第22羽 カラス狩りしてみた
ノーン渓谷まで全力疾走で向かう。途中モンスターやら商隊やらがいたがスルーだ。今回は計画通りに事を進めたい。イレギュラーは前回でこりごりだ。
『あれGランクのモンスターですよ!』
『早く戦らせろよ!』
『商隊の方々に挨拶の1つもせずに通り過ぎるとは何事ですか!』
などと頭の中で色んな声が聞こえて来たが無視だ。特に先生の話は長いから付き合いきれん。
渓谷の入り口までは大体1時間程だった。朝練から始まりかなり体力を使った気がするが不思議と疲労感はない。この世界での体力の概念はHPとMPなのだ。
渓谷と言うだけあり、道もかなり複雑で迷ってしまいそうだが、オレには空間魔法がある。更に情報魔法まで加わりマップ情報から確認出来たモンスターの情報が頭に入って来る。
この付近はかなりモンスターの種類が多いようで膨大な情報が頭になだれ込み、酔いそうになる。必要な情報を粗方頭に入れて情報魔法の発動は控える様にしよう。
空間魔法で立体的に形を捉えられるので、ある程度の形から大体どんなモンスターかは把握出来る。
さて始めるか…
20メートル上空に小さな群れの姿が確認出来る。情報魔法により全てのスカイ・クロウのレベルを確認。一体だけレベルの高いのがいるからおそらくこの群れのボスだろう。木に射線は阻まれているがオレには関係ないな。
越境弓撃
十分に加速した矢が、突然死角から出現し群れの中の一体が絶命する。突然のことに群れも何が起きたのか分かっていない。魔石をそのまま回収するためスカイ・クロウの真下から矢が出現するように調整済みだ。
続く第2射
今度もタイミングは完璧だ。強い個体から叩いていく戦法は間違っていなかったようだ。予期せぬ攻撃とボスを失った影響で群れはパニックに陥っている。スカイ・クロウ達は空中でぶつかり落下してくる。
かなりの数が落ちたようだ。空中の奴らは放置して地上の敵を叩く。
地面に落ちた影響で死なないまでも瀕死のダメージを負っている。これなら魔力コントロールだけで十分すぎるな。
スカイクロウと目が合ったが瀕死のアイツらが睨んで来たところで怖くはない。落ち着いて倒す。
日本にいる時に殺生はしたことなど、もちろんないが、不思議と罪悪感がないものだ。生命のやり取りをしているので、そんなものを感じる余裕はないが容赦のなさに自分でも驚いている。
ものの10分程で8体まとめて倒した。MPの消費も30程度で、レベルまで上がった。ステータスボードでの上昇分と合わせれば実質MP消費なしで倒したも同然。めちゃくちゃ効率的だ。
この後、同じ様にいくつかの群れを同じ手法で倒していき、30を超えたところで昼ごはんを取り、小休止したところで、再度狩りを始める。
途中で熊の様な姿をしたDランクモンスターがいたが、食事中だったので気付かれる前に逃げた。炸裂弓撃であれば、もしやと思ったが危険はおかしたくない。
日も登り切ったところで矢の消費が激しく、今日のところは切り上げるかと最後の標的に目星をつける。
ちょうど小さな群れが真上にいた様で、こいつらに決めた。視界良好。小さな群れだし、ボスを倒したら、このまま下から普通に射ろう。
越境射撃
死角からの強襲。いつも通りモンスターの急所に命中
するはずだった。
ヒュン
矢が空を切る音が聞こえる。
「は???」
何が起きたのか理解が追い付かない。鳩が豆鉄砲食らったような気分だ。それと同時にスカイ・クロウの群れ全てからのヘイトが上がる。
「ヤバい完全に見つかった。」
一目散に退散する。見つかってしまっては今のオレでは群れ相手に戦う術がない。幸いにもここは渓谷。隠れる場所ならたくさんあるし、奴らは小規模な群れだ。視認できたのも7羽ほど。余裕で逃げ切れる。
木や茂みに身を隠しながら進む。どうやら巻いたようだ。
しかし、完璧に躱された。完全に死角だったはずだし、タイミングも転送位置もバッチリだったはずだ。
となると…
越境弓撃が完璧に見切られた。という事か…
あの群れの中にそんなに強い個体はいなかった。ボスのレベルも14くらい他の群れよりも少し強い位だ。空間魔法で周囲を索敵済み。あいつ以上の個体もいなかったはずだ。弓の威力・速度はあくまでオレの腕の問題だからな…レベル14のスカイ・クロウにはチート地味た空間魔法を使ってもオレではまだ通用しないと言うことか。
1つ勉強になったな。
『妙ですわね…』
そんな中でサファ先生は思案顔だ。顔が何処にあるのかは分からないが、雰囲気で何となく、そんな感じだ。
「サファ?何か気になることでも?」
『いえ、今までのミヤビさんが倒したスカイクロウの動きから考えるとレベル14とは言え、あの動きは異常です。まるで攻撃が来る事が初めから分かっていたような動きでした。』
「いや確かにあの場所は見通しは良かったが、それにしても急に死角から出現する弓矢だぞ?分かっていたとして、初見でタイミングを完璧に読み切れるはずがない。」
『私もそう思いますが、妙な胸騒ぎがします。』
胸が何処にあるのかは…(以下省略)
「あぁ、オレも嫌な予感がする。早い内に今日は帰るとするか…」
マズい予感がするので、今日はこれで切り上げだ。50体はスカイクロウは狩ったので明らかな乱獲だ。稼ぎは十分。レベルも10まで上がったのでかなりの収穫だ。
再度見つかる前に動くとしよう。
上空から見つからないように出来る限り木の下を通り移動していく。迷わないように空間魔法のマップは広げておく。慣れてきたので片手間に展開できる。
移動していくとスカイクロウの群れがマップに表示される。上空ではない、正面からだ!
「は??何でだよ!!」
茂みに飛び込み回避する。スカイクロウは周囲を散開して飛び回っている。これは確実にオレを狙っている。
と言うかさっきより数が増えていないか?
これだけに留まらずマップ上に新たな群れが出現。これに加わる。
「おいおい、まさかな…」
『ここまでの群れがいる事は私の情報にもありません。情報を書き換えなくては。』
『これかなりやべぇんじゃねぇの?』
マップ上がスカイクロウだらけになっている。茂みの中で息を殺して、この群れが去るのを待つ。まだ見つかっていないようだが見つかるのも時間の問題かもしれない。
スカイクロウたちは目星をつけたのか辺りの木の枝を羽による斬撃で切り落としだした。
地面に突っ伏しているが、見つかるのも時間の問題だ。見つかればこの数…範囲攻撃を持たないオレにこの群れを突破する手段はない。
が、手段が無ければ、今作れば良い。
『マリン、パースを呼んでくれ。』
昨日の反省を受け、マリンとサファから精霊たちの能力を確認した。まだキャパ的に全員との契約は出来ないが状況に応じての契約していこうと思う。
『ええ、分かりました。パース出番ですよ!』
『頼んだぞ、パース契約だ。』
パースと呼ばれたのは黄金の翅を持つ精霊だ。あっという間の出来事だが。オレの右腕の契約紋に黄金色が加わった。
オレは矢先に魔力を込めて放つ。
しかし、これも見切られたように躱される。
正直言ってまだオレの弓の腕はヘナチョコだ。正面から射ったところで少しレベルの高い魔物なら躱すのはそう難しくはないだろう。
余裕を持って躱された矢はスカイクロウの群れのすぐ後ろの木に刺さる。
「今だ!」
瞬間、矢が刺さった木から轟音と共に黄金色のスパークが迸る。
スパークは木の周りに居たスカイクロウを伝播し、一帯を包み込む。これで倒しきれるほどの威力はまだないが、相手を感電させ麻痺させることが出来る魔法だ。
雷電地帯
矢の刺さった対象とその付近に雷電を伝える。消費魔力によって伝播の範囲は調節できる。
雷の側撃雷を参考に考えた技だ。的に当たればそれで良いし、外しても近くの障害物に
当てる事で周囲の敵にも伝播する。
倒すまではいかないまでも確実に動きを止める事は出来る。今の一射で木の周りにいた15羽程のスカイクロウが沈んだ。しばらくは動けないので、後でゆっくりと倒すとしよう。
次だ。雷電地帯を連続して放つ。
あちこちから轟音と雷鳴が鳴り響き、カラスどもの叫び声が響く。晴れ渡った空には不釣り合いな光景が広がっている。
数分後、周囲にいるスカイクロウはほぼ落とせただろう。
飛んでいるものはほとんどおらず、地面では大量のスカイクロウが身体を痙攣させている。
「お疲れ様、パース助かったよ。」
『そんなことないってミヤビ。これ位ヨユーだから。でも中々刺激的な状況だったわね。ビリビリ来ちゃった。』
パースは黄金色の翅を羽ばたかせ、身体を小刻みに震わせている。
「ここまで上手くいくとは思わなかったけどな。と言うか何体いるんだこれ?100羽近くはいるんじゃないか?」
『そうなんです。おかしいんです。スカイクロウは小規模の群れを作りますが、せいぜい10羽前後。100だなんて聞いたことがありません。』
「たまたまデカい群れだった…なんて訳はないよな。」
かなりの異常事態の様だ。サファの情報でも分からないなら考えても仕方ないことだけは分かる。落ちてる奴らを倒して行きたいが、危険な香りがするので、ここは帰ろう。戦果は十分だ。
地面に伏しているスカイクロウ達を置いて去ろうとした時、不意に空間探知に一体の敵影が捕捉される。凄まじい速度で迫ってくる。
『ミヤビ上です!!』
「分かってる!」
マリンの警告と同時に横っ飛びをする。敵が地面に激突するのでは?と言う勢いで通過していく。少し掠っていたようだ。レザーグリーブが切れている。
地面には抉れた跡が真っ直ぐに伸び砂煙が舞っている。
「この群れのボスの登場ってか?」
砂煙のせいで視認は出来ないが、空間探知+情報魔法で敵のステータスが脳に飛び込んでくる。
スカイクロウ (変異種)
レベル 42 ランクC
HP 286/286
MP 113/126
攻撃 201
防御 159
魔攻 178
魔防 165
敏捷 215
スキル
光魔法
「は、ハハ、ハハハハハハハハ」
乾いた笑いしか出てこない…こんなのに目つけられてたのか…とてもじゃないが勝てる気しないな、逃げるのも無理そうだ。本当に死んだかもな…
「みんな悪いな、オレ死んだわ…」
周りの精霊たちに声をかける。状況は絶望的だ。単純なステータス差で明らかにオレの手に負える相手でわないのが分かるからだ。
砂煙が晴れていく。絶望が死の恐怖が姿を現していく。
!!!
「白い、カラス」




