ラスボス戦2(後編)
ふと、自分の人生を振り返ってみた。
酒の肴にもなりやしない、ありきたりな喜劇の話を。
俺はどこにでもいる平凡な村人の一人だった。
心優しい家族や友人が居た。結婚を考えていた好いた女も居た。
それら全てをなくした切っ掛けはほんの些細なことだ。
城で勇者選定の儀式が行われるらしいと、何かの話のついでに友人が俺に教えてくれた。
俺はその日にたまたま城下町への買出しがあったので、度胸試しのような気持ちで城へ向かったのだ。
もちろん、俺のような村人風情に勇者の剣が抜けるだなんて思っちゃいなかった。
ただ、話のタネにでもなればと、それだけだったのに。
「おお!勇者様!!勇者様が現れたぞ!!!」
「勇者様!」
「勇者様!!」
「勇者様!!」「勇者様!!」「勇者様!!」
勇者の剣が、抜けてしまったのだ。
俺はそれから瞬く間に勇者へと祭り上げられた。
故郷へ別れを告げる間もなく、早々に魔王討伐へと放り出された。
ろくな装備もなく、剣の心得がある訳でもない俺が勇者だって?一体全体これは何の冗談だ。
逃げようにもパーティーメンバーの監視が常時あり、少しでも逃げ出そうとする度にズタボロにされる。
お飾りの勇者として散々引き摺り回されたあげくに、死に物狂いで強くなり、どうにか魔王を倒して城に戻ってきた暁の報酬は冷たい殺意だけだった。
薄々わかってはいたんだ。強過ぎる力なんて平和な時代になれば望まれやしない事なんて。
俺を殺したいのなら好きにすれば良かったのに。
もうその頃には自分の命なんてどうでも良かったのに。
なんで、どうして、
「貴様のような化物を生み出した村なんぞ根絶やしにしてやったわ!貴様に帰る場所なんて何処にもありはせん!わっはっはっ!!」
どうして。
気づいたら俺は城中の人間を皆殺しにしていた。
たくさんの人間を殺し、街を幾つも滅ぼし、気づいた頃には俺は魔王と呼ばれるようになっていた。
その後国で一番力のある魔法使いが命をかけて俺を封じ込め、そうして世界は平和になった。めでたし、めでたし。
「なにそれ!全っ然めでたくない!」
どうして。悪は滅びた。平和になった。何がいけない?
「めでたくないよ!だってそれじゃあ、貴方の幸せはどうなるの?」
悪い奴は幸せになっちゃいけないだろう?
「そんなことないよ!誰にだって幸せになる権利はある!」
…。
「…ごめん。そんな困った顔しないでウーヴェ」
…なあ、ナオミ。
「なあに?」
ナオミは、今、幸せか?
「…うん!私、すっごい幸せ!」
そうか。
「ウーヴェと出会って、幸せだよ!」
…そうか。
刹那の逢瀬の中で、俺とナオミは色々な話をした。
俺の何気ない問いに幸せだとナオミは笑ったが、多分きっと、その時幸せだったのは俺の方だった。
碌でもない俺の人生を、悲しんだり怒ったりしてくれる人がいる事に、どれだけ救われたことだろうか。
その時にちゃんとナオミに伝えておけば良かったんだ。
俺の人生には後悔と憎しみばかりだったけど、お前と過ごした時間は確かに幸せだったんだって。
「ナ…オミ」
狂ったように何度も何度もナオミに刃が突き立てられる。
ナオミはその度に身体を震わせるものの、指先すら動かす事もままならない。
「魔王などに惑わされるなど私の愛するナオミが汚されてしまった許さない汚らわしい気持ちが悪いああナオミを綺麗にしなくてはナオミを救わなくてはナオミナオミ愛してます愛してます愛してます愛してます愛して愛愛愛いあああ!!!!」
わけのわからない言葉を喚き散らしながら、神官服の男がナオミにナイフを突き立て続ける。
華のように笑うナオミはもはやピクリとも動かない。
俺は本気でお前になら殺されても構わなかったのに。
お前がずっと幸せでいられるなら、俺は平和な世界を許す事が出来たのに。
ああ、
もういい。
もうたくさんだ。
皆死んでしま「はいストーップ」
俺が魔法で神官服の男の首を吹き飛ばす直前に、真上から落下してきた人物が着地の勢いそのままに男の頭に回し蹴りを叩き付けた。男はそのまま壁まで吹き飛び、壁にぶち当たると変な角度に首が曲がったまま動かなくなる。
「呼ばれて飛びててジャジャジャジャーン。皆のアイドルキャロ、っ」
誰だろうと関係ない。迷わす首から上を吹き飛ばす。
「うっわ、ビックリした。おいおい、せっかちな男は嫌われるよ?」
首なし死体はごく自然にその場で起き上がり飄々と肩を竦めながら此方を窘めた。
………は?
「おいお前はどこから声出てるんだとか野暮なツッコミはノーセンキュー。概ね気合と根性と愛と勇気とかそんな感じ。まあ初めましてよろしく魔王様」
首なし死体はペコリとお辞儀をする。
俺は何故だかその瞬間首なし死体が顔もないのに笑ったような気がした。




