大好きなのに【真琴】
バレンタインデーという男子にとってありがた迷惑なこのイベント。そんな中僕はある計画を練っていた。
それは前日から準備していたもの。
どこかの男子は女子がチョコ使ってクッキングしてるところを覗き見してたみたいだけど、その間僕はこの誰もいない空間でひっそりと準備をしていたのさ。
そう、『逆チョコ』を送る為に。
でも肝心の渡す相手は、大好きな彼氏とデート中だっていうから、帰ってくるのをひたすらまつ羽目になった。
ちくしょう。聖夜さえ居なければ。僕はもしかしたらあの人の隣にいたかもしれないのに。
神様どうしてあんな悪いやつをセイラの相手に選んだの!?
取り乱す僕を、誰も慰めてはくれない。――そんなこと、わかっている筈なのに、「大丈夫?」って誰かが聞いてくれる事を願ってる。そんなのありえないのにね――。
不意に携帯の着信音が鳴り響く。
もしかして、やっとデートが終わったの?そんな淡い期待を胸に、携帯を除く。その瞬間、期待は泡のように消えた。
『ねぇ、話がしたいんだけど今暇?』
それはセイラでも女子でもない、真希からのメールだった。僕は真希に用はないとぴしゃりと返事を返す。
返事はすぐに返ってきた。
『えー、なんでさーお願いだよ~っ!』
こいつがいると、計画が狂わされる・・・度重なるお願いというメールに正直嫌気がさした僕は、しょうがなく真希の部屋へと向かった。
チャイム音と共にパタパタとそいつは出てきた。満面の笑みが僕をイライラさせる。
「さ、入って!」
部屋に並べられた沢山のぬいぐるみ。僕はどう反応していいか分からずに無言で入り口に立ち尽くした。
「ん?あぁこれ?政ちゃんがぬいぐるみ好きだからさぁ~」
政ちゃん政ちゃんってお前の頭の中にはそれしかないのか。
「はぁ、・・・で?話って?」
とりあえず話を聞いてすぐに帰ろうと思い、こちらから話を切り出す。
「あぁ、そうそう!聞いてよぉ~っ政ちゃんがさぁ」
「あー政宗がどうした」
また政宗の話か。いい加減シスコンから脱却しろよ。
「政ちゃんがさぁ、顔を赤らめてスウィーツ作ってたんだよ~」
「お前も覗きにいったんだ、へぇ。」
「それでさ~、そのスウィーツ、まだ届かないんだよぅ」
泣きながらすがり付く真希を必死にひっぺがしながら、僕は言った。
「誰か好きな人でもいるんじゃないの?」
そう言うと、真希は急に号泣し始めた。
「うわぁああ嫌だよ~っ!政ちゃんが僕から離れていくなんてー!」
「離れていくなんて当たり前だよ・・・」
思えば真里亜もそうだったし、亜里亞姉さんもそうだった。昔はあんなに仲良かったのになぁ――。
「誰か政ちゃんがチョコあげるような人知ってる?」
「知らない。それよりそのチョコを狙ってるやつはいないの?」
何かを思い出したような、閃いた顔をしたと思うとまた泣き崩れた。忙しいやつだな。
「カインだぁあああ」
「カイン?」
「そうだよ政ちゃんのこと気になってるって・・・!」
「ちなみに何作ったの?」
「確か――あっ!!」
涙を撒き散らしていた真希は急に涙を拭いて言った。
「ダークマターッ!!」
何をいってるんだろ。ダークマターって確か・・・只の真っ黒な謎の物質だったよね。
「ダークマターて・・・何かゲームでもやってるの?」
「違うよ!政ちゃんが作った食べ物は全部ダークマターになっちゃうんだ!だとしたら――」
その得体のしれないものをカインは食べたかもしれないと。それは一大事。
「――まぁ、でも平気だよね。彼、お腹強そうだし」
・・・と思ったら完璧放置プレイ。カインのこと心配してないの?
「そういえば、お前は食べことあるの?ダークマター。」
「うん・・・」
「味は?」
俯くそいつを見れば味なんて一目瞭然だけど、一応聞いてみる。
「まぁまぁ、かな。庶民の感覚からしたら」
「じゃあカインじゃ危ないかもね」
早く帰るつもりが案外長く居座ってしまった。暫く経って時計を確認してみると、もう7時だ。
「その袋、何?」
僕が作ったチョコを指さして興味深そうに聞く真希。
「もしかして、もらったの?」
「いや、セイラの為に作った」
「そっかぁ、じゃあ逆チョコだね!頑張って!」
そんな会話をしていると、セイラからメールが来た。今聖夜とバイバイして約束の場所に向かっていると。
「じゃ僕いかなきゃ」
「ファイト!告白するんでしょ?」
僕はその言葉を聞かないまま走り出した。約束した場所へと。
約束した場所につくと、セイラは先についていたようで、ベンチに座っていた。
「ごめん!遅くなって」
「ううん、大丈夫よ。ところで、話って何かしら?」
「そ、そのっ!」
勢いに任せてそのままチョコを差し出す。何を今更躊躇うことがあるだろう。
「逆チョコってやつ!僕はセイラの事が好きだからっ!」
彼女はゆっくりとチョコを受け取って、微笑した。でもその笑みには・・・憂いも含まれていた。
「・・・有難う。でもごめんなさい。私には聖夜がいるから」
「そんなの分かってるよ」
どう頑張っても聖夜には勝てないって、僕には分かってる。でも、だからといって見ているだけは嫌なんだ。
「言うだけなら構わないでしょ?大好きだよ、セイラ・・・!」
僕は思わずセイラに抱きついてしまった。
セイラは少し困ったような表情をして暫くの間じっとしていた。
「私、家に帰らなきゃ・・・。」
やがてセイラはやんわりと僕の腕をすり抜け、家へと帰っていった。僕はその余韻に浸りながら、空を眺めた。
憎らしいくらいに澄みきった空に、星が輝く。
※敢えてこのエピソードはセイラ視点でだしませんでした。