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戸惑い





フローリングの床に汗だくで触れる瞬間のあの不快な感触を、そういえば暫く感じていない。

ツルツルの床を乾いた足で撫でながらそんな事を思う。

冷たいような、ぬるいような、微妙な感触だ。



急に電源が付かなくなったモニターを適当に分解しながら床に煙草の灰を零す。床に座り込んでしまっているので、立ち上がるのが酷くめんどくさいのだ。

灰皿を手元に持ってくるのを忘れたため、さっきからポロポロ灰が落ちっぱなしだ。後で片付ける方がめんどくさいのもわかってはいるんだが。








〜♪







「ん?」




唐突に設定した覚えのない着信音が鳴った。また悪魔に勝手に変えられたらしい。

お馴染みの3分音楽に急かされるようにテーブルに近寄り、煙草を消すと同時に電話を取る。




「へいへい」


『ハロー!キティ、元気かい?』


「ウルトラマン並には元気かな」


『タイマーの残りは大丈夫?』


「あと3秒位で切れそう」




くだらない会話を交わしながら踵を返して作業に戻る。スピーカーに変えて携帯を近くの床に置くと、ドライバーを持ち直した。




『キーティ、今何してるのー?』


「……………分解?」


『…あのねえキティ。一応言っておくけど、元の形に組み立て直せない程壊すのは分解じゃなくてもはや破壊だよ?』


「マジか。じゃあ破壊だわ」


『うわあ』




悪魔にドン引きされるあたり自分でも相当だと思う。分解してる途中で既に気付いていたんだが、いつの間にかネジが二三個足りなくなってる上に重要そうなパーツも二三個歪ませている。

此処から組み立て直す位ならどう考えても買い直した方が早そうだ。だが一度始めたからには最後までバラさねばなるまい。




『不器用なのに凝り性だよねえキティ』


「可愛いだろ?」


『もちろんさ!!』





半ば予想はしていたもののそこまで全力で肯定される正直と引く。





『ねえキティ?ヒロインと一緒じゃなくていいの?』


「サボリです」


『上司に言う言葉じゃないよね!?』


「おういえー」


『いえー!』





細かく細かくパーツを分解しながら適当なノリで返事を返す。

心配しなくとも現在ヒロインこと相原さんが生徒会メンバーとのドキドキなお出掛け中である事は確認済みだ。途中まではモニターで監視出来ていたが、そのモニターが急にぶっ壊れたんだから仕方無い。ヒロインが現在それとなく生徒会長に矢印向けてるせいか、はたまた私が配備しておいたモブ勢のおかげか、生徒会長は全力で妨害を受けていたようでなによりだ。あの調子なら今日中にヒロインとどうこうなるのはほぼ不可能だろう。





『本当に今回は容赦ないねえキティ!』


「そりゃあ恋のライバルですから」


『うんうん、でも、ちょーっとやりすぎじゃない?』


「そ?」


『普通の女の子なら心ボッキボッキだよ!』


「ボッキボッキだなんて…マスター…」


『セ、セクハラじゃないよ!僕は無実だ!!』


「なとど、被告人は供述しており…」


『弁護士を、誰か弁護士を呼んでくれ!』


「だが断る」


『くっ…キティの外道!ドS!大好き!』


「知ってる」





何故か全くわからないが一瞬作業の手が止まったが、特にどうという事もない。そもそも容赦ないなんて悪魔の台詞じゃないだろうに。

というか虫の死骸を素手で投げ捨て、怒り狂った親衛隊共に囲まれて満面の笑みを浮かべる猛者相手にどう手加減しろというのか。メンタルをゴリゴリ削って生徒会長に慰めさせた方が生徒会長への好感度が上がるだろうと、ライバルらしく頑張っているにも関わらず全く効いている気がしない。あの子なんなの?オリハルコンメンタルかなにか?












…まあ、でも、そんな図太い彼女とやりあってる内に

自分でも少し、楽しくなってるような、気も。











『…ねえキティ』


「…んー?」


『いいんだね?』


「…なにが?」


『覚悟は、出来てるのかなあって、ね』


「なんの覚悟?」


『わかってるでしょ?』


「さっぱり」





…一瞬手が震えたのも恐らく気のせいだろう。まさか寒い訳でもあるまいし。

悪魔はそれ以上その話題を続ける事もなく、適当な話をしてからそのまま通話を切った。

分解しきった後のただのガラクタを足で壁際に寄せ、懐に手を突っ込むと取り出した煙草に火を点ける。








本当に、全くもって、これっぽっちも何の事だかさっぱりだが…嫌な予感しかしない。






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