俺と猫【静】
初別視点バレンタインストーリーは静からスタート!って本編では殆ど輝生表記だから、名前は知らないって人も多いんじゃないかな。
それではスタート!
俺は、昔から猫が嫌いだ。気まぐれで、甘やかしすぎると何処かにいってしまうし、かといってほっとくと嫌われる。
前に飼っていた白猫、フィアもそうだった。
俺は子猫の時から愛情込めて育ててきたのに、一向になついてくれなかった。
いつも引っ掛かれて、・・・の割に側に寄ってきて。構ってほしいと言わんばかりの目で誘惑してきて。だからといって構おうとすると、すぐに逃げた。
思えば俺は、あいつにフィアを重ねていたのかもしれない。
ツンとすましたその態度はフィアにそっくりだ。
あぁ、また今日もフィアの夢。しかもいつしか夢に出てくるフィアは、あいつになっていた。
気にならないと言えば、嘘になる。だからといって好きという訳でもないし、友達という感じでもない。ならばこの感情はなんなのか。そんな事を考えながら俺はバレンタインデーを迎えた。
昨日買ったネックレス、あいつは喜ぶだろうか?否、あいつの事だから素直には受け取らないだろう。
俺は専用の箱からネックレスを取りだし、小さな袋に入れた。それを鞄にいれ、寮を出る。
道は女子高生で埋まっていた。どいつもこいつも1人の男子の為に張り切りすぎだと思う。俺には関係ないのだと割りきった俺は、そのまま軽く通ろうと女子高生を避けるようにして進んだ。・・・だが。
「あっ、静くんだわ!」
どうやらこの中に、俺を知っている奴もいるらしい。面倒くさい。
俺はそのままそいつを無視してそのまま敷地内に突っ込んだ。
「待って~っ」
誰だか知らない奴からチョコレートなんか受け取れるかってーの。
校舎に入って、階段をのぼる。いつものようにドアを開け、席につこうとすると、周りには女子しかいなかった。どうやらあの女子高生を振り切ってきたのは俺だけのようだ。
「おはようございます。」
俺が入ってきた事に気付いたらしい月華が急に挨拶してきた。特に皆がいるなかで馴れ合う気はないのでシカト。
「・・・・。」
だが俺は、月華の首にネックレスがついている事に気がついた。あいつ、余計な事言ってないよな!?
ネックレスを見ている俺を見た月華はこれ、有り難うというように一度微笑んで見せた。だが今の状況上、俺は何も出来ないので視線をずらす。
教室に男子が1人という絶望的状況の中で、俺は沈黙を余儀なくされた。
「な~に黙ってるのよ。まさか緊張してるの?」
机に座ったノエルが挑発気味に言ってきた。だが俺は反応を示さないようにした。緊張していることは事実。だが、動揺する所をよりによってあの気まぐれ猫には見せたくない。
「あ、図星かしら?珍しいわね、反発してこないなんて」
このままだと調子に乗りそうだったので、俺は仕方なく話をした。
「今日は本調子じゃねーんだよ」
「ふぅ~ん。じゃあこれでも食べて元気になればいいんじゃない?私、友チョコしか作ってないからこれしかないけど。」
意外な事に、あいつは市販の小さなチョコレートを投げてきた。義理チョコのつもりだろうか?俺はそれを片手でキャッチする。
あいつがこんな日に俺にチョコレートを投げるなんて信じられない。俺は皮肉のつもりで言葉を返した。
「一応お礼は言っといてやるよ。有り難な」
要らなかったけどな、というニュアンスを含めて。
「明日は雪が降るかしらね」
だがあいつには素直に礼を言ったように聞こえらしい。丁度良い。ついでにアレを渡しておくか。
俺は鞄からネックレスの入った袋を取り出して投げた。
「そうだ。俺からもこれやるよ。丁度あげる奴居ないしな!」
本当は、元々お前にやる為に買ったんだけどさ。
「? 何よ、これ」
月華は、俺の投げたものが何なのか分かっているらしい。これがあいつが昨日眺めていたネックレスだと。
「ふ、ふん。あんたにしては上出来じゃない」
袋を開けてみて気付いたのか、あいつは認めたくないけどというように言う。ただ俺にはそれが滑稽で・・・そして照れくさくて。その場から消えたくなった。
「そりゃどうも。じゃ、俺帰るわ」
やる事もないし、という意味で俺は帰る口実を作った。実際はこの赤面を隠すため・・・そして、この場から逃げるためである。
廊下に出て一安心と思ったのもつかの間。あいつは何故か俺を追うようにして廊下に来ていた。
げっ、あいつ何で!
焦った俺は、階段をかけ降り、廊下を突っ走る。しかしそれを計算されていたのかあいつに先回りされた。
「なんで・・・逃げるのよ。まさかお礼を言わせない気?」
「だとしたら?」
さっきのお返しにと挑発気味に聞き返す。
「・・・それはそれで上等。で、どうする気?」
俺は答えないまま、また走り出した。・・・が、腕を掴まれすぐに止められた。
「何だよ――――っッ!?」
一瞬で頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。あいつがすぐ目の前に。ありえない。しかも――!
「何よ、そんな顔してっ・・・」
顔が、赤い。
「お前、顔が・・・」
まさか、照れ・・・てる?
「べっ、別にそういう訳じゃないんだからねっ。男にプレゼント貰うなんて日常茶飯事なんだからっ」
いつもと違う雰囲気に圧倒される。
何だよコイツ。
“可愛い所もあるじゃねーか”
「・・・来年は、ちゃんと作ってあげるわよ」
俯きながらボソッと呟いた。俺もそれに答えるように小声で、聞こえないように
「じゃあ、楽しみにしとくよ」
と呟いた。
次はこれと対になったストーリー、ノエル編!突っ走るぞー!




