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舞踏会





夢見る少女が憧れるような豪華絢爛な舞踏会は、今の楓…いや、『マリアンヌ』にとっては針の筵のようだ。突き刺さる視線にはまるで好意的な色はない。

煌びやかなドレスを身にまとっても弱い心は剥き出しのまま、自然と視線が下を向きそうになる。




「俯くな」




バシン、と曲がりそうになる背中を叩いて叱るような鋭い声が後ろから飛んできた。楓は反射的に背筋を伸ばし、一呼吸おいてからゆっくりと振り向く。

そこには癖のある長い黒髪を緩く束ねた、異国情緒あふれる装いの美しい男が立っていた。切れ長の瞳は隠しきれない熱を帯びており、その眼差しに囚われればどんな女性も心を動かされるだろう。

男は楓に静かに歩み寄り、楓の目の前で跪くと彼女へ捧げるように片手を差し伸べる。周囲の人々はその光景に誰もが息を呑んだ。




「俺の手をとれ、マリアンヌ。決して後悔はさせない」


「ナウファル…」




彼は『マリアンヌ』として生きるにはどうしていいかわからず、妹にも両親にも会わずただ引きこもってばかりだった楓に、初めて手を差し伸べてくれた人だった。

塞ぎ込んだ様子を心配したメイドのリズに連れられ、別荘近くの湖のほとりで出会った彼に、楓は出会った一瞬で心を奪われてしまった。彼が今どうしてここに居るのかはわからないけど、手を取らない選択肢は楓にはなかった。




「エスコート、してくれるの?」


「当たり前だ。誰にもお前の隣を譲るものか」


「…貴方の迷惑になりは「くだらない事を考えてる暇があれば早く手をとってくれ。いい加減この体勢は疲れるんだ」




うんざりした顔でこちらを見上げるナウファルの表情に慌てて楓は彼の手を掴んだ。すると流れるような動作で彼は立ち上がって楓の手をすくい、自分の腕に絡めるように誘導する。満足いく体勢が整うとニヤリと笑い、そのまま寄り添うように中央へ歩みを進める。




「ナウファル、どこへ行くの?」


「決まってるだろう。踊るぞ」


「私、まだ上手に踊れないわ!」


「あれだけ練習したんだ、自信をもて。今日ばかりは何回俺の足を踏んでも大目に見てやるさ」




屈託のない少年のような笑みを浮かべる彼に見蕩れ、反論しようとする気持ちはどこかへ飛んでいってしまった。そのまま楓にとっては初めての舞踏会でのダンスを、恋しい彼と共に誘われるままに踊り始める。






悪魔とまで称され蔑まれていた美しい少女と、この場において少女以外の誰もが名を知っている大国の美しい王子は、手を取り合いくるくると楽しそうに踊っている。人々は御伽噺から飛び出たかのような美しい光景に、ただ目を奪われるのであった。



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