犬の名前
『妃教育から逃げたい私2 〜没落寸前だけど結婚したい私〜』
ついに本日 3/27 発売です!
WEB版よりエピソード加筆、番外編書下ろしもあります。
本日『妃教育から逃げたい私』の番外編も更新しておりますので、そちらもよろしければお楽しみください。
『妃教育から逃げたい私』コミカライズ3/25~開始しています!
詳しくは活動報告をご確認ください!
「犬を拾ったんだ」
ある日、エイベルが犬を伴って我が家に来た。
エイベルの連れている犬は、拾ったと言うだけあって、雑種と言うにふさわしい容姿をした、愛らしい子犬だった。
「あら、可愛い!」
動物は好きだ。
実家では義父が動物アレルギーを持っていたので飼えなかったが、いつか動物を飼いたいと子供ながらに思っていた。
プルプル震える子犬はそれだけで愛らしい。
「抱っこしてもいい?」
「もちろん」
エイベルの許可を得て子犬を抱き上げる。まだ全体的に柔らかくふわふわだ。
「わあー、生後何か月ぐらいだろう」
「獣医はたぶん二か月ぐらいって言ってたよ」
肉球を触ると、まだあまり地面を歩いていないからだろう、とても柔らかくプニプニした感触がする。
たまらない感触に延々とプニプニしてしまう。
「犬、飼うか?」
犬を愛でている私に、ナディルが訊いた。
正直に言うと飼いたい。でも……
私は首を振った。
「いいえ。飼ってしまうと、お父様がここに来れなくなってしまうから」
それは寂しい。
動物を飼えないのは残念だが、やはり義父と義母を優先したい。
「そうか」
ナディルが少し肩を落としたように見えた。もしかして、飼いたかったのだろうか。それなら申し訳ない。
「ベンをクビにするいい機会だと思ったんだが……」
「え!? どういうことですか坊ちゃん!?」
犬を見て一緒に和んでいたベンが必死の形相でナディルに縋りついた。
「俺のこと見捨てないって言ったじゃないですか!」
「本当の犬がいるならいらないかなと」
「ひどい! 悪魔! でも捨てないで!」
主の悪口本人に言っておいて捨てないでとはこれいかに。
「それでこの子の名前は?」
話を逸らそうとエイベルに訊ねる。
「ロッキーにしようかなって」
そう言いながら子犬を見るエイベルの顔は緩み切っている。エイベルはいいお父さんになりそうよね。
「ずるい!」
話を逸らしたはずなのにベンが割り込んできた。
「俺だって、俺だってちゃんとした名前名付けてほしいよぉ!」
あーあ……
私とナディルが顔を見合わせる。
「ベンじゃ嫌だよぉ! ちゃんと考えてよぉ!」
子供のように駄々を捏ねるベンに、どうしたものかと頭を抱える。
エイベルが助け舟のつもりだろう、ベンの肩をポンと叩いて言った。
「ベンという名前、とても似合っていると思うよ」
火に油を注いだので、そこから泣きわめくベンを押さえるのは大変だったとだけ述べておく。
これだけでも読めるように書いているつもりですが、書店特典にベンの名前について書いていますので、気になる方は書店特典にてお楽しみください。