帰郷への開拓路 25話「祀りの供物」
「ライ!ついに、獣ならず者との舞だな」
ライ「ああ、戦闘の様な祈祷式。これはどこに行ってもあまりないワクワク感があるな。剣など、植物の実を食べるために栽培するほか無かろう。だが、目の前は植物どころか、肉も食べても体が満足しない有名人だ。戦闘の時は弓を構えたことしかない。前に中規模の魔物の討伐に携わった程度だ。それで、思いついた戦法がある。しかし、魔物ももっと簡単に倒せる世の中になればいいいな。」
「ああ…あっしらが立てた建造物が壊された鬱憤をここで晴らしちゃいましょう。おやっさん」
大工の師弟である2人は目の前に立つガタイの良い黒髪の男に虚勢を張る様な声色で、試合前の会話をする。そして、これが一番最初の試合なのだ。トーナメント方式ではなく、勝つか負けるかの二択のみ。そこに、王であるトート=ヤシェルが簡易的な鉄の玉座より、大衆に向かって、大きく手を広げる。勝者には、力を得る獣人と変われる肉料理を獲得できる。この世界の住民が肉を食べるのはこの時だけだ。
錬金術師「今日、この地に参られし、トート=ヤシェル様だ!皆、かの御仁が、真に尊き、神の言葉を捧げる存在だと知れ!トート様は神聖なるお方だ!かの御仁に、身を挺して、知恵を授けよ!健闘を祈る。民よ!闘技を見せよ!」
錬金術師はトートの隣で、大きく叫ぶと、歓声が上がるが、王が手を下ろすと、声は静まる。
トート「この地に、赴くことができたこと、大変意義ある行為だと私は感じている。皆!己を労い、励め!」
更に歓声が上がるが、ギークとユミは下を向いて2人で顔を合わせて口をぱくぱくさせて、声を出さずに会話をする。恥ずかしいから、そのような会話法に自然となるが、スティッラ夫妻は肉を食べても、獣人になったことが一度もないのだ。それが強烈に気まずい。2人は祭りの屋台ではしゃいでいたが、この場面だけは顔が死人である。
ユミ(ねぇ!今回はわざと負けるの?)
ユミは拗ねた声でギークの袖を引っ張り、ナイフを自身の首の前に置き、人差し指を刃の先に当てる。
ギーク(負けない。)
ギークは人差し指を挙げて答える。
ユミはその言葉に少し、驚きを隠せなかった。
うるさい歓声の中での会話が成立するのはこの夫婦くらいだろう。
ユミ(意外だわ…ま、例の男のプライドってやつでしょ?)
表情だけでユミは語る。
ギーク(顔と名前が売れちゃうと、困るよな…そういうこと。家を建ててもらった相手に手加減はできないからね。)
ギークはライを見つめて、ユミにウィンクをする。
ユミはニコニコしながら、屋台にあるかぼちゃの様な根野菜を指差して、ナイフを舌で舐める。ギークが翻訳するに、
“野菜もくり抜いたら野菜も綺麗になるし、互いに喜んで得するのはいい負け方でしょ?負けなよ”
だそうだ。ニコニコして比喩するユミに対して、ギークは軽く首を振って答える。
ギーク(よせって)
ギークはそうすると、壇上へ上がる。
そして、ライも壇上へ上がる。
錬金術師が旗を土俵の中央に垂らし、構えている。それがあげられたら勝負だ。
ライ「よ!住み心地はどうだ!俺たちは丹精込められた建築が汚されると向っ腹が立つんだよ。職人の魂が汚された様でな。」
ギーク「ありがとう。感謝の剣は“手を抜かない”だな」
ライは表情を鋭くする。
旗が上がると、ライは剣を早速、片手の大振りでギークの体へ落とす。が、ギークはすでに後転して、剣の間合いから離れており、ライの剣の上を滑る様に斬りかかるが、ライはギリギリで、頭を屈ませて、右腕が吹き飛ぶ程度で、済んだ。そして、ライは、右足でギークを蹴るが、ギークはライの右足を縦に裂く。ライは右足を失い、軽くなった瞬間を利用して、吹き飛んだ右腕の残骸へ左手を伸ばして剣をなんとか掴む。が、ギークは剣を投げ、ライの首へ突き刺さる瞬間に詰め寄り、刺さった剣を捻って首を落とす。
ライ「やはりか…」
転がり落ちるライの首は分かりきった試合結果にそこまで、動揺していない様子だった。
周囲は歓声が響き、ライの体の破片が植物と化して、花が舞台を彩る。




