14話
私はメッセージで光ちゃんにデートに誘われた。
当然、断る権利なんてない。答えはイエスだけだ。
家を出て、待ち合わせの場所の公園に向かう。
小さな公園で砂場と老朽化した滑り台しかない。
もしかして、童心に帰って、公園で遊ぼうということ? いや、ない。蒼ちゃんならまだしも光ちゃんはないだろう。
「お待たせしました」
「……光ちゃん?」
光ちゃんを見て、私は首を傾げた。
いつもなら、甘々なロリータ風の服装を着ている。けど、今日はデニムのショートパンツに大きめのパーカーで、キャップを被り、髪型はポニーテールにしていた。
「今日はいつもと違う服装にしてしました。どうですか?」
「……一瞬、他の人と思った……」
「……文香先輩、そんな感想求めてないです」
冷たい言葉が私の胸に刺さる。
「恋人がどう、て聞いたら、答えは決まってるじゃないですか?」
「……すごく、可愛い」
「わーい、ありがとうございます」
無理やり言わせて嬉しいのか?
「文香先輩も……今日、デートに誘いましたよね。その服装コンビニに行くんですか? コンビニデートですか?」
光ちゃんが私に毒を吐いた。
私の服装はTシャツにジーンズ。
デートの為にオシャレしました……という、服装ではなく、完全に普段着だ。
「だって……オシャレな服持ってないから……」
「はぁ……」
光ちゃんが呆れた様子でため息を吐いた。
不甲斐ない恋人でごめん。
「それじゃ、最初は文香先輩の服を選びに行きましょうか」
「……え」
「文句ありますか?」
「いや、ないです……」
そして、私達は近くのショッピングモールにやってきた。
「……折角なので、とびきり可愛くしましょう」
「え……ふ、普通ので……」
「文香先輩には選択権はないです」
「……」
横暴な彼女である。
蒼ちゃんにはあんなに甘々なのに。この扱いの差は一体……?
「さあ、ガンガン試着していきましょう」
「……うん」
諦めた。今日の私は着せ替え人形だ。
試着室に押し込まれ、服を渡される。
「着たら、教えてください」
「うん」
私は光ちゃんから受け取った服を見て、固まった。
身体に当てて、自分の姿を鏡で見る。
「……」
ミニスカートだ。
油断したらパンツが見えてしまう。
日頃から、スカートは膝丈の私にとっては勇気が必要な物だ。
上は肩がガッツリと露出した白のブラウス。
「光ちゃん……」
「何ですか?」
「……その……チェンジで……」
「ダメです」
「チェンジ」
「ダメです」
「……」
「着替えないと、私が着替えさせますよ」
私は試着室のカーテンを閉める。
着替え終わり、鏡で自分の姿を見た。
「……」
む、無理……!
「文香先輩、着替え終わりましたか?」
「……」
「……開けますね」
反射的にカーテンを掴もうとするが、光ちゃんがカーテンを僅かに開けて、顔を覗かせてきた。
「っ……」
光ちゃんに見られて、顔が熱くなる。
「文香先輩が着ると、エッチですね」
「……ど、どういう意味……?」
「恥ずかしがって着ているので、誘惑しているのかなと」
「誘惑……! 光ちゃんが着せたのに……!」
「ふふ、そうですね」
光ちゃんは私の格好を上から下まで眺める。
私はスカートの裾を押さえた。
「よし、これを買いましょう」
「え……」
「すいません」
光ちゃんはスタッフを呼ぶと、服を購入してしまう。
「光ちゃん、お金は私が……」
「いえ、私が着て欲しいので、私が出します。後、服はこのまま着て行って大丈夫ですよ」
「……ありがとう」
着てきた服はショッパーに入れ、お店を出る。
「……文香先輩のミニスカ姿、新鮮です」
「……」
光ちゃんは楽しげに笑った。
服を買った後、映画館にやってきた。
「これにしましょう」
デートなら恋愛映画だと思っていたけど、光ちゃんが選んだのはホラーだった。
「……他のにしない、ほらこれとか」
「いえ、ホラーが良いです」
「……」
ホラー、苦手なのに。
ポップコーンと飲み物を買い、席に着く。
こうなったら、寝よう。お金が勿体無いけど、仕方のない事。
照明が暗くなり、私は目を閉じた。
「……っ」
ふと、太ももが撫でられる感覚が走った。
恐る恐る目を開けると、触ってきた犯人は光ちゃんだった。
私と目が合った光ちゃんが私の耳元で囁いた。
「目を瞑ったら、エッチな悪戯しますよ」
「……」
寝ても地獄。起きても地獄。どっちの地獄か選べと……?
この世はなんて、非情……!
悩んだ末、私は目を開けるのであった。




