アフターケア(手遅れ)
…さて。
勢いで飛び降りちゃったけど、この後どうしよう?
無惨に切り刻まれる哀れなヒロインこと勇者様を放って、さっさと帰っても良かったんだが。救われない魂はさておき、肉体くらいは安らかにと割り込んでみたはいいが…まさか初っ端から頭を吹き飛ばされるとは。
首なし状態は正直自分でも初めての経験なので、きちんと身体が元に戻るのか不安でならない。悪魔に任せればなんとかなる、はず?不安だ。すっごく不安だ。なんか面白い頭とか装着させられたらどうしよう。というか頭がないのに考えたり喋ったり一体どんな仕組みなんだマジで。周りも驚いてるようだけど本人が一番ビックリだわ。
大混乱の脳内でも、存在しないはずの口はちゃんと動いてくれるようで、どうにかこの微妙な空気をノリと勢いで誤魔化そうと試みる事にする。
「魔王様の今のご心情は全くちっとも察せないし興味もありませんけど、ほら、ナオミ様、こんなとこに転がしてちゃ可哀想じゃありません?別にお邪魔をするつもりはなかったんですが、どうしても彼女を静かな所で眠らせてあげたくて…よろしいですか?」
「…お前は、一体、何者だ」
「ただの村人Aですよ、お気になさらず」
「ただの村人が、どうしてナオミと同じ魔力の匂いをさせている?」
「匂いって、犬じゃあるまいし。でもまあ、そうですねえ」
…やっぱり気付くか。こういうファンタジー世界だと悪魔パワーもわかりやすくてバレるらしい。神官様ですら気づく事をラスボスたる魔王が気づかない訳ないだろう。陰ながら二人の逢瀬を助けつつも、直接遭遇しないようにしてたのはこうなるのを防ぐ為だ。魔力なんて自分でもよくわからんもの、隠したくても身体の何処かに切替スイッチでもない限り意識的には不可能だ。
魔王は既に虫の息だが、追い詰められた獣のようなギラギラした眼差しで此方を睨んでいる。自らの血で汚れ、薄汚い床に這いつくばりながら、息を切らしている様子ですらゾッとするくらい美しい。顔がいいってお得だ。そんな魔王の様子を横目に私はゆっくりと勇者様の亡骸に近寄ってしゃがみこみ、手を伸ばして彼女の顔の汚れを袖で拭う。
「んー…まあ、強いて言うなら、彼女の幸せを願った神様の使い的なアレです、はい」
「………なら、何故、今、ナオミを助けなかったんだ?」
目に見えるんじゃないかという位の、きっつい殺気を向けられたってお門違いというものだ。
「え、だって彼女、もう幸せになってたでしょう?」
わざとらしく首を傾げようとしたが、途中で首がないのに気づいて止めた。かけてない眼鏡の位置を直そうとした時みたいな気恥ずかしさを感じたが、誰にもバレていないと思われるのでそのまま話を続ける。
「ナオミ様は貴方に幸せだって、言ってたでしょう?ナオミ様は幸せになりました。めでたしめでたし。何の問題があります?」
「…しあ、わせ?…これ、が…?」
「そもそもですね魔王様。根本から間違ってるんですよ。幸せになるのをサポートするまでが私の仕事です。幸せを掴み続けるのは本人の努力です。人の心は簡単に変わってしまうのに、神様の愛は永遠だなんて、随分とまあ見た目に似合わず乙女チックな方ですね」
神様ではなく名称としては糞悪魔が正しいんだが、概ね仕事内容としては間違いあるまい。なにやらショックを受けたような顔をされたが、別段そう厳しい事を言ったつもりもないんだが。
どうして一時的に手に入ったものが、明日も明後日も無条件で手に入れられるだなんて思うのか。幸せな人間がずっと幸せでいられるだなんて、そんな夢物語でも信じていたのだろうか。
固まる魔王をスルーして粗方勇者様の汚れを拭うと、彼女をゆっくりと抱き上げ立ち上がる。んー、何処に埋めようかしら。
「…俺は、一体、何処から間違えた?俺の、何がいけなかったんだ…?」
背後で呟くように魔王が何処へともなく問いを投げかけてくる。私は外へ向かう足を止め、振り返らずに言葉を返す。
「…まあ、私は他人の思想や選択にどうこう言える類の人間ではないのですが。私なりのアドバイスを一つ」
これはまあ、うん。魔王は悪くない。私の今の心情は借りたDVDが外れだったので文句を言いたい客の心情に近い。今から吐き出す台詞は完全に八つ当たりだ。他人事だけど、否、他人事だからこそ。
勿論この魔王に限った話ではなく、恋愛小説に出てくるヒーローやヒロインにたまに見かける現象だとわかってはいるんだが。
「中途半端すぎるんだよ、このヘタレ野郎が」
「……………は?」
「本気で欲しい女なら世界全部を敵に回しても、自分の物にしちゃえば良かったんだ。自分じゃダメだと思うなら二度と会わなきゃ良かったんだ」
自分では幸せに出来ないと嘆く癖に、会いに来る。愛してると言う癖に、攫ってくれない。諦めようにも諦めきれず、ただただ想いが募るばかり。立場とか過去とか生き方とか、ごちゃごちゃした面倒な物があったとしても、それでも。
「愛してるんなら、手放すべきじゃなかった。愛せないんなら、ちゃんと突き放すべきだった。どっちつかずの結果がコレだよ魔王様」
他の誰かを愛する事も出来ず、愛した人を切り裂く運命を嘆き、誰にも守ってもらえず無残にも息絶えた少女の亡骸を魔王に突き付ける。
君の幸せを願う、だなんて綺麗事だ。まして自身を殺せと願うなんて言語道断。乙女心を何だと思ってるんだ全く。
言葉を失った魔王がどうなろうと知った事か。世界を滅ぼそうと自殺しようと勝手にすればいい。途中から完全に空気と化していた勇者様の仲間達の横をすり抜け、出口へと向かった。
どうせだし、景色のいい所に埋めてあげようかな。にしても今更だけど、ヒロインって死んでも死体がちゃんと残るんだな。悪魔の作った身体だし、消えちゃうのかと思ってた。
なにはともあれ、今回のお仕事も終了だ。掘って埋めて一服したらとっとと帰ろう。




