29.またしてもホラーです。
そんなこんなで何やら決意を固めたらしい亀田が帰って行った。
こと、うータンに関わるとトコトン残念になりがちな亀田だが、私の心配げな表情に笑顔を返した彼は何だか頼りがいがある男性に見えてしまい、ちょっとだけドキリとしてしまった。
そこで漸く思い出した。そうだ、仕事場での亀田課長は文句なしに頼れる人間だったんだって。
今日は不安でグルグルして、ひょっとして眠れないんじゃないかって思ったのだけど……亀田に会えて胸の内を聞いて貰ったら嵐の夜のように体の中に吹き荒れていた風も凪いでしまった。そうだ、あの『亀田課長』が請け負ってくれたんだからもう大丈夫だ。なーんて思えて来るから不思議だった。
「うータン!亀田って結構頼りになるよねぇ?ブラッシングも上手だし」
リラックスして床に寝そべるうータンに、ヘッドスライディングばりに飛びついて撫でまわしながら私は語りかけた。
はぁ~~やっぱ、うータンの毛皮が一番!
癒されるわぁ~~。
翌朝、すっかり昨日のモヤモヤをリセットした私は、足取りも軽く会社に向かった。すると課の入口前の廊下で、バッタリ亀田と遭遇。私は満面の笑顔で挨拶した。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう」
そこはかとなく亀田の口元も緩んでいるような気がして、何だかウキウキしてしまう。いっつも怖い顔ばっかりしていないで、職場でももう少し素の亀田を見せれば良いのに。そんな事を考えつつ亀田とすれ違い、営業課に足を踏み入れようとしたところで……廊下の向こう側に立っているホッソリとしたシルエットに気が付いた。
「……ひっ……」
其処に立っていたのは、三好さんだった。
思わず小さく息を呑む。
三好さんは全くの無表情でこちらを見ている。あまりにも表情が無さ過ぎて、綺麗なマネキンに見えるくらいだ。亀田は背を向けていたので気付かなかっただろう―――思わず私の脚は止まってしまい、お互い何となく見つめ合ってしまう。
「お、おはようございます……!」
震える声で少し距離のあるその人へ挨拶した。
すると三好さんはハッと意識を取り戻したように人間らしい表情を取り戻し―――ペコリと頭を下げたかと思うと、クルリと踵を返しその場をあっという間に立ち去ってしまった。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。
亀田に請け負って貰って、それで全部終了したような気分になっていたけど―――ひょっとして全然大丈夫じゃないかもしれない。
過ぎ去ったかとばかり思っていた嵐が―――再びブーメランみたいに私の胸に再上陸したのだった。




