捉えつつ、俺はリーンハルトとパトリックの前に出ると、恭しく跪き頭を下げて挨拶した。


「リーンハルト様、パトリック様。それにユリアン様とランベルト様も。本日はこのようなお時間を頂き、誠にありがとうございます」


「いや、構わぬ。むしろ、ハルトから王城に来てくれるというのだ。我らが断るわけもなかろう。なぁ、パトリック?」


「えぇ、兄上。それに、ハルト殿が新しい魔導具を献上すると聞いていても立ってもおられず、兄上と一緒に予定を調整したのです!」


「それは、ありがとうございます」


 リーンハルトとパトリックとの挨拶が終わるとゲルヒルデとブリュンヒルデの二人が近くまでやってきた。


「ハルト、今日は一体どんな魔導具を持ってきたのかしら?」


「パトリックが楽しみにしてたからさぁ、アタイもどんな魔導具なのか気になってさ……。それで、どんなものを創ったんだ!?」


「はいはい、二人とも。ここからは私と兄上の番ですよ! それで、今日は一体どのような魔導具を見せて頂けるのですか?」


 パトリックがそう言うと、リーンハルトもくつくつと笑いながらも、やはり魔導具が気になるのか、そわそわしながら俺の言葉を待っているようだったので、早速カードパックと初心者セット、それから遊技マットをアイテムボックスから取り出して、これから売り出そうとしている物を説明していく。


 ゲルヒルデとブリュンヒルデの二人も興味深そうに覗いてくる。


「こちらが今回新たに創った魔導具で、魔導カード『神の試練』と言います。まぁ、簡単に言いますとこれは娯楽に使う道具でして、つまるところ玩具おもちゃですね」


「ほう、玩具か。しかしそれにしてはどう遊ぶものか全く分からんな。ハルトよ、説明してくれ」


 俺はテーブルを使うことを伝えて、リーンハルトとパトリックにソファーに掛けるようお願いすると、遊技マットを二組テーブルの上に広げる。何故か俺がソファーの真ん中に座り、その両サイドにリーンハルトとパトリックが座っているのだが……。まぁ、いいや。


「この遊技マットが本体なのですが、これだけでは何も起こりません。リーンハルト様、パトリック様。こちらの包み、カードパックを開封して頂けますか? この中にカードが五枚ずつ入っております」


「ああ、分かった」


「これを開ければいいのですね!」


 二人はカードパックを受け取ると徐ろに包みを開ける。


 すると、リーンハルトはキャラクターカードが四枚と命令カードが一枚が入っていた。しかも、キャラクターカードの一枚は虹色に輝く(ウルトラレア)のキャラクターカードで、妖精族、それもエルフの女魔法使いだった。


 パトリックのほうはキャラクターカード三枚、命令カード二枚で、そのうち一枚はリーンハルトと同じく虹色に輝くキャラクターカードを引き当てており、それも妖精族の、そして、またエルフの女騎士だった。


「おぉ、これはエルフだな」


「兄上、私もエルフのカードがありました!」


 うーむ、二人とも凄い引きだなぁ……。カード排出率の設定を間違えたわけでもないし、もしかして王族って運が良いのかな?


 まぁ、それはともかく。二人がカードパックを開けたので説明に戻ることにする。


「実はこのカードパック、開封する人の運によって中身のレアリティや中身が変わる仕組みになっているのです。そういう意味では、お二人とも、大変幸運ですね。この虹色のカードは非常に貴重なカードで滅多に手に入れることはできないのですが……」


 リーンハルトが自慢げに口を開いた。


「ハルトよ、それは当然というものだ。何故なら、我らのように王族として生を受けるというのは幸運でなければなし得ないことなのだから」


「兄上の仰る通りです! 王族は生まれながらに運だけは非常に良いのです。一部例外はありますが……」


 やはり、王族は幸運の持ち主が多いようだ。あれ? そうなると運が良い奴ばっかりが得することにならないか……?


「まぁ、貴族に生まれる者ならある程度は運が良い人たちが多いですし、冒険者の中でも長く活躍している者であれば、同じように幸運な者が多いのだと思います。逆に平民たちでは、こういった仕組みの、所謂くじ引きでは中々思うような結果を得られないかも知れませんね……」


 パトリックがそう言うと他の皆もそれを肯定するように頷いた。


 なるほど、確かにカードパックを開ける人の運に中身が左右されるなら、多少調整が必要かもしれない……。まぁ、確率は据え置いたとしても、カード毎に流通する数を制限して抽選したほうがいいのかもな。そういえば、そんな世界観の漫画とかゲームがあったかな? それはともかく……。


「それでは、お二人が手にされたカードの中で、人族が描かれたカードをこのマットの上に一枚置いて頂けますか?」


 そう伝えると、二人は徐ろに二人が手にしたエルフのカードをマットの上に置く。すると、ただのマットだったはずの場所が草原のフィールドに変わり、その上にエルフの女魔法使いと女騎士がマットの上に現れた。


「「「「「おおおっ!?」」」」」


 リーンハルトとパトリックだけでなく、ユリアンとランベルト、そしてイザークまでもが感嘆の声を上げた。


「このように、カードを遊技マットの上に置くことで、そのカードに描かれた人族の冒険者が、まるで生きているかのように目の前に現れるのです。ただ、お一人につきマットの上に置ける種族カードは四枚まで、且つそれぞれ種族がバラバラである必要があります。つまり、人間族と獣人族、魔人族、そして妖精族ですね。その為、今お二人はエルフのカードを同時に出されましたので、他の種族のキャラクターカードを三枚置くことができます」


 ふむ、とリーンハルトは牛のような角と耳、そして尻尾の獣人族の戦士と人間族の剣士、それから下半身が蛇の魔人族ラミアのカードを置いた。


 パトリックは人間族の神官と狼の耳と尻尾の獣人族の拳闘士を置いた。


「さて、皆さん準備が整いましたね。ここに現れた人族たち、キャラクターはこの遊技マットの中で所謂冒険者のように冒険を行います。その中で戦わなければならない敵との出会いや、報酬となる宝箱の発見、キャラクターの強化となる装備の変更や成長をさせながら、物語を進めていきます」


「ほう。それで、どうやって遊ぶのだ?」


「リーンハルト様、マットの右脇にある『進行』と書かれているところを触ってください」


 ふむ、と言いながらリーンハルトがマットに表示された『進行』とかかれたところに触れると、マットの上にいたエルフたちが隊列を組んで歩き出した。


「「「「「おおおっ!?」」」」」


 リーンハルトたちが驚いているうちにエルフたちが何か見つけたようで、マットの上の『進行』が『調査』に切り替わっていた。


「リーンハルト様、エルフたちが何かを見つけたようです。そちらの『調査』を触ってください」


 またリーンハルトがふむと言いながら『調査』に触れると、マットの上に宝箱が現れ、エルフたちが開くと遊技内の通貨、つまり百枚の金貨を手に入れた。


「こんな感じで宝箱を見つけるとお金やアイテムが手に入ったりすることもあります。パトリック様も『進行』に触れてみてください」


「はい!」


 パトリックが『進行』に触れるとリーンハルトと同じようにエルフたちが警戒行動を始める。すると、エルフたちの目の前に角の生えたウサギの魔物が現れた。


「このように魔物が現れることがあります。パトリック様、手元にある命令カードの中から一枚選んでマットの上に置いてみてください。このパーティーが戦う為に最適だと思う行動を選ぶと良いですよ。と言っても、今は使えるカードが少ないと思いますが……」


「こちらでしょうか?」


 そう言ってパトリックは『打撃優先』のカードをマットの上に置いた。すると、女騎士のエルフは剣を振るい、人間族の神官は手に持ったメイスで殴り掛かり、狼の獣人族の拳闘士は鋭い爪で切り裂くように戦い始めた。


「「「「「おおおおおっ!!!」」」」」


 本日何度目かの歓声が起こる。というか、リーンハルトたちは食い入るようにパトリックのマットの上で繰り広げられている魔物との戦いを見つめている。


 暫くして、難なくエルフの女騎士たちのパーティーは角の生えたウサギの魔物を倒すことができた。


「種族カード以外のところに命令カードを置くとパーティー全体への命令となり、人族のカードの上に置くと各冒険者への個別の命令になります。マットの『撤退』に触れると冒険を終了できますので、止めたいときはそちらに触れてください。大まかな説明は以上です」


 リーンハルトたちは皆マットの上で起きた戦いに興奮していた。


 まぁ、貴族だと冒険者と魔物の戦いなど伝え聞くことはあっても実際に見ることなどほとんど無いだろうから、当然の反応なのかも知れない。


 しかも、それがテーブルの上で見られるというのだから余計に、ということもあるかもしれない。


 そんな中、リーンハルトが興奮気味に口を開いた。


「ふむ、この魔導カードと遊技マットがあれば、このように四人の冒険者を操ることができるのか? それにしても、どうしてハルトはこんな(面白い)物を創ったのだ?」


「はい、私は冒険者でなくても冒険を擬似的に体験し楽しむことができる、そういう魔導具ができないかとこの魔導カードを創ってみました。私がこだわったのはただ一つ。この世界にいる四種族が協力して冒険する、という点です。アメリアたちに聞いたところ、種族間での争いはないと聞いていますが、それでも私のようなエルフなど、身近ではない、見かけることの少ない種族に対して親近感や好意を持って頂きたいと思いまして、創ってみたのです」


「なるほど、種族間で協力する姿を自然に浸透させる狙いがあると、そういうことか……。確かにこの国では種族間での争いはないと言うことになっているが……実際には全く無いとは言い切れない、というのが正直なところだ。実際、獣人族に対して下等な存在のように扱う者もいれば、魔人族を悪魔のように触れ回るような者もいるのが実情だ。ハルト、一体何を考えている?」


 リーンハルトが真剣な顔で俺を見つめながら問い掛けてきた。


 俺がこの魔導具を創ったことに何らかの意図があるとリーンハルトは感じたみたいだ。そして、それが当たっているだけに、リーンハルトの鋭さに少し驚いた。


 まぁ、リーンハルトたちには今後頼ることも多くなるかも知れないし、簡単に事情だけは伝えておこうかな。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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