59 騎士「二手」
ガンナー「アラバの森のときと同じことしたから、俺も騎士も無事だ。今は砂漠を抜けた後の森にいる」
剣士『そうか……心臓に悪いな。僧侶もお前らを追って飛び降りていったんだが、あいつは大丈夫なのか?』
ガンナー「ああ。着地地点が少し離れてたから俺の力はうまく働かなかったが、あいつ自身も地面と衝突する瞬間に回復魔法を使ってたから、力業で無傷を保ったよ。俺の手助けはいらなかったかもな」
僧侶「いえ、だいぶ助けられましたよ。剣士さんたちはそのまま飛行船でリエイドへ向かってください。我々も追いつきますので、宿で合流しましょう」
剣士『ああ、気を付けろよ』
僧侶「こちらにはガンナーがいますし、何かあっても私がついていますので、ある程度のハプニングには対応できます。……ところで、勇者さんはどうされました? 随分とお静かになさっているようですが……」
剣士『ああ、いや、それが……勇者のやつ、お前らが落ちていったのがあまりにショックだったらしくてな、僧侶が飛び降りた直後に気絶して……』
ガンナー「まじで。超面白いじゃん」
剣士『それでぶっ倒れて、魔法使いたちが看てくれてるが、まだ目を覚まさないんだ』
ガンナー「情けねえなあ。……ああ、一応報告しておくが、落ちながら飛行船の周囲を見たけどな、敵の姿や異常の原因らしいものは見当たらなかった。俺から見えない位置にいたか、遠くから魔術か何かを使ったか――そこまではわからねえけどな」
剣士『術師の可能性か……』
ガンナー「そろそろ切るぞ。こっちも進まないといけないからな」
ガンナー「……で、リエイドへの行き方はわかったのか?」
騎士「ここから北西の方角」
ガンナー「じゃあ、あっちに向かって行けばそのうち着くか」
僧侶「日が暮れる前に行けるところまで行くとしますか。何、道中の話題など、余るほどありましょう」
ガンナー「それにしても、これまで三人だけになることって案外少なかったよな」
僧侶「そうですね、東の大陸の――クリエントで合流したとき以来かと」
ガンナー「まあ七人もいりゃあな」
僧侶「今は八人です。……三人で話すべき事柄というのもなかなかありませんが、それでも三人だけで話せる機会も時々はほしいものです」
ガンナー「何、だから追いかけて落ちてきたわけ?」
僧侶「私も気が動転していましたから。それもあったのでしょうけれど、ほとんどは咄嗟にとった行動ですよ。あとは、このあたりの魔物の脅威から二人を保護するためです。いくらガンナーでも傷を癒すことはできないでしょう」
ガンナー「ゆりかごから墓場までってか」
騎士「心情としては」
僧侶「物騒ですね。そもそも、そう簡単に墓場行きになるほど潔い性格でもないでしょうに」
ガサガサ、
僧侶「それに、このメンバーのほうが何かと暴れやすいのでは?」
魔物「ヴヴヴ……」
ガンナー「……違いねえな」
~・・・~
吟遊詩人「あれからすぐに船は元通りになったけど……結局、原因は有耶無耶なままね。新しい刺客の仕業なんでしょうけど、姿を見せることはなかったし……」
剣士「落ちて行ったガンナーからも飛行船の周りに怪しい奴は見えなかったらしい」
魔法使い「あ、あの状況でよく船の周りを見る余裕があったね……流石というか、なんというか」
勇者「こここのへんの魔物は強いって、強いって……僧侶と騎士が、ああああ大丈夫かな大丈夫なのかな」そわそわ
剣士「……勇者はずっとあの調子なのか」
吟遊詩人「目を覚ましてからずっとよ。よっぽど心配みたい。それも仕方ないけど……私も三人が落ちて行ったときは眩暈がしたもの」
剣士「でもあいつ、ガンナーの心配はしてないのな」
魔法使い「連絡をとるまで気が気じゃなかったよ……剣士が私たちの分まで騒いでくれたから、取り乱さずに済んだけど」
剣士「まるで俺がひどく取り乱していたみたいな言い様だな。騒いではなかっただろ」
魔法使い「取り乱してたじゃん……騒いではなかったかもしれないけど、めちゃくちゃ取り乱してはいたじゃん」
商人「アッシは腰を抜かしましたよ……」
吟遊詩人「……今もじゃない?」
商人「し、失敬な。立てますとも、た、立て……」ぷるぷる
剣士「生まれたての小鹿みたいになってるぞ」
商人「で、ですが、しかし、目の前で人が落ちて……」
剣士「……」
剣士「……や。でも、まあ、二回目だし……」
吟遊詩人「一回目が既にあったものね」
魔法使い「それに僧侶に至っては自分から飛び降りたし……だからなんか、『あ、じゃあ意外と大丈夫なのかな』って気持ちが何処かにあったよね」
商人「僧侶殿の異常な信頼度……」
剣士「……とにかく、あいつら自身が大丈夫だって言ってるんだ。下に降りる手立てがない俺たちは、それを信じてこのままリエイドに向かうしかないだろ」
吟遊詩人「そうよね」
勇者「あわわあわわわわあわ」
剣士「……勇者はしばらく放っておこう」
~下方、森~
ガンナー「さすがに日が暮れてきたな」
僧侶「ええ。リエイドには一向に到着する気配がありません」
騎士「今日は野宿」
ガンナー「もう少し進んでみて宿も何もなきゃ、そうなるだろうな。安全じゃあないが、この状況じゃ仕方ねえ。僧侶、簡易テントか何か……」
僧侶「ここに」スッ
ガンナー「あるんだな」
僧侶「小さいですが三人ならなんとか入れると思います」
ガンナー「……まあ、雨風凌げるならいいか。仕方ないから、そのときは俺が見張りやっといてやる。これほど安心安全な警備もないだろ」
僧侶「その通りですが……あなたも少しは休まれた方がいいでしょう。三時間ほどで起きますので交代して――」
そのとき、ガンナーの隣を歩いていた僧侶の姿が消えた。
違う。正確には転倒したのだ。
そのまま、すぐ背後に一メートルほど引き摺られ、今度はさかさまの状態に宙吊りになる。
足には縄。
直後、その縄の先でガラガラと、スチールの缶同士をぶつかり合わせるようなやかましい物音が響いた。
ガンナー「僧――」
瞬間。
風を裂く音にガンナーは騎士を隠すように彼女の前に立ち塞がった。
ざくん、と強い衝撃が右肩に刺さる。重みに肩を後ろに持っていかれるが、そのまま体をねじって騎士の体を強く押した。
ガンナーの風の力に押され、騎士は森の茂みに身を隠すように吹き飛ばされる。
肩には木製の矢が突き刺さっていた。
騎士「!!」
僧侶「ガンナー!」
ガンナー「チッ、お客さんかよ」
負傷しながらも銃を手に取るが、銃口を向けようとした先を見てガンナーは動きを止めた。
前方には数人の人影が、ボーガンを持って立ち尽くしている。
ガンナー「(人間? ……いや、あれは)」
エルフの男1「子ども二人だけで来るとは愚かな」
エルフの男2「さっきもう一人いなかったか?」
エルフの男1「俺には見えなかったぞ、気のせいだろ」
エルフの男3「まあいい、連れて行け。村に入ろうとした人間は子どもであろうと皆、死刑だ」
ガンナー「……あーあ、こりゃ、見張りは必要、なさそう、だ」ドサッ
僧侶「ガンナー!?」
エルフ2「やっと効いたか……どんな魔物でも三秒で眠る薬だぞ。このガキ、どうなってるんだ」
エルフ1「量を間違えたのかもしれん。とにかく行くぞ」
僧侶「我々をどうするおつもりですか」
エルフ3「聞こえなかったか? 我々の村に入ろうとした人間は死あるのみ」
僧侶「村? 死刑? どういうことですか」
僧侶「(このあたりのエルフは本来ここまで攻撃的な種族ではなかったはず……それが何故?)」
~飛行船~
勇者「な、なあ、リエイドまであとどれくらいで着く?」
剣士「お前それ何回目だよ……」
勇者「だ、だって、早く三人と合流しないと……」
剣士「それは勿論だが、今焦ったってしょうがないだろ」
勇者「あばばばば」
剣士「おいこいつどうにかならないのかよ僧――」
剣士「(僧侶いねえんだった)」
剣士「……俺、あいつみたいなカウンセリングはできないわ。吟遊詩人、パス」
吟遊詩人「あなた私をなんだと思ってるの……」
剣士「この中で他人を宥められるのってお前くらいだろ」
商人「勇者様、お気を確かに……」
魔法使い「勇者ぁ、たしかに三人は心配だけど、ガンナーがいるんだよ? 何かあっても僧侶だってついてるし、あの三人なら大丈夫だよ」
勇者「そうかなあ……」
剣士「そうだそうだ。ガンナーがついてんだから――」
剣士「!」ゾクッ、
剣士「(なんだ? 今、一瞬寒気が……)」
吟遊詩人「剣士、どうかしたの?」
剣士「え、あ、いや……とにかく、あんまり気にしすぎるな。今は自分たちのことだけ考えろ。またさっきみたいな襲撃がないとも限らないからな」
吟遊詩人「そうよ勇者。合流するにも何をするにも、まずは私たちが無事にリエイドに着かないとどうしようもないでしょ? それに、さっきも連絡を取ったときは三人とも平然としてたわ。今日はもう休みましょうよ」
魔法使い「そうだよ。明日の朝、起きたらリエイドに着いてるはずだから、慌てるのはそれからでもいいじゃん」
勇者「皆……。ごめん、なんか、俺ばっかり取り乱してて……なんか、自分が情けないよ」
魔法使い「むしろ、勇者がそうやって私たちの分まで慌ててくれてるから、私たちは平気でいられるのかもね」
剣士「……」
勇者「でも……なんか、まだ嫌な感じがするんだよな」
~下方、森~
騎士「まずいことになった。二人がエルフたちに連れて行かれた」
騎士「勇者たちに連絡を……いや、今連絡を取ったところで、飛行船にいる五人は何もできない。動揺させるだけだ」
騎士「ボーガンで撃たれた」
騎士「ガンナーが怪我をした」
騎士「……許しがたい」
騎士「彼に傷をつけた報いを受けるべきだ」
~エルフの村、付近~
騎士「(木の上から見てみると、村の周辺に大量の罠が仕掛けられているのがわかる。何のために……)」
見回りのエルフ「……」ざ、ざ、
騎士「(あれは――人間? いや、ローブを被っていてよく見えないが、ここにいるということは村に住んでるエルフ……)」
見回りエルフ「ふあぁ……流石に眠いな。そろそろ戻るか」
「だったら」
ガッ、
見回りエルフ「!?」ドサッ、
騎士「今夜はここで寝るといい」
騎士「ローブを借りていく。心配はいらない。周囲にこれだけの罠があるなら、魔物にも襲われずに済むだろう」
騎士「もしそれでも襲われたら、そのまま死ぬといい」
騎士「(……二人がどこにいるのかわからない。慎重に行こう)」
騎士さん騎士とか嘘だろ絶対アサシンだろ。




