うっかり
終わりはひどく呆気なかった。
ザクッという軽い音と共に紅が舞い、彼の身体はそのまま力を失って地に伏した。
昨日まではあんなに楽しそうに笑っていたのに。
遠く離れた村に住む家族の話を優しい顔で語っていたのに。
いつも賑やかだった彼はもはや一言も語る事はなく、ピクリとも動かない。
動かない。
動かない。
動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。
「あ…」
今までずっと夢を見ているような気分だった。格好いい人達にちやほやされて、怖い妖怪を倒して感謝されて、幸せで満たされていて、本当に夢みたいな気分だった、のに。
彼は動かない。
もう二度と動かない。
「………っ」
だって
首が落ちてるんだもの。
死んでるに決まっている。
「うわあああああああぁぁっっっ!!!!!!!」
「………やっちまったあああぁぁぁっっっ!!!!!!!」
一人で頭を抱えながらorzの体勢をとったところで鏡の向こうの景色は変わらない。
此処まではとても順調だった。無理なく恋愛イベントを誘発しつつレベル上げもして差し上げるラスボスの極みのような尽くしっぷりを披露出来ていたのだ。…此処まで、は。
まあ薄々読めてた展開だよね。いくら魅了パワーが凄いからって一から百まで操れる訳じゃないからね。
うっかり向かわせる妖怪のチョイスを誤って、案の定手加減が効かずに1人殺してしまう位よくあることだ、きっと。多分。そうだといいな。
しかし困ったな。ヒロインの心がこのままだと完全に折れてしまいそうだ。
今現在彼女と悪魔との間に結ばれている契約は仮契約のようなものだ。逃げようと思えば実は意外と簡単に逃げられてしまうのである。そう、恋が叶わず、彼女が帰還を希望すれば済む話なのだ。だがしかし、理想の環境、理想の恋愛相手、理想の友人、理想の宿敵までなんでもござれの状態で帰還が頭に浮かんだ乙女は残念ながら今のところ居ない。そもそも大抵の人間は夢だと思い込むしね。
「朔夜」
「はっ」
何もない空間に向けて名を呼ぶと、すっと障子を開けて朔夜が音もなく室内に入ってくる。盗聴器のないこの世界では地獄耳が活躍するのだろうが、限度があるとは思わないか。ストーカーみたいで普通に恐い。
懐から取り出した扇子をパチンと閉じる。そのまま這うように朔夜のすぐ真ん前に進み、閉じた扇子を顎に添えて下げたままの頭を無理矢理持ち上げ視線を合わせた。
「…今が好機のようじゃ。こやつの元に焔を向かわせて陥落させよ」
「蓮華様のお望みのままに」
ラスボス語を要約すると、アフターケアは任せた。後は頼む私は知りません。である。ツンデレではありません。
ゆるゆるの現代っ子に酷い仕打ちをしてしまった。深く反省しなければならない。安心安全の乙女ゲームに泥をかけるような真似をしてしまった。
…いやまあ、改めてよく考えると現代っ子という立場的には殺したか殺されたかはさておき、私も変わらないはずなんだが。他人の死程度ではやはり心は揺れないようだ。物悲しい気もしなくもないが、頭を軽く振って忘れる事にする。とりあえず、ヒロインのメンタルがなんとかなりますように!




