俺たちの屋敷を創ろう
「それでは、早速始めますか!」
俺は今建っているボロボロの屋敷に触れてアイテムボックスに仕舞い込むと、土魔法で地面を掘り起こして整地を行い、敷地の全てを更地に戻す。
ここでもフリードリヒ・オットー氏の自作魔法は優秀だったので生えていた雑草の類も整地した際に全て片付けてくれる等、大変重宝した。
建物を建てる準備が整ったので、早速魔導具店の創造に取り掛かる。屋敷は一番最後だ。
一階は店舗、二階は来客用の応接室と店長室、三階は従業員寮としては少し狭いが四部屋用意した。
その他、三階に用意したお風呂とトイレ、それにダイニングキッチンは共有スペースだが、お風呂とトイレは男女それぞれ別々に用意することにした。勿論、温水洗浄の便座を完備している。それに、お風呂のほうはボタン一つでお湯を溜められるし、お湯張り、追い焚きだってしてくれる優れ物だ。
また、建物は当然耐火構造としているが、念には念を入れて建物全体にスプリンクラー設備も設置した。
因みに、これらの設備を実現するには単純に生前の知識から再現するのではなく、この世界に存在する魔法の類を使い実現している。そのほうが神力の消費が少なくて済むからだ。
実は、この辺りは噴水を創った時に気付いたことだった。
この魔導具店は、俺がオーナーでヘルミーナが店長となる予定だ。一応、俺の中だけの予定だけど。
続けて、店舗の後ろに魔導具店の倉庫を建てる。
二階建てながらそれなりに広さを確保したが、こちらはただの倉庫なのでひとまず内装は後回しにすることにした。
その倉庫の前には庭園と噴水を用意する。
ただ、噴水については王城で創った物よりも簡素で小さなものにするつもりだ。優れているところがあるとすれば、夜ライトアップされる時に七色からランダムに色が変わるところ位だろうか。
さて、最後に残していた屋敷のほうに手を付けようと思ったのだが、ふと、この異世界『マギシュエルデ』に転生してきた日のことを思い出していた。
元々、俺は一人この世界に転生してきた異世界人で、この世界に身寄りもなければ帰る家もない、まさに天涯孤独の状況だった。
だから、最初は世界の試練を乗り越える為の活動拠点にできそうな場所を何とか手に入れて、それから仲間を見つけて、ということを考えていた。
だけど、偶然森でアメリアとカミラに出会って、自分たちの宿に泊めてくれて、仲間になってくれて、いろいろ教えてくれて、たくさん優しくしてくれて。二人には本当に感謝している。
それにヘルミーナと出会ったことでリーンハルトやパトリックたちと知り合うことができて、その結果、ここに屋敷を構えるに至ったのだ。
そんな素晴らしい仲間だから、一緒に暮らすことができるなら嬉しく思う。全部俺の勝手な思いなんだけどね。
だから、屋敷を建てる前に、皆にどんな屋敷が良いか、意見を聞こうと思う。折角なら皆が住みたいと思う屋敷を創りたいと思ったのだ。
「あの、皆さん聞いて下さい。今から屋敷のほうを創るんですけど、皆さんが住むとしたらどんな間取りが良いですか? 参考までに御意見を頂けると、嬉しいです!」
「屋敷の間取りか……。うーん、私はあまり詳しくないから分からないが、日々の鍛錬ができる場所があればどんな所でも良いぞ! それと広いお風呂があるといいなぁ!」
そんな風にアメリアが言うと、次はカミラが意見を言う。
「私は書斎というか、ゆっくり落ち着いて本を読める場所があると嬉しい。それと庭園が眺められる大きな窓があると最高」
カミラは本を読める場所を希望した。
アメリアもカミラの希望も二人のらしさを感じる。
最後にヘルミーナが意見を出してくれた。
「私は錬金術の研究ができる部屋があると良いわね。あと、皆が揃って寛げる部屋なんてどうかしら?」
「なるほど、ご意見ありがとうございます。それでは早速屋敷を建ててみますね!」
皆から聞いた意見を元に屋敷の構造を思い浮かべる。
まず、地下一階にはアメリアの修練場と、ヘルミーナの錬金術の研究室と倉庫を用意する。
多分大きな音が出るだろうから各部屋は防音にしておかないと大変なことになりそうだ。
次に一階は玄関と応接室が二つに執務室、それから使用人の部屋を四つほど用意した。この部屋にはバス・トイレを完備している。
この広い屋敷を管理するにはどうしても使用人を雇わないといけないんだけど……。後でローデリヒに相談してみるのも悪くないかも知れない。
二階にはキッチンと食堂やトイレと風呂場に洗濯機置き場といった水回りを配置してみた。
風呂場はアメリアの希望した五、六人で入っても問題ない広さを確保し、ジャクジーなんかもあると楽しいかも知れない。
それからヘルミーナの言っていた皆が寛げるリビングもこの階に用意する。
リビングからはバルコニーに出られるようにして、カミラが言ってたような庭園が見渡せるようにした。
最後に、三階には皆の部屋とカミラの書斎になる部屋を用意する。
一応、八部屋は用意してみたけど余るようなら後でリフォームしても良いだろう。
ようやく屋敷の全貌が固まったので一気に創造する。
「創造『俺たちの屋敷』……うぅっ!?」
「「「ハルトっ!?」」」
創造を発動した瞬間、今日一番の、空を貫くような巨大な光の柱が立ち上り、その眩い光が景色を真っ白に染め上げて俺たちの視界を奪い去った。
それと同時に、これまでに感じたことの無い立ち眩みに襲われて、俺は力なく膝を付いた。
これってもしかして、神力の使い過ぎによる影響なのか!?
確かに今日は王城でいっぱい創造を使ってしまったし、ヘルミーナの言う通り、ちょっと調子に乗ってやってしまったかもな。そんなことを考えている内に俺は意識を失った……。
・
・
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「うぅ、んんん!?」
気がつくと、俺は宿のソファーの上に寝かされていた。
恐らく今は深夜なのだろう。外の喧騒も既に聞こえず、ただアメリアとカミラのものと思われる寝息だけが静かな部屋の中で聞こえてくる。
「あぁ、また皆に迷惑を掛けてしまったなぁ。それに心配させてしまったかも。もう少し大人として、自覚を持って行動しないと……」
「……ハルト、気がついた?」
声のする方に顔を傾けると、ベッドから降りてきたカミラがソファーに腰を下ろして話し掛けてきた。
「はい……カミラさん。あの後、一体どうなったんですか?」
「ん。ハルトが魔法を使った後暫く眩しくて目を開けられなかった。光が落ち着いてから目を開けると、そこには立派な御屋敷が建ってた。それから、ハルトが倒れているのに気付いて、アメリアにハルトを背負ってもらって急いで金色の小麦亭に戻った。ヘルミーナはそれを見届けてからお家に帰った」
「そうだったんですか……。今日も皆さんにご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません。それから本当にありがとうございます」
「気にしなくて良い。私たちは仲間だから、ね」
「はい!」
「ん。今夜はゆっくり休むといい」
カミラは俺の頭をそっと撫でると、再びアメリアの眠るベットの中に戻っていった。
俺も再び目を閉じて先ほどのカミラの言葉を反芻していた。
そうだよ、カミラ、アメリア、ヘルミーナ。俺たちは仲間なんだ。
仲間の彼女たちが俺のことを心配してここまで運んできてくれた。
なら、俺も仲間の為に何かしてあげたい。
となると、やっぱり早くあの屋敷を完成させないとな!
翌朝、目が覚めた俺は真っ先にアメリアに昨日のお礼を伝えた。アメリアは気にしなくても良いと言ってたけど、どうしても俺の気が済まなかったから。
三人で朝食を取った後、俺は今日の予定を二人に伝えた。
「そういうわけで、今日はあの屋敷で昨日の続きを進めようと思います。昨日で殆ど完成してるんですけど、細かなところが気になっちゃって……」
「分かった。でも、また昨日みたいなことがあると大変だから、私たちも付いていくよ。なぁ、カミラ?」
「当然。ハルトを一人にするのは危険」
「うぅ、何も言い返せないが仕方ないか……。分かりました、よろしくお願いします!」
「じゃあ、ヘルミーナも誘って行こう! 彼女もハルトを心配してたからね」
こうして俺とアメリアとカミラの三人でブルマイスター魔導具店に向かい、ヘルミーナと合流することになったのだが……。
店の前に着くと、以前来たときと比べて何か違和感を感じる。
「なんか前に来たときと雰囲気が違うような気が……」
「それって、もしかしてあれのせいじゃないか?」
アメリアが指を差したその先を見て違和感の正体に気づいた。
「あぁっ!? 看板が無くなってる!」
そう、以前は『ブルマイスター魔導具店』と書かれた看板が掲げられていたのだが、今はそれが下ろされており、ただの民家と言われても不思議ではない趣となっていた。
しかも良く見ると大きく『売家』と書かれた紙が窓辺に貼られている。
俺はヘルミーナの身に何か起こったのか心配になり、急ぎヘルミーナに会いたくて店の扉に手を掛けたのだが、鍵が掛かっているようで扉を開けることができなかった。
「駄目です、鍵が掛かってます! もしかしてヘルミーナさんに何かあったのでしょうか!?」
「昨日別れたときは特に変わったところは無かったけどねぇ?」
「まさか、帰りに何かトラブルに遭ったんじゃ……!?」
いつの間にか三人の間に重い空気が漂い始める。
俺はヘルミーナの無事を確認したくて、彼女を探す提案を切り出そうとした瞬間、店の扉がガチャリと開き、中からヘルミーナが現れた。
「おはよう、皆。どうしたのよ、そんな顔して」
「それはこっちの台詞ですよ、ヘルミーナさん! お店の看板どうしたんですか? それに売家の紙も見ました! 一体何があったんです!?」
そう問い掛けるとヘルミーナは苦笑いしながら、その顛末を話してくれた。
「あぁ、それね。ほら、私ってハルトの弟子になったじゃない。それにハルトがお屋敷とかお店を持つことになったでしょ? そうなると、ここももう使わなくなるじゃない。だから、お店を畳んで売りに出したわけよ!」
「「「えぇっ!?」」」
話を聞くと合理的だとは思うけど、ちょっと気が早くないか?
そんな話をすると、ヘルミーナはフフンと笑ってこう言った。
「ま、アンタの建てたお店と屋敷を見れば、アンタの考えてることくらい何となく想像できるわよ。これから、お世話になるわね、師匠!」
ヘルミーナはそう言うと、アメリアとカミラの元に駆け寄って何やら三人で話し合っているようだった。
恐らく彼女の想像は多分当たっていると思うけど、それでもあまりの思い切りの良さに驚きと少しの不安を感じる。ただ何というか、これはまた俺の責任が重くなるなぁ、なんて思いながら、今後の生活の変化について思案した。
「まぁ、とりあえず、もう一度現場へ行きましょう! 今日中に全部片付けようと思うので!」
「「「おーっ!」」」
俺の掛け声にアメリア、カミラ、それにヘルミーナも加わった三人が乗りの良い声を上げてくれた。
俺たちの屋敷と店舗の準備は始まったばかりだ!
ここまででお読み頂き、ありがとうございます。




