帰郷への開拓路 13話 「修羅」
ギークは屋台の美味しそうなこの地域でしか取れないソウキン草の焼き物を購入して、歩きながら食べていた。味は結構スパイシーで、とろける果汁が食欲を一瞬で満たす。が、ふらつきはとれない。そうすると、声をかけてくる獣人がいた。
「よぉ!ギークさんじゃないか!凄まじい酔い潰れ具合じゃないか?」
彼はギークの知り合いだ。名をジェミと良い、獣人で、剣技が凄まじい猫耳の生えた可愛らしい女性だ。豪快な口調が癖だが、勤勉な人だ。農家の仕事をしている。森で有用な植物があるか調べる人でもある。
ギーク「ジェミ…久しいな。あの大戦で無事だったのか?」
ジェミ「私は遠出の仕事がありまして、無事でした!それより、ギークさん聞いてくださいよ。この前、すごい人に会ったんです。狼の獣人が一緒に仕事を手伝ってくれたんですよ!そしたら、有用性のある未知の植物を発見したんですよ!その人!そのおかげで、私も大儲けですよ!」
ギーク「そりゃすげぇな」
早口で喋るジェミにギークはさりげなく肩を預け、2人は歩く。ジェミの話曰く、その狼の獣人は植物の扱いが異様に上手く、持ち帰ったその新種の植物を育てて、売るほどの量を揃えたとの話をする。
ギーク「そいつの名前は分かるか?分かるなら、聞かせてくれ。そんなすごい奴がいるなら、覚えておきたいな」
ジェミ「狼の獣人!そいつねー。ネフィルって言ってたぞ。」
ギーク「すごい奴がいたな」
ジェミ「そうだよ」
2人は商店街をフラフラと歩く。
ジェミ「ギークさん。そんなにフラフラしてて、また酒飲んだんでしょ?酒強いなら、一杯行きませんか?」
大分、無茶な事を言うが、彼女は探究心の強い野心家だ。ギークは妻がいるにも関わらず、軽く返事をする。というのも、かなり酔っているからである。酒も飲んでいないのに。
ギーク「行くか…」
ジェミ「あっちに仲間もいるんで、行きましょ!」
ギーク「肩借りて悪いな。そろそろ自分で歩くよ」
ジェミ「ギークさん酔いすぎですよ…ふふっ」
2人は酒場に入る。酒場のマスターも獣人で、人のギークを見て驚く。しかし、彼が傭兵であり、酒場に入ったからだ。傭兵ではない獣人であるジェミの団体はギークを歓迎する。
獣人のジェミの仲間は、驚く、そして、歓喜してギークを輪に入れる。
獣人「ギークさん!よく生きてましたね!最高じゃないですか!」
ギーク「俺の槍が上手く答えてくれたんだよ」
獣人「やるじゃないですか!」
ギークはゲラゲラと笑う獣人に囲まれて癒される。彼は酒場が好きなのだ。特に彼は獣人に慕われており、酒が運ばれる前に、盛り上がる内に、ギークに酒が運ばれてくる。
ギーク「それで?その植物が取れない地域の魔物は街道をまだ彷徨いてのか?」
話しながら、発泡酒をギークは手に取る。
ジェミ「商人達は結構苦労してるみたいです。何せ名持ちですからね。そいつ」
ギーク「ふむ。」
ギークは手の中の発泡酒をぐいっと一気に飲み干す。その瞬間、肩から腰にかけて、全てがシャキッとする。症状が全て治ったのだ。
(ん?…待てよ。何故治った?)
ギーク「かぁ…!良い酒だ!マスター!もう一杯頼めるか?」
(酒か…回復のきっかけは酒か…?なるほど?俺は酒では調子が狂わないからな。そう言うことか)
ジェミ「良いの飲みっぷりだな!ギークさん!」
ギークは戸惑いながらも、酒を飲みながら、浴びる様に酒を飲む。調子が良くなるからだ。
すると、獣人達も酔っ払ってきたのか、ポツリポツリと宿へ帰り、ジェミとギークだけになってしまった。ついに、ジェミも泥酔し、フラフラと帰っていった。ギークはシャキッとして、いくので、酔ったテンションに影響を受けて、顔を赤くして、気分が上がっていた。
すると、先程の商人であるマーチェもこの酒場で錬金術師と話をしていた。マーチェは酒を飲んでいる。そして、錬金術師も酒ではないが、飲み物を飲んで商談のような形の話し合いをしていた。
酒場に怪しげな人物が入ってくる。兵士の格好をしているが、胸の装備だけがそうなだけで、他は農夫のような格好をしている輩が、マスクをして顔を隠し、縄と槍を持って入ってくる。
ギーク「ん?何だ?…事件か?」
兵士もどき「俺達はこのケモノならず者を頂きに来た。」
ギーク「?」
ギークは困った顔をしながらも、槍を構える。
兵士もどき「もっと意識が朦朧としてるかと思ったが、案外冷静じゃないか?」
周囲は驚き、マスターはカウンターに身を潜める。
ギーク「どこからやってきた?お前らじゃ俺に勝てない。ただのならず者には負けないよ?」
兵士もどき「フラフラしてるあんたをつけてきたのさ。こっちもそれしか答えられないのでね。他の皆々様には危害は加えない。この酒場から出ない限りな?」
マーチェ「ひぃ…」
兵士もどき「黙れ!」
周囲は萎縮し、椅子の陰などに隠れる。
ギークはポケットから縄とナイフを取り出して、隠しながら、構える。
兵士もどきの数を数えるギーク。
5人だ。
刹那に、ギークは縄で1人を捕縛するように乱雑に縄を投げるが、兵士もどきの2人は素直にそれを縄で弾き返すが、何故か粘着性を帯びていたギークの縄は彼らの縄を地面に叩きつける。
残りの3人は縄で素直にかかってくるが、ギークは木の椅子を片手で投げ、もう一つの手で同じく縄を投げて、鞭のように、木の椅子をグルグルに巻いて奴等の足元にぶつけて足に突き刺す。
兵士もどき「ダメだ!撤退だ!」
兵士もどきの2人が逃げ出したが、ギークは3人を素早く、木の破片で足を突き刺して足を挫き、腕を一人一人の後ろで手を組ませて、二本のナイフで腕を縛る。しかし、1人の兵士が、2人の兵士の首をブーメランのような道具で、ギーク諸共、切ろうとするが、ギークは避ける。
ギーク「液体が飛び散る!毒か!気休めかな!」
そして、2人とも兵士もどきは首だけになり、1人が仲間の首だけを回収して、立ち去る。酒場は醜悪な死体が植物と化して、花を咲かせた。
ギーク「たくよっ!何故こんな酒場でこんな事になるのか?マスター!すまん。壊したマナは払っとく。」
マスター「あ…ありがとうございます…。」
マスターは怯えて声を震わせながら答える。ギークはマナの入った袋をマスターのいるカウンターに置く。
ギーク(何故あいつらは俺を狙った?あれは魔物のせいなのか?こんな犯罪、この向けられる残虐さ。魔物しか有り得ない。罪を犯した人間は極少数しか現れていない。年間で5人しか現れない程貴重なのに、一度に5人だと?)
深夜近い静かな酒場で起こった事件は黒いローブを着た集団が集まり、犯人の特定と、指名手配する流れまでになったが、“兵士もどき”は全員マスクをしていた為、翼を持つ守護者である存在が、特殊な魔法陣を用いて名前と所属と場所を割り出す作業にかかる。
事故現場の処理が進められる中、目撃者は外で待機させられる。その人物はギークの最近知った顔だった。
マーチェ「め、珍しくお会いする頻度の高い人に知り合えましたね。ギークさん。手際がよろしくて、あの者達は魔物に操られているのですよ。商人の伝説には、人に取り憑く魔物は多いと聞きますよ。気にすることはないです。」
マーチェは朗らかな表情で語る。ギークを落ち着かせる意図は皆が見え透いている。
ギーク「マーチェさん。しかし、彼等は自ら切断を行った。しかも、毒付きの。俺らが使ってるあの毒だよ。あれは人にはあまり効果はないが、魔物には上等なやり方で効き目のある代物だ。心配ない。俺は落ち着いている。とりあえず、このスモクの地を離れる。」
マーチェ「そうだ。ギークさん。丁度良い。その腕見込んで、今回の私の油運びの護衛、引き受けてくれない?水の聖域までの運搬なの。」
ギーク(水の聖域!?家に帰れるのか?)
錬金術師も変わらずずっと落ち着いた表情で頷き答える。
錬金術師「私も、今回のルートで最短があの、緩い丘を通ったルートが近いです。しかし、その下の帰る途中にある湿地帯に、名持ちの魔物がいるのですよ。私達でも、時間を割いて倒せる魔物ではないので、ギーク様に護衛していただいた方が良いです。日取りが早くなったのです。」
マーチェ「デザン1人では逃げるのは簡単だけど、応戦するのは難しいし、ギークさんに付いてきてもらった方が私も楽だな。1000マナでどう?」
ギーク「丁度良い。引き受けよう」
ギークはタイミングが良すぎて喜び、心が身震いをする。
マーチェ「そういえば、体調治ったみたいですね?さすが、“ケモノならず者”…!3日後の朝早く出発して、湿地帯に入る前に野営、その後湿地帯を抜ける手筈になってるよ」
ギーク「了解した。どこで落ち合えば良い?」
マーチェ「私の店に来て貰えば大丈夫だよ」
ギークは少し不安げに事故現場を振り返りながら、宿へ帰る。




