庭園修復と噴水ショー
リーンハルトとパトリックからドミニクに、俺が二人の御用錬金術師になったことを説明してもらい、ようやく納得したのかドミニクが挨拶してくれた。
「挨拶が遅れたな。私はドミニク・フォン・コルネリウス。この国の近衛騎士団長を務めておる。リーンハルト様とパトリック様のことをよろしく頼むぞ」
「はい、精一杯努めますのでよろしくお願い致します」
「コルネリウス家は過去に国王を輩出したこともある由緒正しき公爵家でな。王家とも縁が深く、ドミニクは我が父上の側近の一人でもあるのだ」
リーンハルトが簡単に説明してくれたけど、つまりリーンハルトやパトリックとは遠縁の親戚ってことか。
しかも、国王陛下の側近の一人というからにはこの国の重鎮と言っても過言ではないだろう。ユリアンとランベルトの態度も頷ける。
「それにしても、派手にやりましたな。これでは修復するのに時間が掛かりそうだ」
クレーターを覗き込みながらドミニクが呟いた。
「うむ、時間だけでなく相応に費用も掛かろう。何、これは私が言い出したことだ。私の小遣いから修復に掛かる費用は出すつもりだ」
「兄上、これは私が費用を持ちます。今回の件、私のわがままが元でこのような事態となりました。ですので、私が責任を持って修復費用を出します!」
二人ともそれぞれに責任を感じてるみたいで譲る気はないらしい。
だが、今回の件は俺にも責任の一端はあると思う。
なぜなら、本来なら魔導人形を動かすのに必要な精霊は下位精霊で済むはずだったのに、上位精霊になってしまったのは完全に俺のミスが原因だし、こういうことが起こる可能性にも気が付いていたのに事前に止められなかったのもある。
だから、俺は二人に相談を持ち掛けた。
「リーンハルト様、パトリック様。今回の件、魔動人形を創った私にも責任があると思います」
「何を言っておるのだ、そんなことはないぞ」
「そうです。ハルト殿にはなんの責任もありませんよ」
「ですが、今回の件、本来なら下位精霊の召喚で済んだはずですし、大きな被害が出ることも考えられたのに対策が不十分だったせいでこのようなことになってしまって……。ですので、ここの修復は私に任せて頂けませんか?」
そう切り出すと、三人は一様に驚いた顔をこちらに向けた。
彼らが口を開くよりも早く行動に移すことにする。
「ハルト、今何と言った?」
「私は土魔法が使えますし、図書館で『土魔法による建築と設計の真髄』なんていう本も読んだことがありますので、問題ありません。いきますよ、土魔法『隆起』!」
土魔法『隆起』はその名の通り地面を隆起させるだけの魔法だが、これでひとまずクレーターは無くなった。
次にフリードリヒ・オットー氏直伝の石造りの床を作る為の土魔法『石床』を使う。
オットー氏は建築専用の自作魔法を創り上げたのだが、非常に分かりやすい名前で覚えやすいのが特徴だ。決して安直などと言ってはいけない。
通路の整備ができたので噴水を設置するのだが、残念ながらオットー氏の著書には噴水に関する記載がなかった。
だから、ここは『創造』で噴水を創り出すことにする。
「噴水はちょっと凝ってみようかな。そうだなぁ、せっかくだしゲルヒルデとブリュンヒルデの戦いをモチーフにしたものにしよう! 創造『噴水』!」
クレーターになっていた場所に噴水を創り出す。
イメージは以前ネットで見かけたヴェルサイユ宮殿の庭園にある噴水だけど、周りに飾る像はリーンハルトたちをモチーフに、中央には戦闘で守るゲルヒルデと攻めるブリュンヒルデの像を建てる。
一定時間毎に勢いよく水が吹き出して戦闘の激しさが再現され、夜になればライトアップされる現代的な仕様にした。我ながら見事なでき栄えだ。
最後に、周りに散らかっていた土砂や噴水の破片を土魔法『岩土操作』で移動させてアイテムボックスに仕舞い込む。
これで作業は一通り完了だ。
「リーンハルト様、パトリック様。修復作業が終わりました。こんな感じでいかがでしょうか?」
「ハ、ハルトよ、其方今何をしたのだ!?」
「はい、土魔法の応用で穴の空いた所を隆起させて地ならしを行い、その後同じく土魔法で石の床を作り、最後に噴水を作ったのですが、何か気になるところがありましたか?」
「気になる所だらけではあるが、それよりも、其方が最後に集めた土や石の山を一体何処にやったのだ!?
アイテムバッグといえどあれほどの量を収めることができるものなどそうはない」
あぁ……。思わず人前でアイテムボックスを使ってしまったが、それにしても、流石はリーンハルト、なかなか目ざといな。
「まぁ、それは企業秘密ということで……。それよりも、この噴水の出来栄えはいかがですか? ほら、この辺りの像は皆さんがモチーフになってるんですよ。ご自身の像を見つけてみてはどうですか?」
「むう……。まぁ、今日のところは引き下がることにしよう。噴水の出来栄えについては全く文句はないが、それにしても先の戦闘をモチーフにするとはな」
「この噴水を見る度に今回の件を思い出すことになりますし、リーンハルト様とパトリック様には良い薬になりそうですな!」
ドミニクは笑いながらそう言ったが、確かにリーンハルトやパトリックに対しては気分の良いものではなかったかもしれない。
「リーンハルト様、申し訳ございません。そのようなつもりではなかったのですが……」
「いや、気にするな。ドミニクの言う通り、この噴水を見て反省することにしよう。それにしても、ハルトはこんなものまで作ることができるのだな。私やパトリックの像もさることながら、ゲルヒルデとブリュンヒルデの像も素晴らしい出来栄えだ」
「ありがとうございます。ほら、もうすぐ噴水ショーが始まる時間ですよ」
「噴水ショーだと?」
皆が噴水のほうに注目すると、円を描くように湧き出ていた水の柱が少しずつその勢いを強める。
同時にゲルヒルデとブリュンヒルデの像も戦闘を再現するように動き出し、動きに合わせて周囲から激しく水の柱が立ち上がる。
そして、周りのリーンハルトたちの像がゆっくりと回り始めた所でゲルヒルデの上に移動したブリュンヒルデの像から勢いよく水飛沫が上がると、一気に噴水の水柱は最も高い位置まで伸びる。その高さは王城の屋根にまで届くと、暫らくして一連の動作が終わり、元の噴水へと戻っていった。
皆、呆気に取られているようだったが、俺自身としては思っていた通りに噴水の仕組みが動作してくれたので内心ホッとしていた。
「皆さん、どうです? なかなか見応えあって面白いでしょう?」
「ハルト、其方は全く……。全く、とんでもないものを作りおって!」
くつくつと笑いながらリーンハルトが俺の肩をぽんと叩いてくると、パトリックも駆け寄ってきて俺の手を取ってぶんぶんと振る。
「ハルト殿、今のは一体なんですか!? あのような仕掛けが付いた噴水は初めて見ました! 全く素晴らしいです! これは新たな王城の名物となるでしょう。ドミニクもそう思うでしょ?」
「え、えぇ、確かに。このようなもの、他にはございませんからな。しかし、ハルトといったか。其方は一体何者なのだ。殿下からお聞きした錬金術や光魔法を操るだけでなく、土魔法をも使いこなすとは……」
「ふふふ、見たかドミニクよ。我が『友』、ハルトの実力を!」
「「友!?」」
いつの間に友達になっていた!?
「何故、其方が驚くのだハルト。先ほどの爆発の際に、其方が私をこう呼んでくれたではないか。『リーンハルト』と。それに、あの二人の戦いに巻き込まれ、倒れた私を気遣い回復薬を飲ませてくれた其方は命の恩人、謂わば戦友も同然。ならば、私が其方を『友』と言っても問題はなかろう?」
言っていることは格好良いんだが、何故か顔を赤らめてそんなことを言うもんだから、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。
「兄上がそう仰るなら、ハルト殿は私の親友にもなりますよね。よろしくお願いしますね、ハルト殿!」
パトリックまで恥ずかしそうな顔してそんなことを言い出す。
しかも、俺の腕を取ると嬉しそうな顔でこっちを見てきたので、つい親戚の子をあやすように頭を撫でてやった。
すると、リーンハルトが反対側の腕を取ってパトリックと何だか言い合っていたが、もう放っておくことにした。
「何と、リーンハルト様とパトリック様に共通の御友人が……。ハルト殿、リーンハルト様とパトリック様のことをよろしくお願い致しますぞ!」
「え? あ、はい」
「これは何ともめでたい! 後ほど両陛下にもお知らせしなければ……」
ドミニクの言葉に妙な引っ掛かりを覚えたが、まぁいいか。
とにかく、何だか良く分からないけど王族の友人が二人もできた。
リーンハルトは年齢に見合わず聡明で大人顔負けの鋭さがあるけど、たまに抜けてるところもあってなかなか面白い子だし、パトリックは自分の気持ちを素直に伝えられ、そして他人の意見を受け入れられる良い子だ。
正直、友人というよりは親戚の子供たちと接するような気持ちになるのだが、それも追々変わってくるのかも知れない。まぁ、そう思うのは未だにこの子供の身体に精神が追い付いていないからかもしれないけれど。
「ところで、ハルトよ。其方には私のゲルヒルデだけでなくパトリックのブリュンヒルデや庭園の修復に、あの噴水まで作ってもらい、本当に感謝しておる。そこでだ、其方には褒美を与えようと思うのだが何か望みはあるか?」
「兄上の仰る通りです。これは兄上と私からの褒美ですから何なりと言ってください! ブリュンヒルデやこの噴水を見れば白金板五枚以上の価値があることくらい分かりますからね!」
そんなことをリーンハルトとパトリックが二人して言い出した。御礼か、それは構わないがそれにしても白金板って確か……。そう、以前カミラから教わった価値観だと、確か一億円だったよな。それが五枚だから五億……。五億!?
「いえ、そのような高額な褒美を頂くわけには参りません! 錬金術や魔法で創っただけのものですし、元手も掛かってませんので……!」
自分の能力だけで作ったものをそこまで評価してもらえるのはありがたいが、時間も金も掛かっていないものにそこまでの褒美をもらうわけにはいかないと思ってそう伝えたのだが、リーンハルトが呆れたようにため息をついて、厳しい表情で口を開いた。
「ハルトよ。今の其方の言葉は全ての錬金術師と魔法使いを否定する言葉だ。彼らは自分の能力で生み出される物や事に対価を得ることで生活しておる。其方も錬金術師ならば分かっているだろう。そして、其方の能力で生み出されたゲルヒルデやブリュンヒルデ、庭園に噴水は大変価値のあるものと私やパトリックが認めたのだ。ならば、素直にその対価として褒美を受け取るのが筋であろう?」
リーンハルトからそう言われると、俺は何も言えなかった。
確かに自分自身の能力で生活している人たちがいるし、その能力に価値を見出す人がいてそれに対価を支払う。生前の世界だってそうだったじゃないか。
ならば、それが例え高額な報酬であっても、素直に受け取って良いんじゃないか? そう思い直した俺は素直に褒美を受け取ることにした。
「申し訳ありません、リーンハルト様。決して錬金術師と魔法使いを否定したわけではありません。ただ、パトリック様からお話頂いた褒美の金額が余りに大きかったため驚いてしまい、思わずお断りしてしまった次第です。ただ、リーンハルト様のお話を聞いて考えを改めました。リーンハルト様とパトリック様からの褒美、ありがたく頂きたいと思います」
俺はリーンハルトとパトリックの前に跪いて二人にそう伝えると、リーンハルトは『うむ』と微笑み、パトリックはニコリと笑った。
「それで、ハルトはどのような褒美を望む?」
俺は予てから考えていたことをリーンハルトとパトリックに相談することにした。
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