青空と紫煙
てーれれっててー
神官は やんでれに 進化した!
やりすぎた、と反省していなくもない。嘘だけど。
いや、なに、今まで神官様には散々嫌がらせされていたけれども、私は心から彼に幸せになって欲しいと思っている。
…ヤンデレの幸せって最終的には殆ど心中一択な気もするが。
とても楽しそうにしている神官様の背中を横目に欠伸を一つ。
空を見上げると今日は雲一つない青空で、吐き出す煙と空の青色とのコントラストを眺めながらしみじみと煙草を味わう。
薄汚れた木箱の上は安定感はあるものの些か情緒が足りない。安酒でもあれば格好がつくんだが。
現実逃避はそろそろこのへんでいいだろうか。
人通りの少ない路地裏といえど、先程から悲鳴が抑えきれてないせいでそろそろ人が寄って来そうだ。
「神官様ーそろそろ宿に戻りましょうよー」
「…は?何を言っているんですか貴女は。この薄汚い屑野郎は身の程知らずにも私の愛しいナオミの肩に触れたんですよ?吐き出す息すら肥溜めの臭いのするゴミ虫風情が清らかで麗しく触れる事すら躊躇う程尊いナオミに…ッ!」
ナンパ目的ならまだしも、通りすがりで肩がぶつかった程度でここまで罵倒されるなんて可哀想すぎる。
世の中にはこういうキチガイもいるので、ただ外歩くだけでも気を付けなきゃいけない。なんとも物騒な世の中になったものだ。
放って帰ってもいいんだがこれ以上無駄に犠牲者が出るのも偲びない。なによりもうすぐ煙草が吸い終わってしまう。レッツ最終兵器。
「早く帰らないとナオミ様が心配しますよ」
「……………そう、ですね。仕方がありません。ナオミに心配をかけるわけにはいきません」
神官様は名残惜しそうにナイフで切り裂いていたそれを無造作に地面に放り出した。
ピクピクと動いちゃいるが、放っておけばそのまま天に召されるだろう。神官直々の天の国へのお見送りとはなかなか気が利いている。
「あ、神官様返り血やばいんで表に出る前に浄化した方がいいですよー。ついでに私もお願いしまーす」
「…何故私が」
「血の臭いプンプンでナオミ様に接触していいなら、別にしないでいいですけど」
「………チッ」
堂々と舌打ちしながらも浄化魔法をかけてくれる神官様。これが…噂のツンデレか…!
また血の臭いが移る前にさっさとその場から立ち去る事にする。
一応立ち去る直前にこっそり建物の裏口らしき扉を蹴り飛ばしておいた。
扉の向こうからこちらに近寄る人の気配がしたので、血だまりに沈む彼が幸運な男ならきっと助かるだろう。まあ、モブの生死までは正直私の知ったこっちゃないんだが。
表通りに出ると先程までの陰鬱な雰囲気が嘘のように通りは活気に満ちている。
こちらをまるで気にしない素振りで歩く神官様の後ろを見失わない程度に追い掛ける。
吸殻を捨てる場所をさり気なく探しながらも、前を行く神官様の全く緩まない足取りにほんの少し溜め息が零れた。
現在滞在中のこの町は魔王城に一番近い町だ。
そのへんの道具屋の店員すらレベルは70を余裕で超えている。べ、別にレベル32でも悔しくなんてないんだからね!
まあヘボい私はともかく他のメンバーのレベル的には充分対魔王戦に挑めるだろう。
…実際のところ、今は魔王よりもこの神官様のヤンデレ具合の方が面倒くさい。
勇者様は許容しようと頑張っていたようだが、明らかに最近は眼に恐怖が混ざり始めている。
それもそのはず、勇者様に近付く野郎共は問答無用で天国へと御案内というなんともアグレッシブな信仰心を常時発揮しているからだ。どれくらいアグレッシブかと言うと、パーティーメンバーが三途の川を日帰り旅行しに行った位。流石に一般的な女性はドン引きだろう。
勇者様が誰と結ばれたいんだかおおよその目安はついているが、確実に神官様が邪魔になるだろうしほど良いタイミングで排除もしなければ。
急に勇者様がヤンデレに目覚めるかもしれないし、暫くは様子を見ながらになるだろうけど。
いやあ、それにしても。
あっちの屋根付近では青空に映える真っ赤なドラゴンが逆さ吊りになってるし、そのへんのお店に最強クラスの武器がセール商品で並んでるし、さっき横切った子供が推奨レベル50以上のボスモンスター引きずってたし。
この町の住人総出で魔王退治に行ったら勇者様とか要らなかったんじゃないか。マジで。




