虫食い
虫の羽音のような雑音が、止まない。
景色はまるで虫食いのようにところどころノイズがかかっていて、此処が何処かさえ上手く認識出来ない。
ブブブ、ブブブという音で頭が掻き乱されて思うように思考が進まなくて苛立つ。
「■う■■■■■で■■■r■■■■?」
「■■■」
目の前に佇む顔の抜け落ちた誰かに話し掛けられると、内容もわからないまま私の口が勝手に動いて返事を返す。自分の口から出た言葉すら何を言っているかもわからない。
まるで顔がわからないので、これが誰かもさっぱりである。体型から察するに恐らく女性だろうか。
「■■■■t■■■す■■■」
「■■■■■■」
…これは、それ程特別な内容の会話ではないのだろう。内容は全くわからないが、何故だか直感的にそう感じた。
とりとめのない日常の、記憶する意味もないくらいどうでもいい話題の会話だ。一般的な記憶力の持ち主ならすぐ忘れてしまうだろう。
多分きっと、欠伸が出る程くだらなくて、忘れ去ってしまえる程些細で、明日も明後日もまた話の続きが出来ると思い込める位には平和だった筈だ。
だけど私■は、
明日は、来な■った。
特別■約束もなく、■別な別れ■なく、あ■きたりで唐突なさ■ならを■■■に贈っ■。
覚醒は電化製品のスイッチをパチンと押す感覚に似ている。もっと言うとパソコンの電源の入切に近いかな。切る時は電源ボタン長押しの強制終了のような…逆に分かりづらいか。
本来は24時間フル稼働でも動けるんだが、せっかくベッドも設置してる事だし睡眠の真似事位は良しとしよう。普段の習慣は損なうと調子が狂うし。
シャワーをサッと浴びて素早く髪を乾かし、いつも通り化粧で顔色を誤魔化そうと鏡の前に立つ。鏡を覗き込んで違和感に気付いた。
「なんだこれ?」
目がやけに赤い。意識するとどことなく目蓋が動かしづらいような気もする。とりあえず手近にあったタオルを濡らして絞り目元を冷やした。
まるで泣き腫らした後みたいで少し恥ずかしい。というかこの身体で涙なんか出るのか。いや、まて、既に目が赤いという事は出たのか?なんにせよ、珍しい出来事だ。死人は夢なんて見ない筈なのに、知らぬ間に悪夢でも見たんだろうか。
なにはともあれ貴重なシチュエーションなのでいそいそと携帯を取りに行き、ピースしながら自撮りした物を悪魔に送ってみる。
1、2、3。
送った3秒後には物凄い勢いでメール着信音が鳴り出し、そして鳴り止まなくなった。途切れたと思ったら着信音が鳴るという状態に少し引く。まるでメールを開く気にならない。
ひとまず、携帯はそっとしておいて登校の準備を整えよう。
さあ今日は何して虐めてやろうかな。




