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恋の鞘当て





恋のライバル、なんて聞くとどうしてもオホホなお嬢様が頭に浮かぶ今日この頃。一度そんな感じのキャラで通した事もあった気がするが、自分の中で定着させるにはメンタルポイント的な何かが足りなかったんだろう。



なにはともあれ、障害が多い程燃えるのが恋の炎というものだ。つい先日までは会長と大っぴらにお付き合いをしていたので、会長や他の生徒会メンバーの周りにいるのも特に違和感なく出来ていたのだが…残念ながら別れ話をクールに承諾した今現在は必要最低限の接触以外は避けるべきだろう。なんてったって未練がましいのは唐沢まどかのキャラじゃないのだから。



こんな動きづらい立ち位置に来る羽目になったのは断じて私のせいではない。親衛隊のような追っかけポジションなら脇目も振らず堂々とストーキング出来たものを、どこをどう頭がいかれたのか魅了も使ってなかったというのに私に告白してきた会長が全ての元凶である。まあ、過ぎた事に関してどうこう言ったって仕方無いんだが。解せぬ。







「唐沢、さん?」







教室で文庫本を読みながら一人で夕日を浴びていると、なんのイベントフラグか知らないが何故かヒロインの相原馨が入口から顔を覗かせていた。






「…私に何か用事?」


「え、あ、ううん。別にそういう訳じゃ」


「なら話しかけないで貰える?」






此方の冷ややかな視線に彼女は僅かに躊躇したようだったが、踵を返すでもなくそのまま教室内に足を踏み入れてきた。

相原さんの席は後ろの方で、私の席からは少し離れている。流石にジッと見詰めていると不審に思われるだろうと、何事もなかったかのように本に視線を戻した。

後ろでガサゴソと机の中を漁る気配がするが、スルー。





「…ねえ」


「………」


「唐沢さんが、私に嫌がらせしてるってホント?」


「…会長も、相原さんも、よっぽど私を悪者にしたいみたいだね?」





無視するのも面白くなさそうなのでパタンと本を閉じて椅子に座ったまま振り返ると、彼女は怒るでもなく悲しむでもなく、凛とした瞳で此方を見ていた。

無表情の彼女に対してこれみよがしに鼻で笑いながら肩を竦める。出来るだけ馬鹿にした態度に見られれば幸いだ。





「相原さんは確かにムカつくけどね、わざわざ嫌がらせする程暇じゃないよ」


「ふー、ん」





…へえ、そう返してくるか。

ちょっとは逆上してくるかと思ったんだが、いやに冷静だ。此方の反応を事細かに観察している様な素振りを少し面白く思う。私と同じく成人してるのに堂々と制服を着てるだけある。並大抵の図太さじゃないな。





「…ごめんね、変な事言って。なんでだかわかんないけど…唐沢さんじゃないかな?って思ったの。なんとなく」


「なんとなく?」


「うん」




名誉毀損も甚だしい台詞に思わず聞き返すと悪びれる事もなく彼女は頷いて、そして見惚れる位不敵に笑った。





「なんとなく、嫌がらせしてる人とは結構仲良くなれそうだったから。もしかしたら唐沢さんかな?って」


「なに、相原さんってドエム?」


「まっさかー。ノーマルだよノーマル」


「嫌がらせされてるのに仲良くしたい、って時点でドエムでしょうに」





クスクスと楽しそうに笑う彼女に釣られてか、なんとなく此方の気分も高揚しているのを感じる。ポンポンと会話のキャッチボールが続く相手はなかなかに好ましい。但し悪魔は除く。





「だって仲良くなれそうなだけで、したい訳じゃないし」


「なるほど、わかりやすい」


「でもそっか、唐沢さんじゃないのかあ」






相変わらず見覚えのない顔、見覚えのない声だが、確かに彼女とは気が合いそうだ。なんせこんなピリピリした場面でこんなにも素敵な笑いを零すんだから。







「ざんねん」







普段は人畜無害な様子を見せるくせに、まるで獲物を狩り損ねた餓えた肉食獣のような顔を覗かせた。

ヤバイな、この女。気を抜くと此方が喰われかねない。








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