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ツンデレ乙








「あれ、今日は胡桃は本借りないの?」


「うん」


「用事なかったんなら先に帰ってても良かったのに」


「悠と一緒に帰りたかったの!」



きゃるんと可愛らしい笑みを浮かべて、胡桃は腕を絡ませてくる。そのへんのバカップルなんて目じゃない密着具合だ。とてもやわらかいです。何とは言わないが。



「貸出よろしく、佐伯」


「ああ」



貸出カウンターまで近付くと胡桃は押し黙り、無言で佐伯を見つめている。佐伯はその視線に気付いているだろうに、何も反応を返さず事務的に処理を進めていた。

揺さぶりでもかけてみるか、とわざとらしく首を傾げて声を発した。



「…なに、お前ら。いつもの口論はどうしたの?なんか悪いもんでも食べた?拾い食いはダメだろ拾い食いは」


「ひ、ひろいぐいなんてしないもん!」


「なんで最初に連想するのがそれなんだ!」


「いや、えー?だってどう考えても変じゃん?喧嘩でもしたの?」


「べ、べつにい」


「何もないが」



はい胡桃アウトー。誤魔化す気があるならもっと気合い入れようね。視線逸らして声ひっくりがえしてたらどんな馬鹿でもわかるからね。

佐伯も表情には出てないけど手元危ういから気をつけてくれよ。そんなに重い本じゃないはずなのに、物凄く手がプルプルしてるよ。

2人とも顔がかなり赤らんでるあたり、わかりやすすぎて不安になる。大丈夫かコイツら。将来悪い人達に騙されるんじゃないか。



「…まあ、馬に蹴られる趣味はないから深く突っ込まんでおくわ」


「ななななに言ってるのかな悠は!別にわたし佐伯君の事なんてなんとも思ってないもん!ぜーんぜんかっこよくないし!」


「それはこちらの台詞だ!俺はこんな馬鹿女には欠片も興味なんてない!」


「はいはーい、ツンデレ乙。あと図書室ではお静かに」



他の利用者の苛立ち混じりの視線を背中に感じて、頭を掻きながら二人を宥める。二人セットにしておくと埒があかないようだったので、本を受け取ると腕に引っ付いた胡桃を引き摺るように図書室を出る。

ズルズルと廊下を歩いているとぎゅっと腕に力が入ったのに気づき足を止めた。




「ん?」


「…ばかっていわれた」


「馬鹿な子ほど可愛いって言うだろ。大丈夫だ」


「…佐伯君、きっとあたまのいい子が好きなんだわ」




悠みたいに、となんとも悲しげな表情と共にそんな言葉を零す。以前寝言は寝て言えと返したのをもう忘れてしまったようだ。確かに胡桃の頭は良くないだろう。


というかあんだけ全力で背中を押したのに、まだくっついてなかったのかコイツら。

慰めるようにポンと軽く胡桃の頭に手を乗せた。




「安心しろ、胡桃を好きにならない男なんていないよ」


「佐伯君は他の人とは違うもの」


「私の言う事が信じられない?」


「だって…」


「…そうやって胡桃がうだうだしてる間に他の女にかっ攫われるかもなあ」


「!」


「恋は早い者勝ちだよ、胡桃ちゃん」




元々胡桃は見た目通り軟弱でひ弱だが、自分の大事なものに対しては頑固さや粘り強さを見せる。あと、そうだね。猪突猛進まっしぐらな行動力も。

少し煽ってやるだけでまん丸の眼に火が灯る。いいねえ、形振り構わず本気で頑張れるのは少年少女の特権だ。




「…悠。わたし、忘れ物を取りに行ってくるわ」


「あいよ。幸運を祈る」




衝動のままに図書室へと駆け戻る背中を見送る。…さて、そろそろ良いだろうか。周りを見回すと廊下にはそこそこ人影が残っており、派手に動くには向いていないようだ。

胡桃に追い付いてしまわないよう、慎重に図書室へと戻ると隣の準備室の鍵を壊して扉を開き、するりと身体を滑り込ませる。運悪く古典担当の先生が居たので、口を開く前に気絶させた。スタンガンちゃん大好き。


灰皿代わりにコーヒーの空き缶を拝借して、煙草に火をつける。準備室と図書室を隔てる扉に背中を預け、欠伸混じりに彼女の告白を聞いていた。








ああ……………またコレか。文句なしのハッピーエンド。仲良しこよしのカップル誕生だ。会話を聞く限りこの調子ならすぐキスも済ませるだろう。いつもと同じ、何の困難もなく順調な流れ。誘導してんだから当たり前の話だが、毎回毎回同じパターンだといい加減飽きてくる。


悪魔に逆らう趣味はないが、たまには違う流れがあっても面白いのに。…あれ、もしかして悪魔の性格の悪さ移ってきてるのかコレ。うっわ、最悪。




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