4話
「ひ、光ちゃん……」
「何ですか? 文香先輩」
「そろそろ……離して……」
「……分かりました」
光ちゃんは私を抱きしめていた手を離した。
「ふぅ……」
正直、心臓が高鳴っていた。顔が熱いし、光ちゃんにバレたら恥ずかしいかも。
「文香先輩」
「な、なに?」
「付き合い始めた記念に、写真撮りましょう」
「……え」
「ちなみに、拒否権はないです」
「……」
可愛らしい笑顔でそう言う光ちゃん。
「ほら、こっちに寄ってください」
「……うん」
私は光ちゃんの隣に立つ。
「何でそんなに離れてるんですか?」
「……だ、だって……」
私がもじもじしていると、光ちゃんが私の肩に手を回した。
スマホを自撮りモードに切り替える。
「ほら、撮りますよ。ハイチーズ」
パシャリとシャッター音が響く。
光ちゃんは撮った写真を確認した。
「表情が硬いですね、目線もどこ向いてるんですか?」
「……」
だって、蒼ちゃん以外と写真を撮る経験無いし、人と話すだけで緊張するのに……!
「もう、仕方ないですね。もう一回チャンスをあげます」
光ちゃんはもう一度スマホを構えた。
「では、いきます」
次も無理。
そう諦めていると、光ちゃんに顎を掴まれた。無理やり光ちゃんの方へ顔を向けられると、光ちゃんは私の頬にキスをした。
「え……」
戸惑っていると、パシャリとシャッター音が響いた。
「あっ、良い写真撮れました。文香先輩もいります?」
「……」
「おーい、文香先輩」
「っ……」
私はダッシュで教室の隅に移動して、膝を抱えた。
キ、キスされた! な、何で! どうして……!
頭が混乱していると、光ちゃんが近寄ってきた。
「ほっぺにキスくらいで、顔を真っ赤にするなんて可愛いですね」
「っ……」
光ちゃんは私に手を伸ばすと、唇を指でなぞった。
「唇にキスしたら、気絶するんじゃないですか?」
光ちゃんの顔が近づいてくる。
え? キスされる……?
それは嫌……!
私はギューと目を瞑った。
「……」
いつまで経っても、キスをされないので、目を開ける。
「ふふ……あはは」
光ちゃんが目に涙を浮かべて笑っていた。
「もう、冗談ですよ文香先輩。いきなりキスなんてするわけないじゃ無いですか」
「っ……」
か、揶揄われた……!
羞恥心と怒りで顔が熱くなっていく。
「まあ、今はですけど」
「え……?」
「当たり前じゃないですか、付き合うてことはキスやエッチなことしますよ」
「っ……」
私と光ちゃんが……!
その光景を思い浮かべ、脳がショートした。
「文香先輩は可愛らしいですね。今日はほっぺにキスだけで勘弁してあげます」
光ちゃんは私に背を向けると、扉に向かう。扉を開けて振り返った。
「これからよろしくお願いします、文香先輩」
「よろしく……」
「後、言わなくても分かると思いますが、私と文香先輩が付き合っていることは秘密ですよ」
光ちゃんはそう言い残すと、教室を出て行った。
「……はぁ」
私はため息を吐いて、その場に座り込んだ。
蒼ちゃんが好きな女の子と付き合う。それだけでもややこしいのに、光ちゃんは蒼ちゃんとも付き合う。
「……どうしよう」
一つだけ言えるのはこれから大変になるということだ。
***
「文香、少し良いか?」
「うん」
真剣な顔をした蒼ちゃんに声を掛けられた。
私は蒼ちゃんに連れられて、屋上に着く。
「実は……あー、その……」
珍しく蒼ちゃんが言い淀んでいた。
頭を掻くと、ようやく覚悟を決めたのか私の方を真っ直ぐ見た。
「……光と付き合うことになった……」
「……そっか、おめでとう」
どうやら、光ちゃんは約束を守ってくれたようだ。
「ありがとう……」
蒼ちゃんは屈託のない笑みを浮かべた。
チクリと私の胸が痛む。
この笑顔の為に、光ちゃんと付き合っていることは絶対に秘密にしないと。
「それで……何だが、文香に相談があって……」
「……私で良かったら力になるよ」
「ありがとう……今度の休みに、光とデートする事になったんだけど……服が分からなくて……」
「……」
蒼ちゃんは服装には無頓着。動きやすければ良いと思っている。でも、私もデートに来ていくようなおしゃれな服装なんて知らない。
「……ごめん、私力になれないかも……」
「そ、そんなことない……! 一緒に考えればアイデアの一つや二つは出る筈だ……!」
「蒼ちゃん……うん、そうかも。頑張ろう」
私達は帰りにファッション誌を買った。私の家でどんな服装が良いか話し合うのであった。




