花に感謝を込めて【璢夷】
いつも色んな人と絡んでいる分、話がやたら絡んだ(笑)
バレンタインは、本来男性が女性に花を渡すもの。だがこの国では違うらしい。チョコレート会社の策略にはまったこの国の住人は、バレンタインを女性が男性に贈るものだと勝手に解釈して、今に至る。
俺はそのバレンタインデー当日、学校ではなく花屋へ向かっていた。いつもお世話になっている女性達に花を贈ろうと思ったからだ。
花屋にてまず俺は、白い花の花束を購入した。しかしそれでは色彩があまり良くないと、それぞれ黄色の花、青の花、紫の花、赤の花を購入した。
その花を花束に差し込んで、俺は学校に向かった。
学校の校門には何故か知らんが近くにある女子高の生徒が集まっていた。一体何をしているんだ?
その女子生徒達は、それぞれ飾られた袋を手に持ち、特に何もすることなくただそわそわしていた。袋の中にチョコレートが入っているとすれば、恐らくこれはこの学校の男子生徒に贈られるものなのだろう。わざわざご苦労な事だ。
俺はその女子生徒に道を開けて貰おうと、一番近くにいた女子生徒に話し掛けようとしたその瞬間だった。
女子生徒が一気に流れ込んできたのである。
俺はその波に完全に飲まれてしまった。一体なんだというんだ。
女子生徒は次々に袋を俺に渡してきた。
予想外だ。
この女子生徒が誰なのか、俺は知らない。という事は、ホワイトデーにお返しする事は不可能だ。俺はとにかくお返しをしなければと、その手に持っていた花束から白い花を一輪ずつ手渡ししながらお礼を述べていった。
しかしお礼を言った後も、何故か女子生徒はその場に留まっている。手には携帯を持ち、やたらとシャッター音が鳴り響く。
ちょっと待て、俺はアイドル等ではないのだぞ。撮られる理由等ないじゃないか。
どうしていいか分からないまま、俺はその場で立ち尽くした。暫くして、女子生徒に割り込むようにして1人の女性が入ってきた。
見覚えのあるふわふわした水色の髪。紫の十字型のピン。あれは霧雨だ。
霧雨は俺の状態を見抜き、すぐにその場から抜け出させてくれた。
「璢夷くんってば何で女子をそのままにしておいたの?貴方が自由に動けなくなってしまうじゃない」
正直あれは参った。女子生徒の気迫に圧されていたからだ。だが・・・。
「いや、彼女達が頑張ってこれを用意してくれたんだ。それを考えたら冷たくあしらう事など出来ない」
義理チョコレートだって、準備しない事には始まらない。袋の中に入ったラッピングされたチョコレートを、あの女子生徒達はわざわざ準備してくれたということなのだろう。そう考えると、ただ有難うというだけでは足りない気がするんだ。
霧雨はそんな俺を哀れに思ったらしい。そんな表情をしていた。
「貴方は優しすぎるわ」
「そうか?」
俺にとってはそれが普通だ。だから何とも言えない。
「璢夷くんって変わらないわね」
昔を懐かしむような笑みを溢した霧雨。彼女の自然な笑みを見たのは久しぶりだ。笑みが減ったのはこうして話をしたりする事が少なくなったからだな。
だが考えてみれば、昔から霧雨はあまり笑うタイプではなかった。
「お前が笑うなんて珍しいな」
俺はクスクス笑いながら言った。霧雨も俺の笑いにつられて微笑んだ。
思案に耽っている霧雨を黙視しながら、そのまま過ごす。
すると誰かの気配を感じた。あれは――。
「霧雨ちゃーーーん!」
やはり、ケインか。恐らく霧雨を追って来たのだろう。あの時もそうだったからな。
「ケイン、こんな所で何してるんだ?」
「あ~それがさぁ、運命の導きってやつなのかなぁ、霧雨ちゃんに会いたいって思ったらなんと!叶っちゃった!」
ケインは誤魔化したつもりだろうが、多分霧雨は誤魔化せないと思うぞ・・・きっとどこかでボロが出るからな。
「私はアンタに会いたく無かったわよ!何よっ折角璢夷くんと二人きりで――」
「おいおい、さっきまでの顔が台無しだぞ?」
「――ッ!」
「そうだよ!さっきの霧雨ちゃん可愛――」
・・・ほらな。
「見てたのね」
わなわなと震え、怒りに燃える霧雨。逆鱗に触れたようだな。さてどうするんだ?ケイン。
「霧雨ちゃ――」
「アンタなんか大っ嫌いよ!行きましょ、璢夷くん!」
俺は腕を掴まれ、霧雨に引っぱられていく。
「え、あ、ちょっと待てそれではケインが――」
「良いの!放っておいて!」
「そんなぁ~霧雨ちゃん、俺も入れてよ~ッ」
このままではケインが不憫すぎる。
「生憎アンタの分のブラウニーはないの!」
「ガーーンっ」
ケインは霧雨からのチョコレート・・・もといブラウニーを期待していただろうに・・・。
「お前も本命がいるのか?」
「勿論貴方へよ。璢夷くん♪」
この状況、一体どうすればいいというんだ。所謂泥沼?いや、三角関係ってやつか?
「・・・何か申し訳ないな。すまん、ケイン」
「い、いいんだよ知ってたから・・・」
こんな状況であのブラウニーを受けとる訳にはいかない。霧雨には悪いが――。
「・・・霧雨。」
「なぁに?璢夷くん?」
「すまないが、これは受け取れない。ケインに――申し訳がないからな。でも有難う。気持ちだけ貰っておく」
「でも――」
「あ、あとこれ・・・礼だ。いつも慕ってくれて有難う。」
花束からは白い花がすっかりと消えている。残るは黄色、青、紫、赤の花が一輪ずつ。随分と減ったものだ。
俺はその内の黄色の花を霧雨に渡した。
「では俺は用があるので失礼する。じゃあ、また明日な」
先程、誰かから図書館まで来てほしいというメールが届いた。それが用事だ。大方依頼だとは思うのだが――。行ってみない事には分からない。題名にも本文にも、場所の指定しか書いていなかったからだ。時間さえもよく分からない。
本当は、学校ですぐに用事を済ませていくはずが、手間取ってしまった。もしかしたらその人を待たせてしまっているかもしれない。
俺は急いで図書館へ向かう。途中、改造スケボーに乗った沙灑に会った。用事があって急いでいる事を伝えると、そのスケボーを貸してくれたのでスケボーに乗って移動を開始する。
このスケボーは、沙灑が改造したものらしく、スケボーの後輪部分にジェットエンジン的な物がついていて、普通のスケボーより速く走れる。・・・ただ、車道を走らないといけないのが難だが。
それにより移動時間がかなり短縮された。
普通なら30分は掛かる距離をたった5分に短縮したのだ。
沙灑に後で礼を言わねばな。
図書館についた俺は、その謎のアドレスに到着した事を伝えるメールを送った。すると、図書室の中から着信音が響いた。
・・・どうやら図書館には居るようだな。
しかし、どれだけ探してもそれらしき人は見当たらなかった。居たのは本を借りにきたらしい一般人と美麩だけだ。普通の依頼人なら、挙動不審であったりするものだが・・・カモフラージュにしては出来すぎている。
とりあえず俺より先にいたであろう美麩に話を聞く事にした。
「美麩。すまん、ちょっといいか?」
「・・・えぇ。どうしたんですか?そんな顔をして」
「この辺で、挙動不審な人を見なかったか?俺の携帯に今日、図書館に来てほしいとだけ書かれたメールが届いたのだが」
美麩は少し考えたような顔をしてから、ハッと思い出したように言った。
「あぁ、その人なら私に話しかけて来ましたよ。私が仕事仲間だと知っていたようです。」
「そうか。それなら話が早い。・・・それで、依頼というのは?」
「これを渡してほしいと言われました」
美麩は、鞄から紙袋を差し出した。
「これは・・・?」
何だ?依頼というのは配達業務なのか?
「璢夷さんを呼び出したのは、これが理由だそうです。これを渡す為に呼んだと言っていました。きっとチョコレートですよ。」
それを渡す為に、俺を?
「そ、そうか・・・」
わざわざそんな事をする人までいるのか。
「・・・なら、その人にこれを後で渡しておいてくれ。」
俺は青の花を美麩に差し出した。
「あ、後こっちはお前の分だ。」
それと同時に赤い花を美麩に渡した。仕事仲間としていつも世話になっている礼として。
美麩は有難うと言った。俺はそれを聞いて、その場を後にする。
「宜しく頼んだぞ」
図書館を抜けた俺は、自分の寮へと歩いて戻る事にした。スケボーは途中沙灑の寮に寄って返す事にしよう。
何事も無く俺は寮に行く・・・筈だったのだが。
俺は必死に走ってくるケインと遭遇した。顔は真っ赤、息を切らしており、汗を流すその姿で今まで走っていたのだと推測できる。
「どうした、大丈夫か?一体何があった?」
ケインは一瞬思い詰めた表情をしてから言った。
「霧雨ちゃんのブラウニー、お願いだから受け取ってくれ!霧雨ちゃんは璢夷の為に作ったんだ」
それを伝えるためにお前はここまで走ってきたのか。
「・・・ケイン、お前・・・。」
それはお前が喉から手が出るほど欲しがったであろうもの。それをわざわざ俺に渡しに――責任を感じているのか、自分のせいで受け取ってもらえなかったのだと思って。実際は、俺が断ることでケインに渡ると考えただけなのだが――。それに、ケインの目の前で貰うのは、申し訳ないしな。
そんな状況にも関わらず、ケインは頭を下げて願った。霧雨の作ったブラウニーを食べてほしいと。
「・・・分かった。そこまで言われて断るやつはいないだろう。」
「ほ、本当かっ・・・!?」
「あぁ。」
本当に霧雨の事を想っているのだな、ケインは。霧雨がその優しさを知って少しはケインに優しくなるといいのだが。
俺はブラウニーの入った箱を開けた。中にはいくつかのブラウニーが入っている。ならばここで食べても問題ないな。
「ケイン、ほら一緒に食べるぞ」
霧雨は今ここにいないし、見ても状況を話せば問題ない。もとはと言えば一度渡したものだからな。
これならケインも、俺も、不利益にはならないだろうしな。
「お、おいひぃ・・・。」
ケインがブラウニーを頬張りながら、笑顔で叫んだ。
「はっぴぃーバレンタインっ!」
全くその通りだな――。俺はそう思うと共に、ケインに頑張ってほしいと願った。
俺は密かにあの二人が結ばれる事を望んでいるからだ。
霧雨は、俺の事を兄感覚で慕っているのだと思う。それは、俺以外を受付けようとした事がないからだ。あいつは他のどの男性も跳ね返してしまう。
中にはケインのように、あいつを慕っている者もいるというのに。
少しは優しくすれば株があがると思うのだがなぁ・・・。
ケインとわかれてから、最後に残った紫色の花を手にこれをどうしようか考えながら道を歩く。
辺りは日が落ち、暗くなりはじめている。
俺はとりあえずこのスケボーを沙灑に返しにいく事にした。
一度寮へ戻り、沙灑の部屋へ向かう。チャイムがあるそのドアの前で、俺はノックをした。そう、これが合図だ。まぁ、覗き穴から見れば誰だか分かるだろうが。
暫くするとバタバタと音がしてドアが開き、沙灑が顔を出した。
「沙灑、スケボーを貸してくれて有り難う」
「・・・どういたしまして。役に立った?」
「あぁ、とてもな」
「・・・そっか、良かった。あ、丁度夜ご飯の支度してたんだ。一緒に食べよう?」
「あぁ。」
日常茶飯事の事なので、特に遠慮などはしない。
俺は沙灑の部屋にあがらせつもらった。
「璢夷は今日、いくつチョコを貰ったの?」
「数えてないから分からん」
「そっか」
あの時咄嗟に万年筆の力を使ってなんとか袋にしまえたものの、あれを全部食べれる気はしない。
「沙灑はどうだ?」
「僕は全然。まず人前に出ないし。」
「それもそうだな。沙灑に好意を寄せる人は大変だな。」
そう言って二人で笑っていると、沙灑が料理を作りながら言う。
「でも僕はさ、ある人から貰えればそれで良かったんだ」
「ほぅ?それは氷椏のことだな?」
「!」
俺が指摘すると沙灑は一瞬で耳まで赤くなった。素直で可愛いものだ。全く、俺のようにはなってほしくない。
こんな能面みたいな顔にはな――。
「な、なんで氷椏って――」
「何となく、勘だ」
「勘!?」
お前の態度を見ていればわかるものだ。氷椏に対しては人見知りを発動しないようだし、普通に話せている。それは好意を寄せているからではないのか?
「で、当たっているのか?」
「・・・うん」
「そうか」
だとすれば可哀想なものだ。既に氷椏には――。
「ねぇ、璢夷には好きな人っていないの?」
「今のところは、だがな」
「ふーん・・・何か残念」
「いつか、できるさ俺にも」
「そうだね」
沙灑がスープを運んできた。色とりどりの野菜が目をひく。
「美味しそうじゃないか」
「そう?璢夷に言ってもらえると嬉しいよ。だって璢夷はとっても料理が上手いから――僕も見習いたいよ」
「料理は練習すれば上手くなるさ」
「そうだね」
沙灑の作ったスープを飲みつつ俺は沙灑と話をした。沙灑と話をすればするほど、氷椏が沙灑と仲がいい事が分かる。思えば沙灑がこんなに人の話をするのは久々だ。今まで関心すらもたなかったというのに。
氷椏は沙灑の心を開く鍵になるかもしれないな。
「ご馳走様。美味しかったぞ」
「なら良かった」
「では、俺はそろそろ実家に帰るとするか」
「うん。じゃあ、気をつけてね」
沙灑に見送られ、寮を後にする。辺りはすっかり真っ暗だ。町にはライトが点灯し、行き交う人は男女のペアが多い。
特に俺はあぁなりたいという願望は無いが、幸せそうな姿を見ていると微笑ましくなってくる。皆あぁいう風に幸せだと良いのだがな・・・。
「・・・あ、璢夷さんこんばんわ。こんな時間にどちらへ?」
家に帰る途中に、俺は氷椏と遭遇した。これはタイミングが良い。沙灑の事を話すにはもってこいだ。
「あぁ、実家から呼び出しがあってな。それはいいとして――氷椏、今暇か?少し話がしたいのだが。」
「え、えぇ。特にすることはありませんが――」
「帰りが遅くなるのは平気か?一応帰りは俺が送るから、帰り道は心配ないと思うが・・・」
「大丈夫ですよ」
「そうか」
案外すんなりと誘いにのってくれた為、俺は氷椏と話す事にした。だが、今の時期夜に外で話すのは体に悪い。
「とりあえず、俺の部屋に来てくれ。ここでは風邪をひいてしまうからな」
「え・・・あ、はい。」
すぐ近くにあった男子寮へ引き返し、俺の部屋に入る。氷椏をテーブルの前に座らせると、早速話を始めた。
「話って何ですか?」
「沙灑の事だ」
「沙灑さんの・・・?」
「あぁ、お前は沙灑と仲が良いだろう?普通に話も出来るようだからな」
「えぇ、まぁ。」
「そこでだ、どうかこれからも仲良くやっていってほしい。それと、沙灑が世話になっている礼をしたい。」
「礼って、私はそんな大層なことしてませんよ?」
「良いんだ。俺が礼をしたいだけだからな。俺は沙灑の過去を知っている人間だ。だから沙灑と今も仲良くやっていけているが、あの事件以来あいつは他人に興味を示さなくなった」
「事件というのは、武器を作った原因ですよね?」
「あぁ。そうだ。」
「だから氷椏、お前の存在が沙灑のトラウマを治すきっかけになるかもしれないということだ。沙灑はお前の事を好いているようだしな」
「友達として、でしょう。または良き理解者として」
「いや違う。あいつはまだ分かってないようだが――あれは恋心だ。理解者なら政宗や真希でも良かった筈だ。あいつらになんら怖い部分はないだろう?だが、沙灑はあの二人も人見知りしている」
「・・・。」
「沙灑にとって、お前は大切な存在なんだ」
「そう、なんですか・・・」
「話は変わるが氷椏、今お腹は空いているか?」
「多少は」
「なら何か振舞おう。何か食べたいものはあるか?」
「何でも良いんですか?」
「勿論だ。何でも言ってくれ」
「じゃあ御言葉に甘えて・・・オムライスを」
「オムライスだな、分かった」
台所へ向かい即席でオムライスを作る。オムライスを作るのは久々だ。腕が鈍ってなければいいが。
俺はオムライスが出来上がると早速氷椏の前へ出した。
「いただきます。」
「あぁ。」
氷椏がオムライスを食べるのを見て、何だか微笑ましくなる。思えば姉や妹、それから沙灑や紫綺へもこうして俺が手料理を振る舞っていたな。
「美味しいか?」
「お、おいひいれふ」
「そうか。なら良かった」
懐かしいな。思えば俺が一番最初に覚えた料理はオムライスだったな。璢胡がどうしても食べたいと駄々をこねて――。
「オムライスに何かエピソードでもあったんですか?」
「ん?何故分かった?」
「璢夷さんがオムライスを食べる私を見て微笑んでたからです」
「そうか――、でもそれは単にお前を見てにやけただけかもしれないのだぞ?」
「いいえ。それはあり得ません」
「それはまた何故だ?」
「貴方は1人にこだわる人じゃないからです。貴方は皆平等に優しくします。だからある1人の人に入れ込むなんてあり得ません」
なるほどな・・・。確かにそうだ。どうやら氷椏の方が一枚上のようだな。俺よりも俺の事を理解している。
「ご馳走様でした」
「粗末なものですまなかった」
「いえ、十分豪勢ですよ。私にとっては。・・・そうだ、これどうぞ。璢夷さんが作ったものの方が断然美味しいとは思いますが」
そういって差し出したのは、氷椏が作ったらしいクッキーだった。ハートの形をしているそれは、氷椏の女らしさを強調している。
「有難う。後でいただく」
「では私はそろそろこれで。明日も学業がありますから」
「そうだな。帰り際に引き留めてしまい申し訳なかった。」
俺は氷椏と共に寮へ向かった。暗い夜道を二人で歩きながら思ったのは、いつもと何かが違うという事。霧雨や沙灑達と歩いている時と何かが違うのだ。
「・・・・。」
静寂の中、氷椏を見守るようにして共に歩く。
いつもと違う何か――。
霧雨や沙灑のように俺を頼りにしないからか?普段から話さないからなのか?何故なんだ・・・。
「璢夷さん。何を今思っていますか?」
「今?今は、いつもと違う何かがなんなのかと考えていた」
「それは、私が貴方に好意を示さないからです」
「?」
「貴方の周りの人は皆、貴方を甚く気に入っています。だから会話は弾むでしょうし、こんな雰囲気にはまずなりません」
沙灑も霧雨も、緋威翔も鏡も。確かに自分から会話を持ち出すからな、喋らない時間は存在しない。
そうか、だからなのか。
「ならば1つ聞くが――氷椏は俺に好意を示さないと言ったな。それは“嫌い”という事か?それとも“示さないだけ”なのか?」
「勿論示さないだけですよ。私は璢夷さんの事、嫌いじゃないです」
「そうか」
「嫌いって言っていたら、どうしていましたか?」
「いや別に、特に何もしない。去れと言われれば俺は去ったがな」
「嫌われるの、嫌じゃないんですか?」
「人にはタイプがあるからな。俺というタイプが嫌いなやつがいたってなんらおかしくないだろう?俺は無理に自分を押し付けはしない」
「璢夷さんらしい考えです。私はその逆を進んでいますから――その考え方は羨ましいです」
「逆?」
「世の中には、私のようなウジウジしたマイナスなタイプが嫌いな人は沢山いる。だけどその中の少数は、私の事を好んでくれていると。丁度み――あぁ今の忘れてください。言い間違えました。正しくは沙灑さんです」
「ん?あぁ、そうか分かった。・・・氷椏、俺はその少数派に入るからな。何かあったらいつでも相談してくれ」
「璢夷さん。貴方は便利屋じゃないんですから、もう少し自分を大切にしてくださいね。困った時はお互い様ですよ?」
「あぁ。そうだなその通りだ。では俺が困った時は氷椏、お前に相談していいか?」
「どうぞ。私で良ければ力になります」
寮につき、氷椏の部屋へと彼女を送る。部屋の目の前までくると、彼女は一礼した。
「ここまで送っていただいて、有難うございました」
俺は氷椏と別れ、実家へ向かった。実家へつくと、余りにも来るのが遅いと叱られた。俺はただ謝ってその場を凌ぐ。
その後、母親に今日何があったのかを1から根こそぎ聞かれた。チョコは何個貰っただとかまぁそんなものだ。俺は正直に覚えていないと答える。今日買った花は誰にあげたのかと聞かれた時はかなり焦った。部屋から出てないはずの母が何故知っている!?まぁ、誰かが吹き込んだんだろうが。
「確か白、青、紫、黄、赤の花を買ったって聞いたわ。その花は誰にあげたの?」
「白い花は名も知らん女子高生にやった。黄色い花は霧雨、青は依頼人、赤は美麩、紫は――」
そういえば、何処にあるんだ?氷椏と会うまでは持っていたはずだが。
「紫は?」
「俺の大切な友達に渡っていることだろう」
「そう――、なんだてっきり本命がいるのかと期待していたのに。がっかりだわ」
「まぁ、そうそう俺に彼女が出来る事はないだろうな」
「えーっ、早く作りなさいよ~。お母さん、早く璢夷の彼女を見たいわ」
「――その内な」
「楽しみにしてるわよ」
「あぁ。」
彼女にするならば、あいつのような娘がいいものだ。そんな事を思いながら俺はクッキーを口へ運んだ。
今回は
霧雨→璢夷→美麩又は氷椏
ですかね?
まぁ、今のところ璢夷に本命はいないのでなんとも言えませんが。




