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盟約の血族  作者: 紫乃月 聖巴


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01. 始まり

※転載、翻訳禁止です。

 アルセスバ王国。

 かつてこの国は、いくつもの部族が争いを起こし、戦乱の世につつまれていたという。

 多くの血を流し、終わりの見えない争いに人々は疲弊していた。


 そんな中で五人の族長が手を組み、この争いを終結に導いた。

 後に五人の族長が束ねる血族は、この国の柱となる王家と四つの公爵家に分かれた。

 王家と四つの公爵家は、二度と争いを起こさせないことを誓い盟約を結んだ。


 その証として、彼らは己の血を一滴ずつ黄金の杯に垂らしたそれを共に飲み干した。

 お互いを裏切ることができない魔術契約によって誓いは立てられた。

 それは子孫にも受け継がれる。

 その杯は始祖の杯と呼ばれ、王家で大切に保管されている。


 そして、当主が代替わりするその時だけ、儀式を行い再び杯を使った。

 杯は始祖の血の記憶を宿しているという。

 王家と公爵家四家の当主の立ち合いのもと、新たな当主となる者が杯に注がれた秘伝の酒を口にする。


 この儀式は十五歳を迎えた者だけと定められていた。

 魔具である杯の宿る力があまりにも大きく、幼い体では受け止めきれないとされていたからだ。

 その酒を口にした直系の血を引く者であれば、杯は光りを放ち左手に当主の証が刻まれる。

 だが、直系でない者が口にすればその者は罰を受け、体を焼き尽くされるという。


 それ故に、王家と公爵家四家は血筋を何よりも重んじた。

 それを偽ろうとする者は、重罪人として裁かれる。


 代々の四家の当主は次代当主にこう伝えてきた。


「始祖の血が我らの中に流れていることを国そのものに証明する神聖な行いである。故に偽ることは決して許されない。偽ることは始祖への裏切りである」


 王家と公爵家四家の直系は、それぞれ特殊な能力に目覚めるという。

 歳はバラバラだが皆、十五歳には目覚めていた。

 その力は王家と公爵家四家の直系のみに知られている。


 そして今も続く公爵家四家。


 国の武具を取り纏めている、ブジスッグ公爵家。

 国の防衛を任されている、ショルンク公爵家。

 国内の交易統括を任されている、コルシェイ公爵家。

 隣国との国境と港の交易路の整備と守りをする、カディストロ公爵家。


 いずれも王家と共に国の礎を築いた始祖達の末裔であり、王家と公爵家四家は五つの柱と呼ばれ、互いに支え合いながら国の均衡を保ってきた。






 王国の北東に、一本の交易路が延びている。

 隣国と王国を結ぶこの道は、多くの商人や旅人が行きかう。

 東の港町には諸国の商船が行き交い、異国の品々が流れ込んでくる。

 ここを整備し守り続けているのが、カディストロ公爵家である。



 現在のカディストロ家当主であるレセーラ・カディストロは若くして当主の重責を継いだ。

 日々、領地に目を配りながら民と共に歩んできた。


 彼女は、聡明な女性として知られていた。

 隣国との小競り合いを武力に頼らずに交渉で収め、不作の年には隣国の協力を得て、領民を助けた。

 民を思いやり寄り添う、その姿勢から民に慕われている当主であった。


 レセーラには特殊能力がある。

 未来の断片を垣間見ることができる力だった。

 ただその力は、自由自在に使えるものではなかった。


 眠っている時に、その光景が映し出されることがある。

 始めてこの力が目覚めたのは、彼女が九歳の頃だった。

 領地の近くの村で、幼子が川に流される光景が見えた。

 それを当時当主だった父に伝えた。


 その後、父が念のためにその村に警備兵を手配した。

 数日後に見回りをしていた警備兵が、川に落ちかけた幼子を間一髪で救い上げたと報告があった。


 それからも町にある宝石店の強盗、ある村の水害などが映し出され、対策をとったことで被害を最小限に抑えることができた。


 そして父からは、王家と公爵家四家の直系には何かしらの特殊能力が目覚めるのだと知らされた。

 カディストロ公爵家は未来視、過去視、治癒、念力の能力に目覚めることが多いそうだ。

 稀に二つの能力を持つ者もいるらしい。

 レセーラが見えたそれは未来視だと教えられた。

 だから、見えたものを見過ごしてはならないとも。


 この国に流行り病が蔓延した年があった。

 その時にレセーラは両親を失った。

 レセーラが十六歳の時だった。


 レセーラが当主となって二年の歳月が流れた頃――。

 隣国と国境紛争を見た時、国王に進言した。



「国王陛下。この紛争は武力で応じるべきではございません」

「未来視か」

「はい。武力で応じるとますます激化するでしょう。彼らには理由があります。その解決策をこちらから提案すれば、短期間で終息します。私が直接、交渉致します」


 彼女の交渉は功を奏し、血を見ることなく紛争は収まった。


 不作があった年もそうだった。

 数年後、不作がこの国で起こる年があった。

 今、隣国では不作の年に陥っている。


 隣国に協力を申し出て、王家と公爵家四家の力で自国の蓄えを与えた。

 そして、自国に同じような事態が起きた際には同様の対応をとることを条件とした契約を交わした。


 こうしてレセーラは未来視を利用して、いくつもの危機を未然に防いでいた。






 レセーラが二十歳を迎えた頃だった。

 その年、海から複数の船舶で海賊が押し寄せて攻め込んできた。

 レセーラは、この未来視を見ることはできなかった。


 海賊が押し寄せてくる中、一人の騎士が活躍した。

 イベッスル侯爵家の三男で名は、クワッソ。

 彼が率いる部隊が敵陣に乗り込み、海賊頭を打ち取った。

 その武勲は瞬く間に王都に広まった。


 国王は彼に褒章を与えることにした。


「望みのものを与えよう。何を望む?」

「……大変恐縮なのですが、レセーラ・カディストロ様を妻に迎えたく存じます」


 彼が望んだのは、レセーラ・カディストロを妻に迎えることだったが、レセーラはカディストロ家の当主でもあった。

 その結果、クワッソはカディストロ公爵家に婿入りすることになった。

 レセーラはこの時、彼がなぜ自分を望んだのか分からなかった。

 なぜなら彼とは今まで交流したことがなかったからだ。


 これは望まない婚姻だったが受け入れるしかなかった。


 婿入りをしたクワッソは初め、物腰が柔らかくて多くの者が良い印象を受けていた。


 ある夜、屋敷の書庫でひとり書物を読んでいたクワッソを家令が見かけたことがあった。


 その書物は、公爵家四家の当主についての記録だった。


「旦那様、何をお調べですか?」

「……いや、この家の歴史を覚えておこうと思ってな」


 そう答えたクワッソの顔に家令は僅かながらに、いつもの落ち着きがなかったことを感じたという。

 家令はその様子に、少し不審に思った。






 婚姻から一年、レセーラとクワッソの間には穏やかな日々が続いているように思えた。

 王命による婚姻であったが、それでもレセーラは妻として努めてきていた。

 二人で庭を散歩したり、街に出かけたりすることもあった。

 日々、他愛ない話をしたりもした。


 そんな日の夜、眠りの中である光景が映し出された。

 王都の外れにある小さな邸宅。

 その扉を開けるクワッソの姿。

 そして彼を迎える美しい女性。


 その日はそれだけだった。

 それから何日も、クワッソとその女性が一緒にいる映像が流れた。


 ある日、レセーラは密かに夫を調べさせた。

 その報告は、映し出された光景と一致していた。

 相手の女性の名はアンネーラ。


 夫があの女性と自分に向ける顔は明らかに違っていた。

 本命は最初から彼女だった。

 その彼が我がカディストロ公爵家を調べていると報告があった。

 どうやら彼の生家も絡んでいそうだ。


 その時、レセーラは気づいてしまった。


「あの男は最初から私ではなく、この家を望んでいたのね……」


 それからも未来視は見続けた。

 そして彼女に残酷な光景が映し出された。


 自分の死。

 夫の隠し子。

 自分亡き後、夫があのアンネーラと隠し子をこの家に迎える様子。

 顔が映し出されない女の子の孤立した姿。

 夫の隠し子が当主の儀式を執り行っている場面。

 この時、レセーラはある決意をした。






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