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闘いの結果と説明と

 ゲルヒルデとブリュンヒルデを見つけた俺はリーンハルトたちのところへ急ぎ戻ってきた。


 周りにはイザークと同じ騎士団の鎧を身に纏った連中が整列しており、その中でも壮年で白髪混じりの薄い水色の髪を短く刈り上げた男が一人、前に出てイザークを問い詰めていた。


 何だか騒がしいけど、とりあえず報告を済ませてしまおう。


 俺はリーンハルトとパトリックの前に出て跪き、恭しく礼をして報告を始める。


「リーンハルト様、パトリック様。ただ今戻りました。ゲルヒルデとブリュンヒルデの無事を確認致しました」


「おぉ、ハルト。其方、どこへ行ったのかと思っていたが、ゲルヒルデとブリュンヒルデを探しに行っておったのか!」


「ハルト殿! あのような爆発の中で兄上のゲルヒルデと私のブリュンヒルデは本当に無事だったのですか!?」


「リーンハルト様、ご心配をお掛けしました。しかし、その甲斐あって二人の無事を確認することができました。パトリック様、そのブリュンヒルデですが、先ほどの攻撃の際に少し無理をしたようで、腕に損傷が見られます」


 そう伝えると、パトリックは顔を曇らせて、ブリュンヒルデの安否を気遣うように手を組んで祈るように目を瞑った。


 その時、俺の側からするりとブリュンヒルデが前に出てパトリックの前に出た。


「パトリック……ゴメンよ。アタイ、ゲルヒルデ姉様に負けただけでなく、この庭園まで壊してしまって……。アタイはパトリックに仕える魔動人形失格だ! それに、どんな顔してパトリックの前に出ればいいのか分からなくなって、勝手に逃げて……。アタイにはパトリックの魔動人形は相応しく無いっ! パトリックには、もっと良い精霊がいるはずだ。だから、アタイとの契約を解除するようにハルトに言ってくれないか……?」


 懺悔に近いブリュンヒルデの言葉に、パトリックは一時身を強張らせたが、優しくブリュンヒルデを抱き抱えた。


「ブリュンヒルデ、君は何も悪くないよ。むしろ、私が自分の欲に駆られて安易に命じたせいなんだ! だから、ブリュンヒルデは自分を責めないで欲しい」


「でも……。ほら、アタイはこの通り人形を壊してしまった。パトリックの人形には、もっと大人しい妖精のほうが合ってるんじゃないかって、そう思ったんだ」


「そんなことはない! 私の魔動人形は君だけなんだ、ブリュンヒルデ。それに、今日出会ったばかりじゃないか。魔動人形だって修理すればいい。だから、もう少しそばにいてくれないか?」


「パトリック……」


「ハルト殿! 魔動人形を、ブリュンヒルデを助けてはくれまいか?」


 ブリュンヒルデを抱きながら涙ながらに訴えるパトリックの顔を見れば、誰が断れるだろうか。


「もちろんですとも、ご安心下さい。必ずや、私が修理致しますので!」

 

 俺は胸を叩いて了承した。


 どちらにせよ、ブリュンヒルデは治すつもりだったから問題ない。


 それに、パトリックがそこまでブリュンヒルデのことを思ってくれていることに俺は嬉しくなったのだ。


 すると、リーンハルトが手を打ってパトリックに微笑んだ。


「パトリック、良く言った! 其方もハルトを御用錬金術師とすることを許す!」


「「えぇっ!?」」


 思わず、俺とパトリックは同時に声を上げた。


 突然リーンハルトが、俺をパトリックの御用錬金術師にすることを許可したのだ。今回の勝負にブリュンヒルデが勝つことが条件だったはずなのに、一体なぜ?


「あ、兄上……。本当に良いのでしょうか?」


「あぁ、良い。今の其方なら良いだろう」


「一体なぜです?」


「うむ。今までの其方は自分のことを第一に考えておった。そのような者が互いの信頼を必要とする御用錬金術師を指定することなど到底できぬことだ。だが、其方は自分の欲による行動を責め、そしてブリュンヒルデのことを思ってハルトに相談した。そして、それがハルトにも受け入れられたのだ。その心があれば、ハルトを御用錬金術師にしても問題ないだろう。そう思ってな」


 そんなことを言いながら、リーンハルトが俺にウィンクしてくる。


 恐らく、俺に同意を求めているんだろうけれど……。うん。何度も言うけど男からのウィンクなんて誰得だよ……。


 まぁ、俺もパトリックのことを見直したけどさ。


 最初は自分勝手な子供かなって思っていたけど、そうではなくて単純に欲求に素直なだけだったんだろう。


 それにリーンハルトが上手くやったからか、ブリュンヒルデのおかげか、自分の行動がどれだけ周りに影響するのか良く分かったようだし。まぁ、今のパトリックなら引き受けても良いかな。


 そう思い、俺はパトリックに向かって自分の考えを伝えた。


「パトリック様、リーンハルト様の仰る通りです。それに、私もパトリック様がブリュンヒルデを大事に思われていることは良く分かりました。ハルト・アサヒナは、パトリック様の御用錬金術師になるとお誓いしましょう!」


「兄上、ハルト殿……。ありがとうございます! うぅっ……!」


 よほど嬉しかったのか、ブリュンヒルデを抱きしめながらパトリックは涙して喜びをあらわにした。


 その様子を見てリーンハルトは満足そうにうんうんと頷くし、パトリックはまだ涙を浮かべつつも、花が咲いたように笑顔を振り撒いて皆にブリュンヒルデを紹介してまわった。


「これで一件落着というところかしら? 結局、リーンハルトの思惑通りにことが進んだみたいね」

 

「そんなことはないぞ、ゲルヒルデ。だが、結果としては良い方向に進んだと思う。其方にも感謝しておるぞ。ところで、其方は怪我などしておらぬのか?」


「もう、気遣うのが遅いわよ。大丈夫。ハルトにも言ったけど、ただ泥塗れになっただけよ」


「そうか。後で綺麗にしてやるから、もう暫し我慢してくれよ」


「なら、温かいお風呂を用意して頂戴! ワタシ、一度入ってみたかったのよね。それから、ヘルホーネットの蜜も!」


「分かった分かった、用意しよう」


「やった!」


 リーンハルトとゲルヒルデも会話が弾んでいるようだった。


 これでようやく魔動人形を無事献上できたと思ったのだが、そうは問屋が卸さないらしい……。


「リーンハルト様、よろしいでしょうか。父が少々お話を聞きたいと申しておりまして……」


「リーンハルト様。この度の騒ぎ、一体何が起こったのですか!? 此奴に聞いても要領を得ませんのでな」


 壮年の騎士はリーンハルトに問い掛けながらイザークの頭をゴツっと拳で叩いた。


「うぐっ!?」


 うへ、めっちゃ痛そうだ……。


 イザークは痛みに耐えかねてか頭を抱えてしゃがみ込んだ。


 それを見ながらリーンハルトが応える。


「うむ。私も其方の質問に答えたいのだが、何分先ほどまでの記憶が曖昧でな。恐らく、そこのイザークと同じ程度にしか答えられぬ。しかし、それだと私もイザークと同じように頭を叩かれてしまうだろう、ドミニク?」


「滅相もございません、リーンハルト様。あれは愚息に対する躾のようなものです」


「ふむ。まぁ、それは良いとして。今回の顛末を全て把握しているのはハルト以外におるまい。ハルト、ドミニクに説明してやってはくれぬか?」


 一瞬、「え、俺から?」と思ったが、どうせ今回の顛末を皆に伝えるつもりだったし別にいいか。


 改めてことの始まりからドミニクに説明することにした。


「分かりました。簡潔に申しますと、今回の一件はリーンハルト様の魔動人形とパトリック様の魔動人形との勝負による結果なのです」


「何を馬鹿な、たかが魔動人形にこのようなことを起こせるものか!」


「確かに、普通の魔動人形ならばそうでしょう。しかし、お二人の魔動人形は普通の魔動人形ではありません。この魔動人形は魔力により動かすものではなく、精霊が宿り、精霊自らが動かすものだからです」


「精霊が動かすだと!?」


「その通りです。ドミニク様も精霊が特別な力を持つ存在だということはご存知でしょう。その精霊同士の戦いの結果がこの惨状、というわけです」


「だが、如何に精霊といえど、精霊召喚で呼び出せるような精霊にこのようなことをできる力はないだろう。それこそ上位精霊でもなければ……。まさか、その精霊とは!?」


「はい、上位精霊です。上位精霊の宿った魔動人形、というより上位精霊同士の戦いの結果といったほうが正しいかも知れません」


「な、何と……。リーンハルト様っ! パトリック様っ! 何という危険なことをなさるのですか!? 上位精霊など我々人間などでは敵わないほどの強い力を持っているのですぞ!? お二人もそれはご存知でしょう! それを互いに戦わせるなどという危険なことをされて……。もし、お二人に何かあったならこの国の一大事になっていたのですぞ!? もっと王子としての自覚を持って行動して頂かないと。全く、国王陛下に何とご報告したものやら……」


 えらい剣幕でドミニクはリーンハルトとパトリックを叱る。


 パトリックは肩を竦めて目を瞑り、ドミニクの言葉に耐えているようだったが、リーンハルトは涼しい顔をして聞き流している。


 一通り二人を叱り終えたドミニクだが、今度はその矛先がイザークに向く。


「イザーク! そもそも、お前は何をしていたのだっ! リーンハルト様の護衛についておりながら、何故お止めにならなかった! それで護衛が務まると思っておるのか! この馬鹿者がっ!」


 再びイザークの頭にゴツっとドミニクの拳骨が落とされる。


 やはり、めちゃくちゃ痛そうだ……。


「うぐっ」


「全く、情けない声を出すな! それからユリアン殿にランベルト殿も。リーンハルト様やパトリック様を諌めることも教育係として大事な役目ですぞ! 時には厳しく叱って頂かないと!」


「「はっ、申し訳ございませんっ!」」


 ドミニクの矛先がいつの間にかユリアンとランベルトにまで及ぶ。


 まぁ、教育係として厳しく叱ることも大事だとは思うけど、パトリックはともかく、リーンハルトには逆に諭されてしまいそうなんだよなぁ。そう思うと、ユリアンも大変だよね。


 それにしても、伯爵と侯爵の嫡男の二人がドミニクに対して畏まった様子で接しているところを見ると、このドミニクという人物は彼らよりも上位の貴族なのかも知れない。


「ふむ。確かに多少危険はあるかと思っていたが、こちらにはハルトもおったのでな、少々油断したといったところだ。上位精霊の強さは今回身を持って知ったのだ、今後はそうそう戦わすつもりもない。安心してくれて良いぞ」


「先ほどから気になっていたのですが……。こちらのハルトという少年は一体何者なのですか?」


「申し遅れました。私はハルト・アサヒナと申します、ただの錬金術師でございます。この度の騒動の元となった魔動人形を用意した者です」


「うむ。ただ、ハルトはただの錬金術師ではないぞ。私とパトリックの御用錬金術師でもあるのだ!」


「な、なんですとぉっ!?」


 えらく驚かれたが、そんな反応になるのも仕方がない、のかな?


 その辺りも説明しないといけない気もするけど、流石にそこはリーンハルトにお願いしようと思う。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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