お疲れ様会リターンズ
「お疲れ様でしたー!」
ジャジャジャジャーン!と妙に聞き覚えのあるSEと共に悪魔がクラッカーを鳴らした。パンッと子気味いい乾いた音がしたのに飛び出たのはべったりと粘着性溢れるナマコ複数匹だった。ナマコはそのまま私の顔や肩にべちゃりと音を立てて衝突したので、その殆どを無言で床に落とした後に頭の上に残っていた最後の一匹を悪魔の顔面に投げ返した。
「うわっ」
「マスター、もしかしてこの流れ定例化させるつもり?」
「え、スルー?ナマコ投げたのはスルー?」
「お疲れ様会なんて毎回やってたらネタ切れするだろうに」
「ナマコは?ねえナマコは?」
「うるさいなあ食いたきゃ食えば」
「ごっくん」
「丸呑みした!?」
食べ物は粗末にしてはいけません。
あと別段ナマコに恨みはないけど、乙女の顔面にぶつけるもんじゃないと思う。
「悪魔の顔面ならいいのかい?」
「似合うよマスター」
「どうもありがとう!愛してるよキティ!」
「どういたしまして。さっさと死んでくれマスター」
室内の飾り付けは今回も小学生のお誕生会といった様相だ。前回と同じようにテーブルにはケーキやチキンが用意されていて、当たり前のようにその横に味噌汁やふりかけご飯が並んでいて意味がわからない。統一性は何処に消えた。誰か探してこい。
「それにしても、」
悪魔が私の服装を上から下までジロジロと眺めると、満足そうに笑って一人でうんうん頷いている。
「やっぱり日本人は和服が似合うねえ!ハラキリ!ゲイシャ!WABI☆SABI!」
「どうして風情という単語がスラッと出てくるのにエセ外国人風の発音なんだ」
「キティ?僕のこの花のかんばせが日本人に見えるかい?」
「人間には見えないかな」
「それもそうだ!」
いつも通りに爆笑している悪魔をスルーして、軽く頭を掻きながらソファーに転がる。なんだか今はどうにも相手をする気にならなかった。ぼーっと虚空を眺めてるといつの間に笑い止んだのか悪魔が脇に佇んでいた。
「…なに?」
「着替えないのかい?キティ」
「似合うんじゃないの?」
「勿論。とーっても似合ってるよ可愛いキティ」
「じゃあいいじゃん」
眼を逸らしたのは理由あってのことじゃない。ただなんとなく、そう、なんとなく気まずいような気分になっただけだ。
暫く反応が返って来なかったので、仕方無く悪魔に視線を戻すと彼は珍しく無言でじいっとこちらを見つめていた。眼が合った瞬間に悪魔は私の瞳の奥から何かを感じ取ったのか、ニタリと怖気が立つ笑みを零してパチンと指を鳴らした。
一瞬で私の服装がいつものラフな格好に戻る。先程まで着ていた着物はいつの間にか悪魔が抱えていた。
「…なに?」
「いやあ、僕の気のせいかもしれないんだけどねえ?」
悪魔の抱えている着物が瞬く間に燃やされ消し炭と化す。
「なんだか、キティ、寂しそうだねえ?」
「寂し…?え、そんな顔してる?」
「うん。珍しい顔だねえ。とーっても可愛い顔だよキティ」
悪魔は燃え残って床に落ちた灰を足でグリグリと踏みつぶしながら、クスクスとこちらを嘲笑った。
寂しそう、と言われて瞼に浮かんだのは、いつかの月夜だったかもしれないし、いつかの炎の海だったかもしれない。
なんにせよ、私には不要で、そして不相応な思い出だ。
頭を軽く振って、浮かんだなにかをそのまま振り払った。
「…ああ、あれじゃね。あー、その。…口、口が寂しかったんだよ、きっと。ほら、煙管だとなーんか吸った気しないし」
「…ふー、ん?」
バレバレの誤魔化しを悪魔はとても愉しそうに咀嚼すると、追求するでもなくそのまま私の話に乗っかった。
「なら僕がキスでもしてあげようか?愛しのキティ」
「いらないよ。煙草で十分間に合ってる」
ポケットにはいつも通り煙草が入れっぱなしになっていた。口に咥えると悪魔が何も言わずとも火を点けてくれる。深く深く煙を吸い込んで、寂しさと呼ばれたなにかと一緒に吐き出す。…お仕事、終了だ。




