表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/67

信仰








結婚の経験はないが、鬼姑と同居する新妻ってこんな気分なのかしら。




警戒心が残っていたメンバーにもなけなしのコミュニケーション能力で馴染んでいったんだが、それに比例するかのように神官様の嫌がらせがエスカレートしている気がする。

同行にオッケーしたわりに冷たいのは、まあ性格だろうから良しとしよう。呪われた人間なんか神官様にとっては穢らわしいんだろうし。

だが頚動脈ギリギリをナイフが掠ったり、戦闘中後ろから聖魔法ぶっぱなされるのは違うだろうよ。殺す気か。いや、死んでるんだけど。







ヒュン







「…っ!?し、神官様!私また何かしましたか!?」


「…いえ。手が滑っただけですよ」


「おい、ロベルト!キャロルに嫌がらせするのもいい加減にしろよ!可哀想だろ!」


「…黙りなさい筋肉ダルマ。貴方の大声が頭に響いて迷惑です」


「んだと…!?」





一触即発の空気に慌てて勇者様が飛んでくる。





「もう!二人共喧嘩しちゃダメじゃない!」


「だってナオミ!」


「…失礼します」






神官様は勇者様と視線も合わさず部屋から立ち去る。

追い掛けようかと迷う勇者様を制し、筋肉ダルマに押し付けてそのまま神官様を追った。

私の勘違いでなければ、勇者様が出てきた途端に神官様が一瞬で青ざめたように見えた。赤くなったんなら魅了効果だろうが、青いとなると…私の勘が、当たってるといいんだけど。

というか外れてるとただのイベント妨害になってしまう。今回はライバルポジションのつもりはないから出来れば遠慮したい。




宿屋から出ると神官様の後姿が人混みに紛れて遠くに見えた。追い付いてしまわないように細心の注意を払って尾行をする。

神官様の足取りはどことなくふらついていて、あまり体調が良くなさそうだ。




ふらふらと覚束無い足取りのまま辿りついたのは人気のない寂れた教会だったので、ああそういやコイツ神に仕える身だった、ナイフ振り回すだけの怪しい奴じゃなかった、なんてことをちらと思った。

教会に入ったのを見届けると、少し間を空けてからゆっくりと教会に近寄り、あまり足音を立てないようにまずは教会の周りを一周する。扉の形状や窓の数、建物全体の構造なんかをザッと頭に叩き込んだ。





入口に戻って出来るだけ音のしないようゆっくりと扉を開けるも、やはり古びた扉のせいかギィと嫌な音が鳴った。恐る恐る中を覗くと奥に熱心に祈りを捧げてるらしい神官様の背中が見える。此方に気付いているのか、いないのか、振り返る様子はない。






「…神官様」





声を掛けても全くの無反応だった為、カツカツと足音を響かせながら神官様に近寄る。なにやらボソボソと呟いている様子だが、相当近付かないと聞こえないくらい小声だ。

少し近寄った段階で微かな異臭に気が付いた。神官様の足元をよく観察すると吐瀉物らしきものが見える。あ、やっぱりヒロイン連れて来なくて良かったわコレ。






「神官様」



「…し…て…」





近くまで寄ってしゃがみこみ、顔を覗き込むと目の焦点が合っていなかった。顔面蒼白でカタカタと震えておりどう見てもヤバいです本当にありがとうございました。





「神官様」





肩を揺さぶるとそれが引金になったのか、ピタリと震えが止まり、その直後唾を飛ばす勢いで叫び出す。





「…あ、あア、ああアあアア!!!女神様の声が聞こえナい!!!どうして!!!どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてええエええ!!!私は女神様に生涯を捧げると誓ッタのに!!!違う私はナオミが嘘だ愛してる穢らわしい吐き気がする麗しの女神様違う愛して欲しいどうしてどうしてどうしてあアアアあああッッ!!!!!」




「神官様」





頭を掻き毟りながら絶叫する神官様をそっと抱き締めると、またピタリと黙り込む。息を荒らげて眉を歪めてなんとも苦しそうだ。魅了効果と信仰の狭間で気が狂いそうなんだろう。ああ、なんて可哀想に。

…今この瞬間の私の顔、悪魔にそっくりなんだろうなあ。すげー嫌だなあ。






「なんで、神様の声が聞こえないか教えてあげましょうか?」





耳元でゆっくりと囁く。





「神官様にとっての真の女神様は勇者様だからです」


「メガ、ミ…ナ、オミ…?」


「ええ、ナオミ様が、貴方の女神様です。世界に祝福された勇者様が貴方の本当の救い主です」


「ナ、オ…ミ」


「大丈夫です。苦しいのも辛いのも、ぜーんぶ女神様が、ナオミ様が救ってくださいます」





背中をさすりながらも、ゆっくり、ゆっくり、確実に言葉を吹き込んでいく。

信仰対象のすり替えなんて上手くいくかわからんが、まあ、ここまでぶっ壊れてたら何とかなりそうかな。




呼吸が落ち着いたのを見計らって宿屋に戻るのを提案した。神官様は黙り込んでいたものの先程より落ち着いているようだ。目は完全に死んでるが。

教会から出る直前、吐瀉物の片付けをしていないのに気付いた。戻るのも面倒なので心の中だけで謝っておく。









何から何までごめんなさいね、女神様。

あいにく、我が家は無宗教。敬う気持ちは燃えるゴミと一緒に一昨日処分したんだよ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ