13話
「えい」
「やったなぁ……!」
海の浅瀬にて、蒼ちゃんと光ちゃんが水を掛け合っていた。カップルの甘いひと時。そんなとこに、私が入って行けるはずもない。
「……」
レジャーシートの上に座り、二人を眺める。
蒼ちゃん……楽しすぎて、私を忘れてる……!
こうなったら、一人で海を満喫してやる。
私は浮き輪を手に取り、海に行っていく。
「……ふぅ」
プカプカと揺られて心地が良い。
何か少し眠くなってきたかも。
「少しだけ……」
私は目を閉じたのであった。
目を開けると、砂浜が遠くにある。
どうやら、寝ている間に流されてしまったらしい。
「……ど、どうしよう……!」
泳ぐのは苦手だし、運動自体も苦手。
それでも、泳がないと……!
手足を動かして、必死に泳ぐけど全然前に進めない。むしろ、沖の方へと流されていく。
「……っ」
右足を攣ってしまった。
不安な事に波に襲われ、浮き輪が外れて、流されていく。
「あっ……」
手を伸ばすけど、浮き輪には手が届かない。
波が襲いかかり、息が出来ない。
これ、死ぬかも……!
身体が海に沈む。意識が暗くなっていく。
死にたくないな。
脳裏に浮かんだのは蒼ちゃんの顔だった。蒼ちゃん、泣いちゃうよね。
突如、身体が強い力で引っ張られた。そのまま、水面へと引っ張り上げられる。
「ゲホッ……」
「文香……!」
私を救ったのは蒼ちゃんだった。
「どうして……」
「助けに来たに決まってるだろ!」
「……」
蒼ちゃんは私を背負うとそのまま泳ぎ始めた。私の時は全然進まなかったのに、砂浜が近づいていく。
「蒼ちゃん、ありがとう」
「おう、後でジュース奢りな!」
「……うん」
やっぱり、私の友達は最高。
そう思っていると、視界の端に青色の物がプカプカと浮いていた。
「蒼ちゃん、ストップ」
「……ん? どうした?」
私は蒼ちゃんの胸を触ると、水着の感触が無かった。
「と、突然どうした……!?」
「水着、流されてる」
「え……あ」
蒼ちゃんは自分の姿を見て、顔を赤くして胸を隠した。
「さっき、水着浮いてた」
私が指差すと、蒼ちゃんが泳いで水着を回収した。
「文香、一回降りられるか?」
「……うん」
私は蒼ちゃんの背中から離れる。蒼ちゃんは水着を付け直した。それから、また蒼ちゃんに背負われて、砂辺に辿り着いた。
「文香先輩、大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫」
蒼ちゃんは私をレジャーシートに座らせる。
「飲み物買ってくる。何が良い?」
そう言う蒼ちゃんの手を私は掴んだ。
「文香……?」
蒼ちゃんには側にいて欲しかった。
「蒼先輩、私が行ってきます」
「わかった、頼む」
光ちゃんは海の家の方へ歩いて行った。
それを見て、私は蒼ちゃんに抱きついた。
「……」
蒼ちゃんは私の背中をゆっくりとさする。
正直、しばらく抱きしめて欲しいけど、光ちゃんに見られると恥ずかしいから少しだけ。
「蒼ちゃん、光ちゃん戻ってくるよ……」
「ん? そうだな」
だが、蒼ちゃんは私を離そうとしない。
「もう、大丈夫だから……」
「……嘘つくな、身体震えてるぞ」
「……」
こう言う時は鋭い。
「戻りました」
「おかえり」
「文香先輩、大丈夫ですか?」
「……うん、だから」
二人で遊んで来て、と言おうとした時だった。
「光、悪い。少し疲れたから一旦休憩にしないか?」
「ええ、良いですよ」
蒼ちゃん、折角のデートなのに。
私のせいで台無しにしてしまった。
「……あ、少し泳いで来ますね」
「わかった」
光ちゃんはそう言うと、海の方へ向かって行った。
「……ごめん、デートの邪魔して……」
「気にするな。今は文香の側にいる方が大切だ」
「……」
蒼ちゃん、男前だ……女だけど。
「昔も同じようなこと、あったよね……」
「そうか?」
「……うん、海で泳いでた時、私溺れて……蒼ちゃんが助けてくれて。後は山で転んだ時も、蒼ちゃんがおんぶしてくれたよね……」
「ああ、そうだな」
思い出すと、蒼ちゃんに助けられてばかりだ。
いや、待てよ。そもそも、私がピンチになるのは蒼ちゃんと一緒の時だ。もしかして、蒼ちゃんが原因だったり……考えるのはやめよう。
「蒼ちゃん、いつもありがとう……」
「……おう」
蒼ちゃんは顔を赤くしていた。
私も恥ずかしくなり、海を眺めていると、光ちゃんが男に話しかけられていた。
「蒼ちゃん、光ちゃんがナンパされてるよ」
「何……!」
「ほら、あそこ」
私が指差すと、蒼ちゃんは突風の如く走って行った。そして、男は蒼ちゃんの手によって、海に放り投げられたのであった。




