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放課後にて







恋がしたいの。

甘くてほわほわで砂糖菓子みたいな恋が欲しいの。

ねえ、わたし、あなたと恋がしたいわ。







歌うように紡いだ言葉に似合う、砂糖菓子みたいな可愛らしい少女が笑う。

しかし少女の瞳の中にあるのは恋の熱ではなく、悲しい程に虚ろな光だけだ。




「うそつき」


「嘘じゃあないわ、ほんとの、ほんとよ」




愛を囁いた相手に鼻で笑われて不快に思ったのか、幼子のように少女は頬を膨らませてみせる。

少女といっても見た目からして15歳かそこらの年齢だろう。しかし年齢に似合わない幼い仕草は妙に少女の雰囲気に馴染んでいた。




「自分がどれだけうそつきかって、なによりお前自身が一番わかってるだろうに」


「…そんなことないわ。わたし、ほんとに、悠がすきよ?世界で一番だいすきなの。…信じて、くれないの?」


「信じないとは言ってないよ」




拗ねるのを通り越して落ち込み始めた少女の頭を、悠と呼ばれた相手がぐしゃりと片手でかき混ぜる。悠がそのまま開いた本のページを捲りながら片手間に少女の頭を掻き回し続けていると、あまりにしつこいせいかバシリと少女に手を払われた。鬱陶しげに顔を顰めながらも悠はそこで初めてようやく少女に視線を向ける。





「…信じないとは言わないけどね、薄っぺらい愛の言葉に価値なんてないだろーに」


「その言い草はあんまりよ、ひどいわ」


「そりゃあすまない」





悠がヒラヒラと手を振りながら軽く謝罪を返すと、余計怒りが煽られたのか少女は机を叩きながら不満をアピールする。人も疎らな放課後の図書室だからといって利用者がまだ残っている中で少女が雑音を立てるので、悠は慌てて唇に指を当て静かにするよう少女を窘めた。図書委員からの迷惑そうな視線がこちらに向けられているのに気付いていたからだ。





「悪かったってば。ほら、しぃー」


「むう」





流石に他人に迷惑をかけてまで騒ぐ気はなかったようで、少女はそのまま不満げな表情で押し黙る。悠は一つ溜息を吐くと本を閉じ、少女に向けて苦笑いを零した。








「だって、そもそもさあ胡桃。お前、別に同性愛者じゃないだろ?」


「悠ならイケる気がするの…!」


「そんなとこでチャレンジ精神発揮しなくていいから」




悠と呼ばれている、少女と同じ制服を着た骸がもう一度溜息を吐いた。恋に憧れ、恋を欲し、恋に溺れたいと願う少女がまさかの男性恐怖症だなんて、ついてないにも程がある。




「というかいくらなんでも男がダメだからって、近場で妥協しようとしないの」


「二次元なら男の子だって怖くないのになあ…」


「残念だったな。此処は三次元だよ」


「三次元の男の子なんてみんなイヤラシイもの…!」





ふわふわの淡い髪の毛、まんまるお目目、ぽってりとした唇、文句なしのバスト、抱き締めたくなるほど小柄な体型。誰もが羨む程に可愛らしい女の子、胡桃は、頭の中も限りなくお花畑だった。きっと赤ちゃんはコウノトリが運んでくると信じているんだろう。とにかく男の欲望に敏感で嫌悪感を覚えるらしい。





「きっとそのうち胡桃にピッタリの男の子が見つかるさ」



「…いないわよ、そんなの」




だが残念。此処はヒロインの望みに一番近い世界だ。必ず少女に相応しい少年が現れるのはもはや決まっている話だ。そして少女と少年が恋に落ちるのもまた、既に決まっている話なのだ。




「…」




無言でもう一度くしゃりと少女の頭を撫でると、悠は再び本を開き読書に戻った。今回もサポートが面倒そうだな、なんて気持ちを胸の奥に仕舞いこんだままで。




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