25.ありました。
「か、課長……」
「酷い猫背だ」
そう言って亀田課長は振り向いた私の背後から両肩を掴み、ビシッと背筋を伸ばす様に力を込めた。
「ひっ……うっく」
背筋がぐいんと伸ばされて、ゾゾゾっと滞っていた血流がめぐり出した。呻いた後「はぁ~」と溜息を漏らした私を見下ろしていた亀田課長は、ニコリともせず尋ねた。
「何かあったのか?」
「え?」
「酷い顔で溜息吐きながら歩いているから……」
「課長……」
『酷い顔』って、若い女性(課長よりはね!)に掛ける言葉の選択肢としては限りなく不適当なんだけど。あ、さっきも言われたな『酷い猫背』って。ヒドイヒドイ言い過ぎだよ。
でも心配してくれたんだっていう事実が嬉しくて、ひび割れた心にじんわりと温かさが染み入って来る。感動しつつ背の高い彼を見上げ正面に向き直る。目の縁からウルウルと涙が滲みそうになったが、次の台詞を聞いてそんなものは直ぐに引っ込んでしまった。
「もしかして……うータンに何かあったのか……?!」
瞬時にシラッと……頭が覚めて、半眼になってしまう。
私の機嫌が急降下したのを感じた亀田課長は、サッと蒼くなった。
「お、おい……一体、一体何があったんだ……!」
両肩を掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。
私は冷たい目で動揺する亀田を見やり、無言の抗議をその視線に籠めたのだった……。
そうして何故かまた、週末でも無いのに亀田は私のアパートに足を踏み入れている。事情を話すならその辺のカフェでも良かった。何なら自販機で飲み物買って、立ったまま話したっていい。
だけど何となく亀田の期待している視線を躱せなかったのだ。
「何か買ってくか……?タイメイ軒でオムライスでも」
覚えたての私の好みを口にして―――こんな風に下手に出られると、すげなく断るのは無理だった。
何故家に来るのが前提になってるんですか?とか、私の話を聞くのってもうただの口実で、あなたうータンに会いたいだけですよね?とか……そんな台詞が頭を過ぎったが……結局口に出せずに萎んでしまった。
だって私ももう限界だったのだ。
消耗し過ぎてウサギ成分を補充しないと―――耐えられなかったんだもの……!!!




