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2話

 夏目蒼は男勝りの性格。

 私が虐められていると、いじめっ子にドロップキックを喰らわせ「根性叩き直してやる!」と宣言して、竹刀を持ちながらいじめっ子共を強制的にランニングさせたり。

 教室にゴキブリが出た時は、クラスメートが怖がって逃げ惑う中、素手で捕まえて、外に放り投げたり。

 スカートなのに、パルクールをしたりなどなど。

 エピソードを挙げていけばキリが無かった。


「文香。私、好きな奴できた……」

「え……?」


 考えてみれば、蒼ちゃんは恋に興味を持つ年頃。

 最近では少女漫画を読みながら顔を赤らめていた。


「……どんな人?」

「えーと、だな……」


 蒼ちゃんは指を絡ませると、目を逸らした。

 き、気になる……!

 この手の話は蒼ちゃんから出た事がなかった。

 そもそも、蒼ちゃんて、どんな人が好みなんだろう。もしかしたら「私より強い奴が好みだ!」とか言うかも。


「あっ……」


 蒼ちゃんが壁の影に隠れた。


「蒼ちゃん……?」


 首を傾げ、蒼ちゃんの視線の先に目をやる。

 可愛らしい女の子が立っていた。

 他の生徒と楽しそうにおしゃべりをしている。


「可愛い……」

「……」


 蒼ちゃんが熱の籠った瞳をしていた。

 まさか、蒼ちゃんを射止めるのが爽やか系の男性やムキムキの男性ではなく、可愛らしい女の子なんて。


「蒼ちゃん、おーい」


 私は蒼ちゃんの前で何度も手を振った。


「っ……ふ、文香……どうした?」

「どうしたって……蒼ちゃんの好きな人」

「っ……」


 蒼ちゃんは私を抱き抱えると、ダッシュで人気のないとこまで連れて行った。


「ど、どうして知って……」

「……うっ……」


 蒼ちゃんタクシーは私の三半規管を揺さぶったため、グラグラする。


「ごめん……ちょっと、待って……」

「ああ」


 少し休んでから、蒼ちゃんが切り出した。


「知ってたのか?」


 顔を赤らめてそう聞いてくる蒼ちゃん。

 完全に女の子の顔だ。もちろん、蒼ちゃんは普段から女の子だけど。


「顔見ればすぐにわかった……」

「そんなに分かりやすいか?」

「……うん」


 蒼ちゃんは恥ずかしそうに目を逸らした。


「……いつ告白するの?」

「こ、告白っ……! す、するわけないだろ……!」

「……好きなんでしょ?」

「好きだけど……でも、見てるだけで十分というか……」


 珍しく弱気な蒼ちゃん。

 元々、少女漫画で顔を赤くするような超絶初心な女の子。


「……」


 普段から蒼ちゃんにはお世話になりっぱなし。だから、この機会に恩返しがしたい。

 それに、大切な友人には幸せになって欲しい。


「……蒼ちゃん、私も協力するから……だから、頑張ろう」

「頑張ろう、て……」


 蒼ちゃんは頭をかいた。

 煮え切らない蒼ちゃん。こう言う時の蒼ちゃんの扱い方は長い付き合いから分かっていた。


「もしかして……フ、フラれるのが怖い?」

「……今なんて言った?」


 声に棘がある蒼ちゃん。正直、結構怖いけど、蒼ちゃんのために……!


「だから、フラれるのが怖いの?」

「私が? ビビってるだと……」


 蒼ちゃんは私の肩を力強く掴んだ。骨がミシミシして痛いけど、我慢である。


「上等だ……! 告白してやるよ!」


 顔を真っ赤にして宣言する蒼ちゃん。


「蒼ちゃん、その意気……後、肩痛い……」

「あ、わりぃ……」


 蒼ちゃんは私の肩から手を離した。

 もしかしたら、手跡がくっきりと残っているかも。


「じゃあ、告白してくる!」


 蒼ちゃんはガラガラと窓を開けた。

 そして、辺りを見回す。


「あ、蒼ちゃん……?」


 嫌な予感がして、声を掛ける。


「見つけた……! じゃあ、行ってくる……!」

「待って……!」


 蒼ちゃんは窓から身を乗り出して、外へと飛び出した。

 ここ、三階なのに……!


「蒼ちゃん……!」


 私は慌てて、窓の外を見ると、蒼ちゃんは例の女の子に向かって走って行った。


「はぁ……」


 蒼ちゃんに怪我がなくて、安堵する。

 三階から飛び降りても無事。

 また、蒼ちゃんに新たなエピソードが出来た。

 蒼ちゃんは彼女の前で勢い良く止まると、頭を下げた。


『私と付き合ってください!』


 私の想像だけど、蒼ちゃんならストレートに言うはずだ。

 告白が終わり、蒼ちゃんが戻ってくる。

 もしかして、壁よじ登ってこないよね?

 蒼ちゃんはちゃんと階段から戻ってきた。


「おかえり……」


 蒼ちゃんは難しそうな顔をしていた。


「……どうだった?」

「うーん……考えさせて欲しいて……」

「……」

「これって……脈あり……?」


 蒼ちゃんが首を傾げる。考えすぎて頭から湯気が出そうだった。

 脈があるかどうかはわからない。そもそも、私も色恋沙汰には縁がない。


「……まあ、待つしかないか!」

「……そうだね」

「いっぱい考えたら腹減った! 帰りに牛丼食べに行こうぜ!」

「……うん」

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