魔導カード『神の試練』
「それで、このカードですけど……ただのカードではありません! カミラさん、先ほどのカードから四種族の人物が記されたカードを一枚このマットの上に置いてもらえますか?」
「分かった!」
そう言ってカミラが取り出してマットの上に置いたのは騎士の姿をした人間族のキャラクターが描かれたカードだった。
なんの変哲も無さそうなカードだが、マットの上に置いた途端、カードに描かれた人間族の騎士が実体化してマットの上に現れた。しかも、ただのマットだったはずの場所には草原が広がっている。
「「「「おおおぉっ!?」」」」
「どうです、面白いでしょう? これは、魔動人形を参考に創ってみたんです。このカードとこのマットさえあれば魔動人形と似たようなことができますし、ゲルヒルデとブリュンヒルデの決闘みたいなことも、もっと小規模にできます。それに何と言っても、これなら実際に魔動人形の様に高価な素材を使って創らなくても良いわけで、貴族でなくても手を出しやすい価格設定にできるんです!」
皆マットの上に現れた騎士を見ながら感嘆の声を上げていた。俺は説明を続ける。
「この実体化はこのマットの上でしか効果がありません。ですが、その分色々と遊べないかと思って、簡単な遊びを考えてみました。ルールは簡単で、人間族、獣人族、魔人族、妖精族の四種族の種族カードをそれぞれ一枚ずつ、四枚をマットの上に並べて配置します。そして、ここの『進行』と書かれているところを触ると……」
マットには実体化した四体の人形、人間族の騎士と、獣人族の格闘家、魔人族の魔法使いに、妖精族の魔法剣士が現れた。それだけでなく反対側に低位の魔物が現れたのだ。
「「「「おおおっ!!!」」」」
「こんな感じで、魔物の姿をした対戦相手、つまり『敵』が現れることがあります。この魔物を四種族で構成されたパーティーに命令カードで指示を出すことで上手く操作して倒すことがこの遊びの勝利条件です。もちろん、パーティーが全滅してしまうと敗北となります。それと、命令カードは一回の遊技に五十枚まで、遊技中のどのタイミングでも任意のカードを一枚ずつ使うことができます。この五十四枚のカードを自分好みに組み合わせて遊ぶわけなんですが、どうでしょうか?」
「なるほどな! その五十枚の命令カードをいかに使って敵を倒せるかがポイントになるのだな! 中々面白い遊びだと思うぞ!」
「思った以上に頭を使う必要がありそう。最初にどんなパーティーを組んでどんな命令を準備するかという戦略性、状況に応じて的確な命令を出さなければならない戦術性……。冒険者がパーティー運用を覚えるのに役立つかも知れない」
アメリアが称賛するとカミラも俺が思ってもいなかった使い道を教えてくれた。それからヘルミーナは錬金術師としてか商人としてか、気になるところがあるようで、色々と質問してくれた。
「この種族カード? これって、戦闘で倒れたときにカードも無くなってしまう、なんてことはないわよね? それと、弱い種族カードはずっと弱いままなわけ?」
「はい、ヘルミーナさん、良い質問ですね! 種族カードは戦闘で倒れても無くなることはありません。ですから気軽に使ってもらうことを考えています。それから、種族カードにはレベルという能力値の上限を表す値があり、魔物を倒すことでレベルを上限まで上げることができるんです。そして、レベルが上がるとその種族カードの能力値も上昇……。まぁ、つまり経験を積んで行くと強くなる、人と一緒ですね。それから、このレベル上限ですが、同じ種族カード同士をマットの上で重ね合わせることで、下側に置いたほうの種族カードのレベル上限を一つずつ上げることができます。まぁ、同じ種族カードが被って手に入っても使い道があるということです」
「なるほどねぇ。それにしても、よくこんなの考えたわね。でも、これだとこの遊びを始めるには、結構な枚数のカードを集めないといけないわよ?」
「ええ、それも狙いなのですが、一応初心者用のカードを二十五枚揃えた初心者用のカードセットも用意しようかと思います」
「へぇ、そこまで考えているのね。それで、これはいくらで売るつもりなのよ?」
ヘルミーナが聞いてきた価格設定は重要だ。
高価格過ぎても売れないし、そもそも人々に四種族の協力や連携を意識させたくて創るものだ。だが、安価すぎても儲けにならないのでは屋敷を維持できない。
「魔動人形は貴族や富豪にしか手が出せないものでしたが、このカードは平民の方にも触れて貰い、楽しんで貰いたいと考えています。ですから、皆が手を出しやすい価格にしようと思いまして……。
・五枚入りのパックを銀貨一枚
・二十五枚入りの初心者セットを銀貨五枚
・遊技用のマットを金貨三枚
これぐらいで売り出そうかと思いますが、いかがでしょうか?」
ヘルミーナは瞑目して思案しているようだったが、すぐに答えてくれた。
「うーん。娯楽や遊具として見ると、ちょっと高いかなって思うけど、これを魔導具として見ると物凄く安いかしら?」
「でもマットが高い。もっと安くないと平民には手が出せない」
「確かになぁ。カミラの言う通りだよ。これじゃ、せっかくの遊びも広まらないんじゃないか?」
「まぁ、普通に考えるとそうなんですけどね。実は、このマットを敷いた専用の机というか台を魔導具店の店先に幾つか並べて楽しんでもらおうかと思っていまして。まぁ、実物を見てもらったほうが早いかな……」
俺はアイテムボックスから遊技マットが二枚敷かれた机、いや遊技台を取り出した。台の縁にはコインを投入する為の箱が付いている。
「まず、この台の手前にある箱に大銅貨一枚を入れると……」
チャリンと大銅貨を一枚箱の中に入れる。すると、マットが淡く光って、マットの右角に数字が現れた。数字は六百と表示されている。
「こんな感じで、ここに数字が表示されます。この状態になると遊べるようになるんですが、ここに種族カードを並べて『進行』に触れると……」
そう言いながら『進行』に触れると一秒毎に数字のカウントダウンが始まった。まぁ、つまるところ大銅貨一枚課金すると十分単位で遊べるアーケードゲーム機の様なものを創ってみたわけだ。
「この数字がゼロになるまで自由に遊ぶことができます。もし数字がゼロになっても、もう一度大銅貨一枚を入れれば引き続き遊ぶこともできますし、止めることも可能です。まぁ、そんな感じで利用料を払ってもらえれば誰でも遊べますし、大銅貨一枚ならマットを買うよりも手も出しやすいでしょう? それにこの台も金貨五枚で売り出しますので、問題ないはずです」
「へぇ、この台も売り出すのね?」
「えぇ。この台はきっと売れますよ? 何せ、これを買った人は儲かりますからね」
「儲かる?」
なんで? という表情でヘルミーナがこちらを見てくる。
「例えば、一回大銅貨一枚ですが、日が出てる日中に休み無しで遊び続けてもらえた場合、大銅貨約三十枚は稼げると思いますよ。上手く行けば半年で台に掛かった費用は回収できる可能性がありますし、遊びに来た人向けの飲食とかでも稼ごうと思えば稼げますから」
「なるほど。ハルトの話の通りだとしたら、遊ぶ人数が増えるほどこの台を置くだけでも儲けられるようになりそうね。とはいえ、金貨五枚も本当に儲けられるか分からないものにポンとお金を出せるのは貴族や商人が中心になりそうね。それで、どれ位の数を用意するつもりなの?」
「はい! このカードパックを一万セット、初心者セットを五千セット、遊技用マットを三千セット、遊技台を千セット程度なら余裕で用意できます!」
そう言うと、少し引いている様にも見えたけど、すぐに気を取り直したみたいでヘルミーナが最後に聞いてきた。
「それで、このカードの遊びはなんて言う名前なの?」
このカードの名前か……。
まだ何にも決めていなかったけど、四種族の連携や協力を元にしたほうが良いかな? などと思いながらも、自然とあの言葉が思い浮かんだ。
「そうですね、魔導カード『神の試練』なんてどうでしょう?」
「なるほど、前にハルトが言ってた『世界に訪れる試練』に立ち向かう冒険者がモチーフってことか。うん、良いんじゃないか?」
「魔導カード『神の試練』……私も良いと思う!」
アメリアとカミラも俺の考えた名前に賛同してくれたのでホッとした。自分で言うのも何だけど、あんまりこういうのは得意じゃない。
「そうと決まれば、リーンハルト様とパトリック様に謁見しないといけないわね!」
「えぇっ、なんで?」
急にヘルミーナがそんなことを言い出したので驚いた。
だって、ついこの間、魔動人形を引き渡す為にリーンハルトたちには会ったばかりだし、急を要するような要件はないはずなのだが……。
「はぁ、アンタは本当に自覚ってもんが足りてないわよ!?」
「はい? どういうことですか?」
「もう、何言ってんのよ! アンタはリーンハルト様とパトリック様の御用錬金術師になったんでしょうがっ! 新しい魔導具を創ったのなら、真っ先に献上する為に謁見しないと。そうしなければ、最悪の場合、お二人の王子様を侮辱した罪で、ハルトは極刑にされてしまうわよ?」
「えぇっ、それは本当ですか!?」
ヘルミーナは深いため息をついて、呆れたような目線を俺に向けると、新たにもう一つ深いため息をついた。
「もう、本っ当にハルトからは目が離せないわね……。まぁ、勿論悪い意味で、だけど」
そう言いながらもヘルミーナは優しく俺を見つめていた。
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