カカオ80%【???】
カカオ65%辺りまでは食べるんだけどねェ……
今回の登場人物は男性のみ!女の子は出ません。
さぁ、誰でしょう?
まぁ簡単に分かるとは思いますがww
知らない間に“武器”という力を手に入れて、彼等のおかげでそれはなくなって。僕は昔の自分に戻った。いざこざもあの時に終わって、僕は普通の学生として人生を送っている訳で。
でも武器が無くなってみると、案外寂しかったり。武器だったものは今でもそこにあるんだけど・・・。
今日は学校も早く終わり、部活も入っていない僕は特にすることもなく家でのんびりしてる。どっかの誰かさんみたいにイケメンじゃないから、チョコも数人から貰ったくらいで騒動とかはない。
女友達から貰ったチョコは何だか甘く感じる。大人になった(?)僕には甘過ぎるように感じた。
チョコを食べながらのんびりと過ごしていると、いつものようにあいつから電話があった。
「もしもし?」
「もしもし?」
「一緒に遊ばないか?」
「何処で?」
「うーん、公園?」
いつもと同じ会話。だいたいこういう時は公園で遊ぶことになる。まぁ、異存はないけど。
晃と待ち合わせをした公園はウチからすぐ近くにある。晃自身も家が近いのですぐに集まるだろう。小さい頃から何度も来てここで遊んだ。僕達にとって思い出の場所。色んな思いが詰まった公園だ。
僕が公園につくと、晃は公園にあるブランコに乗りゆっくりと振り子の運動を行っていた。晃から漂う雰囲気は思い出に浸っているように思えるような感じだった。今にも懐かしいという言葉が洩れそうだ。
「お、意外と早かったね」
「まぁ家近いからな」
「そっか」
当たり前の会話を繰り返しながら、僕は晃の隣のブランコに腰掛け、足で地面を蹴りブランコを揺らした。
「そういえば、(本命の)チョコいくつ貰った?」
急に晃が話を振ってきた。僕は今日あったことを思い出しながらそれに答える。
「1つもないよ」
友達から貰ったチョコだったら3~4個はあったが、本命なんていう大層なものは1つもないと自覚している。逆に晃はどうなのだろうか?晃なら本命を貰っていてもおかしくないような気はするが。
「晃は?」
「ん、俺?」
「その顔は、貰ったな!?」
一瞬見せた躊躇は晃が誤魔化す時に見せる仕草。僕はそれを知っているからこそこういうからかいが出来るのだ。そうか、晃はチョコ貰ったのか――、まぁそうだよな、晃は優しいし見た目も良いし。俺とは正反対だよ。
「あーやっぱお前には敵わないな」
「あったり前だろぉ!」
あはは、と僕達の笑い声が公園に広がる。空はもうオレンジ色になり、暗くなりつつあるのに僕達は明るくなる一方だ。僕達が空の明るさを吸収しているように、僕達の話題は盛り上がっていく。
僕はその本命のチョコを誰に貰ったのかと聞いた。だけど晃はただ笑うだけだった。僕は晃をつつき強引に聞き出そうとする。・・・だが失敗。晃は口を割ることはなかった。しびれを切らした僕は、晃の頬を軽くつねった。
「いひゃいいひゃい!」
「さぁ白状しろぉお」
「わかった、わかったから!」
そう聞いて安心した僕はその手を離し、同時にブランコから降りた。ブランコに座ったままの晃を見下すように、前に立つ。そして目を逸らせないように、じっと晃を見つめた。
「・・・で、誰?」
「ぷっ」
「?」
「あははははッ」
僕に問い詰められた晃は、何故か急に笑いだした。追い詰められたという心理から、狂ってしまったのだろうか?片手でブランコの鎖を持ち、もう片方の手はお腹のあたりに添えてある。そして涙が出るほどを笑ってみせたのだ。晃がこんなに笑うのを見たのはいつ以来だろう。暫く無かった気がする。
「全く――少しは疑ってよ!」
「はい?」
「嘘だよう・そ!」
「はぁあああ!?」
「僕が本命なんか貰う訳無いじゃん!」
騙された・・・!ちくしょうっ!あの躊躇は嘘に対してだったのかぁ!
「まだまだだなぁ」
「むっ」
何だかんだで楽しかったから、まぁいいけどね。
「――も彼女出来たら教えてよ?」
「勿論!晃もな」
「おぅっ」
腕をがっしりと組み合い、約束のポーズ。指切りげんまんが嫌いだった僕らが考えた男の約束の仕方だ。今となっては二人だけの時しかしたくないけれど。恥ずかしいし。
「あ、そうだ。これ食べる?」
懐から飛び出た晃には似合わない銀色の包み紙。一瞬で何だか分かる僕も僕だけれど・・・見るからに苦そうな黒の包装紙に包まれたその銀紙の一部を彼は差し出した。そう、ブラックチョコ。
「苦そう・・・」
「れっつちゃれんじ大人の味!」
「晃は食べたのか?」
「もちろんさぁ。・・・とてつもなく苦いよ。だってほぼカカオだし」
そう言って笑って見せた晃の持っているソレにはカカオ80%と書かれていた。つまり、十分の八がカカオ。絶対苦い。
「うーん・・・」
流石に躊躇してしまう数字だ。それにしても晃は何で急にこんなものを?
「晃、お前ブラックチョコなんか食べたっけ?」
「いやぁ、普段食べてるチョコが甘いからさ。ほら状況に合わせて苦くしたわけさ」
「苦すぎだろそれ」
「現実は甘くないってね!」
「ま、まぁ確かにそうだけど・・・むごっぷ!?」
晃は銀紙を剥がしたその物体を僕の口に押し込んだ。最初はなにが起きたのか分からなかった僕も、口の中に広がる苦さですぐに気が付く。なんだこれとんでもなく苦い。
「・・・~~ッ!」
「あはは悶えてるね」
おい晃、笑い事じゃない助けろよ!
そんな思いも虚しく、無駄に体力を消費した僕は、仕方なくそのチョコを飲み込むことになった。人間は苦味を喉に近い部分で感じる為、更に苦味が支配していく。
「・・・、飲み込んだ?」
必死に飲み物が欲しいと無言で訴える僕を見て、晃は上目遣いで言う。
「あぁ飲み込んだよ・・・」
苦味と闘いながら答える僕に晃はーー。
「もう一丁!」
「ふぐっ!?」
更に何かを押し込まれた!またブラックチョコか!?あぁああ苦・・・くない!むしろ甘い!
「晃これって・・・!」
「ミルクチョコだよ」
この口に広がるいつもの味・・・やっぱりミルクチョコだよな!
「人間はさ、苦い思いを沢山してるけど、その先で甘い思いをするために頑張ってるわけさ。・・・お分かり?」
「お分かり」
最近晃はヘッドフォンの構築を勉強しつつ、ヘッドフォンを製作しているらしい。どれも僕の為にわざわざしている事だ。逆に僕は晃に何もしてやれていない・・・。
「お前も、苦い思いを沢山してきたんだもんな」
チョコより苦い思いを。
「でもそのお陰で君ともっと仲良くなれた――これがミルクチョコかな!」
「僕がミルクチョコかよ!」
「おっと、そろそろ時間だ。帰らなきゃ」
「うん、そうだな。じゃあまた明日」
苦味も少し落ち着き、まろやかな甘さが口に残る。多分僕達もこんな感じなんだろう。
女の子と縁がない僕達の、地味なバレンタイン。だけど、僕にはこっちの方が合ってる気がする。・・・気がするじゃない、合ってる。
だってじゃなきゃこんなに時間が過ぎるのが早いはずがない。
晃と別れ、歩く帰り道。ポッケに忍ばせたままのチョコが、何だかくすんで見えた。