休日そのに
「ねえねえキティ!『口説き文句』対決しようよ!」
仕事に出掛けていない期間は基本的に鳥籠かソファーが私の定位置だ。大抵は何をするでもなく煙草を吸いながらぼーっとしたり寝そべったりしているのが日常だが、悪魔の思いつきによって急にそれが崩される事も多々ある。まさに今回のように。
「ルールは?」
「照れた方が負けだよ!」
なるほど。
「永遠に終わらないゲーム、か…厨二病的な響きがビンビンするな」
「始まる前から諦めたら試合終了だよ!」
「そうだな、私の不戦敗だな」
そもそも悪魔(外道/装備:スマイル)とゾンビ(無関心/装備:無表情)でそのゲームをする事で一体どんな意義が生まれるというのだろう。ときめきでも生まれるというのか。そんな展開になろうものなら私は生まれる前のそのなにかに手を掛ける事も厭わない。具体的には悪魔の首をへし折りたい。
こちらの殺意が含まれた視線も華麗にスルーして悪魔は勝手に話を進める。
「じゃあ僕からいくよー?『君の瞳に、乾☆杯』」
ぐっ…!
コイツ、決め顔に加えてウインクまでしやがった…!言ってて恥ずかしくないのか!?照れるというかこちらの居た堪れなさが半端ない!!
「……『キミ以外いらない、他の誰でもないキミだけを愛してるよ。ねえ、僕のモノになって?』」
「今度君に言ったげようかキティ?『食べちゃいたいくらい大好き』」
「マスターが言うと比喩じゃなく食べちゃいそうでやだなあ…『毎日朝起きて一番早くに、君におはようって言いたいな』」
「そう来る?『お前の味噌汁が毎日飲みたい!』」
「表現がいちいち古いんだよマスター」
もちろん当初の予測通り終わるはずもなく、だらだらと適当な台詞を交互に交わしてはツッコミを入れる流れを繰り返す。ふと自分の番になった時に頭を過ぎったものがあったので悪魔に向かって軽く手招きをした。不思議そうに首を傾げながら寄って来た悪魔にずいと手を差し出す。
「なあに?」
「包丁でいいや。ちょーだい」
「…?はい、どうぞ!」
何処からともなく取り出した包丁を右手に渡されたので、そのままそれを握り締めてテーブルに近寄った。高級感漂うテーブルに傷を付けるのは申し訳ないが、多分3時間後位には修復されてそうだから良しとしよう。
「よいしょっと」
「…ああ、なるほどね!」
「『口説き文句』だろ?『貴方だけをお慕いしております、これがその証に御座います』」
テーブルをまな板代わりに切り落とした左手の小指を放る。髪切りも爪剥ぎも、指切りだって構わない、だなんて昔の女の情念は恐ろしいことだ。
「いいねえ!いいねえ!美しい和の心だ!キティ最高!」
「どうも。ときめいた?」
「存分に!」
「じゃ、私の勝ちで」
悪魔も私も全く照れてはいないが、そろそろ飽きてきたので終わりにしたいのが本音だ。私以上に飽きっぽい悪魔も同感だったのか、特に反論することもなく降参した。
「あ、指、戻してマスター」
「ええー!?キティの愛の形だよ!?もったいなーい!」
「現代だと愛の形よりはケジメの形だろ」
主に恐いオジサマ達の間で。いや、現代でも実際は少なくなっているという話だがそれはともかく。
「暫く愛でたら返してあげる!」
「はあ…」
パーツ単体で愛でられるのはいつものことだが、いつも以上にテンションが高いので少し不安になる。切り落とした指に熱い口づけまで送ってやがるし。
…いや、まあ、ないとは思うんだけど。
うっかり、それこそうっかり、さっきの台詞じゃないが食べられでもしたらどうしようって…大丈夫、だよね?




