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薔薇とダークマター【政宗】

今日、私は自分にノルマを課してみた。今日中に三話進めるという課題を。


静とノエルと政宗でもう三つ目だ。やったぁ。


でもまだ全視点別まで恐らく十五話以上あるはず。

間に合うかなぁ・・・。

 セイラちゃんの家で昨日作ったチョコマフィン。あんなに気を付けたはずなのに・・・。


 気がついたらダークマター(真っ黒焦げ)になっていた。どうしてこんな事に。


 思えばいつもそうだ。何を作っても得体のしれないものになってしまう。今回はそうならないようにってセイラちゃんと一緒に作ったのに。


――これじゃあ誰にもあげられない・・・。


 私は肩をガックリと落として、何が悪かったのかを聞くためにまたセイラちゃんの家に来ていた。しかし、聖夜くんにフルーツケーキを渡しに行ったのか、セイラちゃんは家にいないという。代わりにドアから顔を覗かせたのは、カインさんだった。


「それは?」


 ラッピングされたダークマターを見て、彼が興味深そうに聞いた。私は何も言えずにそのまま立ち尽くす。


「とりあえず、セイラが帰ってくるまで家にあがっていてください。どうぞ」


「あ・・・どうも・・。」


 セイラさんが帰ってくるまでに特にする事はないので、お言葉に甘える事にした。それに、正直気になった。もし、これが貴方の為に作ったものだとしたら、どんな反応を示すのか。

 真っ黒焦げの謎の物体を見て、どんな言葉を私に投げ掛けるのか。


「もしかして、誰かの為に作ったものですか?」


 リビングに案内しながらカインさんが聞いてきた。今日は何だか色々質問されるなぁ、と思いつつ、これは話題作りなのだと割りきって、話を続ける。


「・・・えぇ、まぁ。でも失敗してしまって」


 誰かの為に作ったのは確かだ。真希ちゃんや皆にあげるはずだったものなのだから。


「それはこの後どうするんですか?」


「多分、自分で食べるか――捨てます」


 その答えを聞いた彼は、悲しげな顔で言う。


「それは勿体無いですね。折角想いを込めて作ったというのに。・・・折角ですから、それを私にくれませんか?」


 じっ、と迫るカインさんの目。ハーフの彼の蒼い目が私の瞳に映る。私はその願いを断ることが出来なかった。

 絶対不味いってわかっているものを、人に差し出してしまった――。


 カインさんにダークマターの入った袋を渡すと、彼は忙しそうにキッチンを出入りした。私は何をしているのだろうと思いながら、その作業を見守る。


「予定変更です。庭に行って一緒に紅茶を飲みましょう」


 私は彼に従い、庭へ向かった。


 手入れされた庭は、緑が大部分を占めていた。イングリッシュガーデン形式である。その中に、目立つ赤い色。


「薔薇・・・?」


 アーチに絡み付いた刺と茎。所々に見える赤は薔薇の花だと分かった。


「えぇ。」


「時期とか、関係ないんですか?」


 薔薇の時期については知らないけれど、イメージ的には春に咲くというもの。まだ時期的に早いのではないだろうか?


「薔薇だけは、この庭に一年中咲き誇っています。」


「――!」


 そうか、彼の武器は『薔薇』なんだ・・・!


「さぁ、行きましょう」


 アーチを潜り抜け見えてきたのは、白いテーブルと椅子のあるスペースだった。周りは緑と薔薇に囲まれている。お伽の国のお茶会に出てきそうなメルヘンな内装だった。


「この薔薇は一人で手入れを?」


 テーブルにカップとポットと皿とフォークを置いているカインさんは、私が問い掛けると作業を一時停止して丁寧に回答してくれた。


「はい。花の手入れは得意なんです」


 そう答えてまた作業に戻る。カップにティーを注ぐと、ふんわりと匂いが流れた。何とも落ち着く香りだ。


「さぁどうぞ」


 私に椅子を勧め、自身も椅子に座る。紅茶をたしなんでから彼はダークマターの入った袋を持って言った。


「今食べても良いですか?」


「え、えぇ・・・」


 期待というか、嬉しそうな態度で食べていいかと聞かれると何だか罪悪感に苛まれる。もう少ししたら、彼は顔を歪めることだろう。


 彼は袋からダークマターを取りだし、フォークで切った。


 私はそれを固唾を飲んで見守る。


 彼は躊躇なくそのままフォークを口へ運んだ。


「待って!それは・・・!」


 やはり申し訳ないと思い叫んだがすでに遅し。彼はダークマターを食していた。


「あ、あぁ・・・」


 どうしよう、食べさせてしまった。あのダークマターを。


 焦る程に冷や汗が流れ、罪悪感が増していく。彼の第一声がどんなものかを想像すると、恐れまで出てきた。しかし。


「・・・何故そんな顔をするのですか?」


「えっ?」


 彼はダークマターの味に対し、動揺しなかった。そして私の変化に気付き、心配までしてくれたのである。


「ダークマター・・・」


 私が呟くと彼は察したようで、もう一口を口へ運んで見せた。


「ま、不味いでしょう?不味いと言ってくれて構いません。だから、無理をしないでください・・・!」


 思わず、大声をあげてしまった。彼は驚いたように口をぽかんと開け、やがて言った。


「確かに焦げた味はしますが、美味しいですよ?」


 彼はフォークを差し出すと、私にダークマターを食べさせた。私はビックリしてそれをそのまま飲み込んでしまう。


 確かに焦げの味が口の中に広がるが不思議な事に、不味いとは思わなかった。


「あれ・・・どうして」


「貴女の思いの力ですよ」


 カインさんはにっこりと微笑んでからこう言った。


「また・・・作ってくれますか?今度は、私だけの為に」


 初めてダークマターを食べてもらえただけでも嬉しかった。でも、『また作ってほしい』と言われたのは、もっと嬉しかった。


 何だか自然と私まで笑顔にさせられる。こんな気持ちは初めてだ。


 長い前髪が風に煽られさらりと流れた。私はカインさんを直視して、思いきってこう告げてみる。


「勿論です。貴方の為ならば」



・・・という訳で政宗×カインでした。


何だかほのぼので良いですねェ。

名カップルですな。

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