ヘルミーナの弟子入り宣言
「アサヒナ様、お疲れ様でした。リーンハルト殿下への魔動人形の献上は無事にできたようですな?」
御者台に座り手綱を握るローデリヒが振り返り、俺たちに話し掛けてきたので、今日起こった出来事というか愚痴を聞いてもらうことにする。
「えぇ、何とか。リーンハルト様にご満足頂けたようです。ただ、それも本当に大変で……。成行きでパトリック様にも魔動人形を創ることになったり、破壊された庭園の噴水を創ったり、リーンハルト様とパトリック様の御用錬金術師になったり、褒美に屋敷を頂いたりとか……。本当に色々とありすぎて自分でもまだ「なんですとっ!?」」
「今、御用錬金術師になられたと仰られましたか!? しかも、リーンハルト様だけでなくパトリック様からも!?」
ローデリヒが驚いて手綱を引いたせいで馬が驚き馬車が揺れる。
まるでローデリヒの動揺の大きさを表しているように感じた。まぁ、気持ちは分かるけど……。
「えぇ、そうなんですよ。それに、褒美として貴族街の近くに土地をお借りすることになりまして」
「なんと、御二人の王子から御用錬金術師に指定されるとは……。さらに王家から直々に褒美を、それも貴族街近くの土地を与えられるとは、リーンハルト様とパトリック様はアサヒナ様のことを高く評価されておられるようですな」
ローデリヒは魔動人形の件しか知らないだろうから随分と高く評価されたと思っているのかも知れない。庭園や噴水の件まで説明しだすと長くなるし、そこまで話す必要はないか。
「それでお借りすることになった土地なんですが、何でも先々代の国王陛下の御用商人が住んでたお屋敷がまだ残っているそうなんですが……。ローデリヒさんはご存知ですか?」
「ふむ。もしや、褒美として賜われたという土地はあの屋敷が立っているところですかな……。アサヒナ様、もうすぐその屋敷の前を通りますので、実際に見てみては如何ですかな?」
「本当ですか? ありがとうございます!」
貴族街から門を抜けて壁沿いに伸びる石畳の道を進むこと五分、ローデリヒが馬車を止めて一軒の屋敷を指さした。
「アサヒナ様、こちらがお話にあった屋敷です。暫く誰も住まれていなかった為、屋敷も土地もかなり荒れているようですし、これは修繕が必要そうですな」
「へぇ、どれどれ?」
馬車から降りて屋敷の門前に立つと、そこからは雑草が伸び放題の庭園が広がり、その奥に大きな赤い屋根の屋敷が見える。
だが、誰も手入れをしていないからか、屋敷の屋根にまで雑草が生える始末で想像以上にボロボロだ。まぁ、どちらにしても上物は取り壊すつもりだから問題ない。
それより全体の広さのほうが気になる。
ざっと見るからに、お隣の屋敷との壁から壁に百メートル以上はありそうで、さらに門から屋敷までも同じ程度の奥行きがある。
なかなか広いし、神殿にも図書館にも近いし、なかなか良い立地だな。今からどんな間取りで家を建てるか考えるだけで楽し過ぎるし、ちょっとだけ下見をして行こうかな!
「皆さん、私はちょっとこの中を覗いてから帰ります。先に帰って待っててください」
俺に続いて馬車から降りてきていたカミラたちにそう伝えると……。
「私もハルトと一緒に行く」
「それじゃ私も!」
「全く仕方ないわね、私も残るわ」
今日は皆疲れているから宿に帰ると思っていたんだけど、カミラとアメリア、それにヘルミーナまでも俺に付いてくると言い出した。
まぁ、一緒にきてくれるならそれはそれで嬉しいんだけどね。
「皆様、仲がよろしいですなぁ。それでは私はここで失礼させて頂きます。また皆様にお会いできるのを楽しみにしております」
「はい! ローデリヒさん、今日はありがとうございました!」
ローデリヒは御者台から俺たちに手を振りながら再び馬車を貴族街のほうに向けて走らせて行った。
「さて、と。皆さん、こちらに残られて本当に良かったんですか? 今日は色々あったからお疲れでしょう」
俺と一緒に残ってくれたのは嬉しかったけど、何だか申し訳なくて三人に向かってそう伝えたのだが、皆呆れたような目で俺を見る。
あれ、何か変なこと言ったかな?
すると、ヘルミーナが両手で頬を摘んで引っ張った!
「全く、この馬鹿ハルトっ! アンタ何てことやったのよ!」
「いひゃいっ!? はひはひゃりまひひゃは!?(痛い!? 何かやりましたか!?)」
「本当に何から言ったらいいのか……。まず、あのゲルヒルデとブリュンヒルデは何なのよ! ただの下位精霊を上位精霊に霊格を上げる!? しかも、その上位精霊を使役するなんて有り得ないわ! それに何よ、あの庭園と噴水! あんな仕掛けが付いた噴水なんて見たことも聞いたこともないわ! けれど、そんなことはどうでも良いわ。そんなことより、リーンハルト王子とパトリック王子の二人から御用錬金術師に指定されるなんてどういうことよ!? 挙げ句の果てには褒美に貴族街の近くに土地を賜るですって!? もう、今日一日でどれだけ信じられないことをやらかしたのか、アンタ本当に分かってるの!?」
捲し立てるようにぶち撒けたヘルミーナは魂が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。
確かにヘルミーナの言うことも分かるんだけど、俺だってこんなことになるなんて思いもしなかったし、仕方ないじゃない……。
以前数年で平社員から課長にまで出世した先輩が言ってたけど、自分の意志とは関係なく周囲の都合で出世する場合もあるらしいし。まぁ、御用錬金術師になったからには、ちゃんと仕事を全うしようと思うし、褒美だってもらえるなら受け取るまでだ。
「私もこんなことになるとは思ってもなかったんですけどね。まぁ。その、たまたま運が良かっただけですよ」
「はぁ、普通は運が良いだけでこんなことにはならないわよ……。でもお陰で私の気持ちも固まったわ!」
ヘルミーナはそう言っておもむろに立ち上がると、背筋を伸ばして俺の前に立って、勢いよく頭を下げた。
「改めてお願いするわ。ハルト、私を貴方の弟子にして下さい! お願いしますっ!」
「ええっ!?」
俺は創造なんていうチート的な能力で助けられているだけだし、例えヘルミーナを弟子にしても、彼女に錬金術師として何か教えてあげられるだろうか。
正直あまり自信がないのだが……。
「ヘルミーナさん、そのように言って頂けるのは嬉しいのですが、私ではあまりお役に立てないかも知れませんよ? 何分、私の錬金術は特殊なようですので」
「それでもいいわ。ハルトの錬金術を見ているだけでも着想やレシピとか十分勉強になるし、それにハルトと一緒にいると今日みたいなとんでもないことに立ち会えそうだし!」
そんなにとんでもないことが次々とは起こって欲しくないんだけど……。
まぁ、とにかく本人がそれで良いって言うなら別に良いかなと思い、了承することにした。
それと、これから長い付き合いになるなら、俺の仲間になってもらえるとありがたいのだが……。
「まぁ、そう仰るなら良いですけど」
「じゃあ決まり! これで私はハルトの一番弟子よ! よろしくね、ハルト!」
「はい、よろしくお願いします、ヘルミーナさん。それと、これはご相談なのですが、ヘルミーナさんも私の仲間になって下さいませんか?」
「仲間ってどういうこと?」
「はい。信じられないかもしれませんが、実は私は神様からとある使命を与えられているのです」
「神様からの使命?」
「はい。神様が仰るには、近い将来この世界に試練が訪れるので、世界中の人たちと協力し合えるように、この世界にいる四種族の仲間を集めよ、とのことです。もし、妖精族の血を引くヘルミーナさんに仲間になって頂けるなら大変助かるのですが……」
「ふぅん、神様ねぇ……。まぁ、エルフのアンタならそんな神託が届いてもおかしくないか。ところで、さっき私『も』って言ったけど、他にも仲間がいるってこと?」
「はい。アメリアさんとカミラさんにも事情をお話しして仲間になって頂きました」
アメリアとカミラがヘルミーナに向かってサムズアップすると、応えるようにヘルミーナもサムズアップ仕返した。
「分かったわ。私もハルトの仲間になる」
「ヘルミーナさん、ありがとうございます! 改めて、よろしくお願いしますね!」
ちょっと嬉しくなって思わずヘルミーナの手を取ったのだが、顔を赤らめて恥ずかしそうにしながらも俺の手を握り返してくれた。
すると、ヘルミーナの手の甲が輝き始めた。これはあれだ、ヘルミーナが真の仲間になってくれた証が現れたということだ。緑色の淡い光が手の甲にほんのりと灯りをともす。
「ちょっと、いったい何!?」
「ご安心ください、すぐに落ち着きます」
暫くすると、ヘルミーナの手の甲に銀貨一枚程度の紋章ができていた。アメリアとも、カミラとも少し意匠の違うヘルミーナだけの紋章だ。同じく、俺の手の甲にも新たに、ヘルミーナの紋章がくっきりと浮かび上がった。
「これは、ヘルミーナさんが私の真の仲間になってくれた証なんです。心配されなくとも、私かご自身の意思で表示したり消したりできるものになります」
そう言うと、早速ヘルミーナは試したようで、手の甲の紋章を点けたり消したりさせている。
「本当にハルトは意味が分からないわね。こんな不思議なことまで起こるなんて、この先どんなことが起こるのか、今から頭が痛くなるわ」
そんなことを言いながらもヘルミーナは嬉しそうに紋章の出し入れをしている。このツンデレさんめ!
そこにアメリアとカミラも加わって、自分たちの紋章を浮かび上がらせて盛り上がっている。
うん、何となくだけどこの三人となら上手くやっていけそうな気がする。何となくそう思った。
「ところで、土地を借りられたのはいいものの、建ってる屋敷がこんな状態じゃあ住めそうにないな。ハルトはどうするつもりなんだ?」
「私もそれが気になってた。修繕するにも、お金も時間も掛かりそう……」
「本当よねぇ。しかも、こんな広い庭園なんて、維持するだけでも相当掛かるんじゃない?」
「まぁ、普通に考えるとそうですよね。でもご安心下さい。今建ってる上物はすぐに解体して私が建て直しますから!」
「「「建て直す!?」」」
「えぇ、任せて下さい! 実はもう大体の構想も考えてまして!」
俺はこの敷地を見て考えた構想を話すことにした。
まず、道の前には三階建ての魔導具店を構え、その左隣に屋敷へ繋がる控えめな門を用意する。
門の奥に繋がる通路の横には中庭があり、その奥に屋敷を建てる。ちょっと見栄を張って地上三階、地下一階の大きめな屋敷にしたいと考えている。
そして通路の反対側に魔導具店の倉庫を建てる。つまり、コの字型に建物を配置しようと考えたのだ。中庭にはリーンハルトたちに好評だった噴水も用意したいと思う。
そんな話をしたのだが、みんな俺をジト目で見つめてくる。
おいおい、俺はまだ何もやってないはずだけど……。
「アンタ、本当にそんな物建てられるの? この辺りに住んでる富豪の屋敷だって、そこまで立派な屋敷はないはずよ。それに魔導具店って……」
「でも、私はハルトの言うことは本当だと信じてる。それに、そんな立派なお屋敷ができるなら一度見てみたい」
「私もハルトの言うことは信じているけど、それにしてもハルトの考えることは面白いなぁ!」
「それじゃ、もう建ててしまいますか。まだ日が暮れるまで時間もあることですし」
「「「は?」」」
そう言うとアメリアたちは驚いたが、そんな三人を気にすることなく、俺は早速建築を進めることにした。
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