↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/50

3話

 蒼ちゃんが告白して一週間が経ったけど、返事はまだ来ていない。


「はぁ……」


 蒼ちゃんが窓の外を眺めながら、ため息を吐く。

 題名をつけるなら恋に悩む乙女。

 けど、机の上にある山盛りのおにぎりが台無しにしていた。

 蒼ちゃんは無意識におにぎりを食べていた。


「……」


 蒼ちゃんは大食いだけど、お腹に肉がついているわけではない。栄養は全て豊かな胸に入っているのだ。対する私は真っ平で、食べ過ぎれば、お腹に栄養が溜まる。

 世の中、なんて不公平なんだ……!


「蒼ちゃん」

「……」


 呼び掛けるが蒼ちゃんからの反応がない。これは重症……!

 私は蒼ちゃんの肩を掴もうと手を伸ばした。


「え?」


 途中で蒼ちゃんに手を掴まれる。そして、手は蒼ちゃんの口元に運ばれる。

 嫌な予感がした。けど、時すでに遅く、蒼ちゃんは私の手に噛みついた。


「い、痛いっ……! 痛いよ! 蒼ちゃん……!」

「……ん? あ、ごめん」


 蒼ちゃんが私の手を離した。

 手を見ると、歯形がくっきりと残っている。


***


 放課後、いつもなら、蒼ちゃんと一緒に帰る。けど、今日は蒼ちゃんはバスケ部の助っ人に行ってしまった。

 私は一人廊下を歩いていると、後ろから声が掛かった。


「緑川先輩」

「っ……」


 蒼ちゃん以外にあまり名前を呼ばれることが無いため、恐る恐る振り返る。

 蒼ちゃんが告白した女の子が立っていた。


「すいません、少しお話ししたい事があって……今から大丈夫ですか?」

「……だ、大丈夫」


 一体、何のようだろう。

 私は彼女の後をついていく。そう言えば、名前も知らない。

 連れてこられたのは空き教室。

 知らない人と二人きり。正直、逃げ出したい気分。


「突然、すいません。私は一年の七瀬光です」

「私は……緑川文香です……話って……」

「はい……ご存知かと思いますけど、緑川先輩の友達の夏目先輩から告白されてまして……」

「……」


 もしかして、私から断って欲しい、て話……!

 む、無理……! 蒼ちゃん、絶対泣いちゃうもん……!


「その……夏目先輩のことを色々と教えていただきたくて」

「蒼ちゃんのことを……」


 私は唇を噛み締めた。

 蒼ちゃんのことを聞くってことは、興味があるってこと。これは脈ありと言っても良い……!

 けど、私の説明次第じゃ、ダメになるかも。それでも、蒼ちゃんに日頃の恩を返すチャンスだ。


「えーと……蒼ちゃんは……とっても運動神経がいいです……! この前も……その三階から飛び降りても怪我しなかったし……後は、色々な部活から助っ人も頼まれてて……勉強はからしきだけど……必死に頑張る姿も……」


 私は拙い言葉で、蒼ちゃんについて語る。

 もし、蒼ちゃんと七瀬さんが付き合うことになったら、私と過ごす時間は減るだろう。寂しいけど、蒼ちゃんの幸せのために、私は我慢しよう。


「よく分かりました。緑川先輩にとって、夏目先輩てどんな存在ですか?」

「蒼ちゃんは……私の大切な友達」

「大切な友達……」


 七瀬さんは口元に手を当てた後、口を開いた。


「緑川先輩、取引をしましょう」

「と、取引……?」


 私が首を傾げていると、七瀬さんは近づいてきた。

 思わず後退り、壁まで追い込まれた。

 逃げ場がなくなり、視線を逸らすと、七瀬さんは壁に手をついて、私に顔を近づけた。


「夏目先輩と付き合うので、緑川先輩は私と付き合ってください」

「……ん?」


 蒼ちゃんと付き合う?

 そして、私とも付き合う?


「二股……?」

「そうなります」

「む、無理……」


 私は首を横に振った。

 そもそも、七瀬さんは何を言ってるんだ……?


「断っても良いですけど……その場合、私は夏目先輩の告白を断ります」

「っ……」

「もしかしたら、夏目先輩がショックを受けるかも……」


 泣いている蒼ちゃんの姿を想像して、思わず唾を飲み込んだ。


「……どうして」

「はい?」

「どうして、私と付き合いたいの?」


 正直言って、私には魅力はない。胸もないし、スタイルも良いわけではない。告白だってされた事は無いのだ。


「うーん……それは、秘密です」

「……秘密」

「さあ、どうします緑川先輩。あなたの決断次第で、夏目先輩は泣いちゃいますよ。でも、あなたが付き合う事を承諾してくれるなら、みんなハッピーです。誰も傷つくことはありません」

「……」


 ど、どうしよう……!

 ぎゅーと手を握り締める。

 普段から私はこう言う決断から逃げてきた。いつもなら、蒼ちゃんが助けてくれるが、隣に蒼ちゃんはいない。


「十、九……」

「っ……ま、待って……」

「待ちません。ほら、チャンスが無くなっちゃいますよ」


 七瀬さんはカウントダウンを続ける。

 ダメ……! 私には決められない……!

 悶々としていると、カウントダウンが三秒を切った。

 ふと、脳裏に泣いている蒼ちゃんの顔が浮かび、気づいたら私は口を開いていた。


「……わかった……七瀬さんと付き合います……」

「そうですか……では、私のことは名前で呼んでください。私も文香先輩と呼ぶので」

「……うん、ひ、光ちゃん……っ!」

「よろしくです。文香先輩」


 光ちゃんは私に手を差し出した。私が恐る恐る握ろうとすると、光ちゃんは私の手を掴み、抱き寄せてきた。


「ひゃっ……」


 いつの間にか、腕を後ろに回されて、抱きしめられていた。


「恋人の挨拶て、ハグが相場なんですよ」

「そ、そうなんだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。