抑制【緋威翔】
Manaryさん、長いことお待たせしました!!
やっとこさ緋威翔さん視点の物語です。
今日は聖バレンタインデー。外はかなり賑わっている様子ですね。僕はその場に馴染める気がしません。とりあえず学校へ向かいましょうか。
どうやら学校も賑わっているようです。校門の辺りに人が集まっています。女性に囲まれた男性がちらほら・・・チョコを渡されているようですね。
「あのっ、緋威翔さんっ!これを貰ってくださいっ」
校門に集まった女性の一人が徐にチョコを取り出して僕にくれました。
「有り難うございます」
こんな僕の為にチョコを作るなんて・・・しかもこの女性は同じ学校の人ではないようです。
「私からもどうぞ!」
「良かったら食べてください!」
「好きですっ!」
次々と入れ替わりチョコを渡してくれる女性。可愛らしいラッピングが女性らしさを見せます。透明な袋から覗くそれはトリュフでしょうか?見ていて飽きません。・・・とは言ったものの、僕はチョコを貰いに学校に来たわけではありません。さてどうしたものか・・・。
時計を見ると僕が学校に来てから10分は経ったというのに、人は留まることを知りません。女性はまだこの場でチョコを渡しているのです。
「・・・あ」
人の塊の奥に、見慣れた姿が見えました。月華さんのようです。名前を呼びたくなる衝動を抑えながら僕は月華さんの方を見ました。
「緋威翔さんっ!」
こんな女性に囲まれた状態で僕を見つけるとは驚きです。僕のトレードマークの帽子でも見えているのでしょうか。
「月華さん・・・!おはようございます」
沢山いる女子を何とか整列させようとしながら、僕は奥に見える彼女に言いました。
「今日はバレンタインデーとはいえ凄い人ですね。僕はどうしていいのやら」
「ちょっと、来てください」
こんな大勢の中では一人の声はかき消されてしまう。そう考えたのか月華さんが僕の手を引き歩き出しました。何だか駆け落ちをしているようで面白いです。普段大人しい月華さんがこんな大胆な手に出るなんて・・・今日は何かあるのでしょうか?
「ちょっと何よ!横入りしないでっ」
女子高生の罵声が聞こえても知らんぷり。僕は服を引っ張られたまま、校内へ入りました。女子高生は流石に校内へは侵入出来ないでしょう。学校の生徒ではないのだから。月華さんはそれを考えてこの行動をとったのですね。納得です。
「ふぅ、助かりました。有り難うございます」
貴方が居なかったら、長い間あの女性達につかまっていたでしょう。貴方は蜘蛛の巣に掛かった蝶を救ったのです。蝶からしてみれば、助かったという思いで一杯でしょう。
「あのっ」
「どうしました?そんなに改まって。」
「話を、聞いてほしいんです」
月華さんが、僕に話があると?
「話があったなら、もっと早く言ってくれたら良かったのに。すぐに駆けたでしょう、貴女の望みとあれば」
「・・・ッ!」
彼女はとても素直だとこういう時に思います。僕が率直な気持ちで彼女に思いを伝えただけで、彼女は嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をします。僕はこの表情を見るのが好きです。何故って彼女は僕を嫌っていないことがわかるからです。今まで孤独でいた分この学校に来てから欲が深まったのでしょうか、彼女や彼等と一緒にいるのが楽しくてしょうがないのです。たまに、“誰か”の影を見たりしますが・・・。あれは誰なのでしょう?懐かしいような感じはするのですが、誰だか思い出せないのです。彼女達といると、その“誰か”と居るときと同じような感覚になります。もしかしたら僕は、その“誰か”を思い出すために、彼女たちを利用しようとしているのかもしれません。
「緋威翔さん」
彼女に名前を呼ばれ我に返りましたが、何でしょうこの感覚は。“誰か”の感覚とはまた違う複雑な念が心にまとわりついているのです。霧のように掴みどころがなく、ふわふわした気持ち。彼女達と一緒にいたいという思いと同じなのに何かが違う・・・。
「・・・とりあえず、座りましょうか」
この静かな雰囲気の中、正直立っているのが辛い。授業がないためクラスはほとんど空室です。折角なので座りたいものです。誰もいない教室の一つに入り、僕は椅子を2つ並べました。
「どうぞ」
片方の椅子には僕が座り、もう片方の椅子には月華さんを座らせました。こうしてみると、面談をしているように見えるかもしれません。
「き、今日は何の日だか知っていますか?」
月華さんはいきなりその質問をしてきました。勿論、今日が何の日かなんて百も承知です。僕はこの日の為に何もしなかった訳ではありません。僕も璢夷さんにバレンタインの話を聞いて密かに計画を進めてきたのです。月華さんと二人きりになれたのは運がいい。
「バレンタインデー、ですよね。」
「私は、その・・・」
「月華さん。」
「は、はいっ!」
僕は月華さんの頭を撫でるようにしてあるものを頭に乗っけました。そう、これは彼女の為に準備したあるものです。これが咲くのにかなり時間が掛かりましたが、思ったよりも綺麗に咲いてくれて安心しました。それに・・・ある人の協力もあって、ただの花ではなく花飾りとして彼女に渡すことができました。・・・でもおかしいな、花飾りの作り方を教えてくれた人が誰だか思い出せないのです。最近あったばかりなのに・・・。
「バレンタインデー・・・日本では女性が男性にチョコレートを贈りますが、海外では男性が女性へ花を贈るって、璢夷さんから聞いたので・・・思わず育てていた花を花飾りにして持ってきちゃいました」
僕が恥ずかしさに負け微笑むと彼女は戸惑ったのか急に泣き出してしまいました。流石にどうしていいのか分かりません。何故泣いているのかさえ分からないのですから。
僕は月華さんを見守りながら、優しく頭を撫でました。暫くそうしていると彼女も段々と落ち着いてきたのか、泣き止んでくれました。
「わ、私もっ緋威翔さんに渡したいものが・・・」
泣き止んだ彼女の顔は真っ赤で、それは泣いたのが原因なのかそうでないのかは分かりません。そんな彼女は鞄から箱を取り出しました。水色の箱に、茶色のリボンで飾ってある可愛らしい箱です。中身は一体なんでしょうか?いや、そもそも・・・。
「僕に、ですか?」
彼女が必死に頷いているのが見えたので、僕はくすくすと笑いながら受け取りました。こんなに心のこもったチョコレートはいつ以来でしょうか・・・。
「今まで貰った中で、一番嬉しいチョコレートです。有り難うございます」
「わっ、私は――」
「それ以上は、言わないでください。」
僕は指で月華さんの言葉を遮りました。丁度内緒、という時と同じように。
月華さんがその先に何を言おうとしていたのかは多分皆さんならわかると思います。ただ僕はその先の言葉を聞くのが怖かったのです。その言葉を聞いてしまったら、もう今には戻れないような気がして。そう考えた脳が勝手に指令を出し、僕は身を守ったのです。
「それ以上の言葉を言われたら、僕は――」
聞きたい、彼女の口から。でも聞いてしまったら・・・。僕はその間で揺れながら言葉を濁しました。彼女も何となく空気を感じたのか、黙ってしまいました。しんとした空気が教室を支配し、独特な雰囲気に包まれます。
この時僕の中であの感情の整理がついたことに気が付きました。これはどう考えても一字に収まってしまうのです。僕の知る限り、この感情は――――。
「――ッ」
「有り難う。月華」
僕はそう言い残し、教室を後にしました。最後に残した言葉は敬語でもなく、名前もさん付けではありません。これは僕なりの答えなのです。彼女の思いは分かりました、僕もその思いに答えたいとは思っているのです。ですが、月華さんに“誰か”を重ねている今は、彼女に対しその言葉を言ってしまうのはいけないと思うのです。
考えてもみてください。「好き」という言葉を言っている目の前の人が、何処か違う所を見ているように感じてしまったら。本当にこの人は自分のことが好きなのかと疑問に思うと同時に不安になるでしょう?僕は彼女を不安にはさせてしまいたくなかったのです。そうなるならばいっそ、答えを引き延ばすほうが安全だと思うのです。
「月華」と呼んだことで、彼女のことを嫌いだと思う人はまず居ないでしょう。これで彼女は安心するはずです。そうです、結論を言ってしまえば僕は彼女のことが---。
僕は教室から出ると、その場で聞く耳を立てていた彼女の肩をぽんと叩きました。月華さんに気付かれないようにそっと誘導していきます。彼女は僕が存在に気付いていたことを知らなかったらしく、小さな声を漏らしました。
「あっ・・」
そこの教室から離れた一角で僕たちは立ち止まり、僕はどうして覗き見をしていたのかと彼女に聞きました。月華さんが彼女がいることに気付いていないことから、彼女が呼んだのではないことは分かります。
「・・・。」
彼女は黙ってしまいました。その姿は何かを躊躇っているようにも見えます。
「あの・・・」
「どうしましたか?」
「これ、受け取ってください」
彼女から渡されたのは、赤い箱に桃色のリボンで飾った箱でした。僕は思わぬ状況に言葉をなくします。何故彼女が僕にこれを?
渡した後の彼女はすっきりしたというように廊下を走っていきました。そうして、残された僕は「しまった」という念に苛まれます。
僕は気付いていた気でいたのです。だから月華さんを傷つけないように行動していたのです。ですがその反対に、彼女は影で傷ついていたのです。僕がしていたことは「正」ではなかったのだと思い知らされました。
誤魔化すことならいくらでもできます。ですが、それが彼女の為になるのでしょうか?答えはいいえです。慰めたところで僕の気持ちは変わらないのですから・・・彼女に期待させてはいけません。ここは申し訳ないけれど、冷たくあしらうしか方法はないのです。これが彼女の一番傷つかない方法なのだから・・・。
鞄の中に入った沢山のチョコレート。僕はその分だけ責任を負わなければならないのです。今年はそれが特に多い。皆が傷つかないようにするにはどの策が最善なのでしょうか?僕には分かりません。ですがここで、僕の目には“誰か”だけが映っていたのではなく、“彼女”がずっと映っていたと知りました。だからこそ、「あの子」の件に気付かなかったのです。だとすれば、僕は前から---彼女のことが“好きだった”と言えるでしょう。
多分、私の見落としがなければこれでblanketメンバーの全視点が完成しました。これから先は・・・???という視点で物語を続けます。ホワイトデー編は別にしますのであしからず。
???の視点、余裕がありましたら誰の視点だか当ててみてくださいね!
きっと登場人物で気付くとは思いますがwww




