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王子様とずっと一緒にいる方法  作者: 秋月真鳥


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28.婚約発表と婚約式準備

 わたくしと王子様の婚約については、様々な細々とした手続きが必要で、そのほとんどはわたくしには理解できなかったけれど、お義父様とお義母様が必要だというのだからその通りにしなければいけないとは思っていた。


「レオンハルト殿下のお誕生日に、婚約をすることが発表されます」

「そのときに婚約をするんじゃないの?」

「違います。婚約式が開かれるのは、春にレオンハルト殿下が学園に入学するひと月前になります」

「それはわたくしのお誕生日とどっちが早い?」

「フィーネのお誕生日の二か月前ですね」


 てっきり王子様が十二歳になったらすぐに婚約できるものだと思っていたわたくしは、お義母様に詳しく説明されて理解していく。

 王子様の十二歳の誕生日では、わたくしと王子様が婚約することが発表されて、正式な婚約式が行われるのは春に王子様が学園に入学するひと月前になるとのことだった。

 発表と婚約式が別々なのには驚いてしまったが、これも王家のしきたりなのだと言われてしまえば仕方がない。


「フィーネは王太子殿下と婚約するのですから、婚約式のドレスは力を入れて誂えさせねばなりません。フィーネはまだ成長途中なので仕上げはぎりぎりにしてもらいますが、デザインを選びましょうね」


 お義母様が見せてくれるデザイン集の中に、わたくしの目を引いたものがあった。スカートが広がっていて、そこにショートケーキのような飾りがついたものだった。

 あまりにわたくしがそのデザインをじっと見ているので、お義母様が声をかけてくれる。


「これが気に入りましたか?」

「はい。ショートケーキみたいでかわいいの」

「それでは、これにしましょうね。最高級のシルクとレースを注文しなければ」


 段取りを決めていくお義母様はとても活き活きとしていた。

 わたくしはドレスのデザインが決まったのでこれで終わりかと席を立とうとしたが、お義母様に引き留められた。


「婚約が発表される場でも、フィーネは王太子妃に相応しい恰好をしていなければいけませんね」

「まだドレスを誂えるの!?」

「もちろんですよ。かわいい娘の晴れ姿なのですからね」


 続いて王子様のお誕生日のお茶会に出席するときのドレスのデザインも選んでいると、お義母様がしみじみと呟く。


「レオンハルト殿下の婚約者になれば、ドレスのランクも上げなければいけません。フィーネは背が伸びているので、去年のドレスはほとんど小さくなっていますね。新しいものを次々と誂えなければ」

「そんな、もったいないわ」

「フィーネ、もったいなく思えるかもしれませんが、ベルトラン公爵家がドレスを発注することによって、生地やレースやリボンを作る工場、仕立て職人、デザイナーにお金が入るのです。我が家が公爵家として経済を回していくのは大事なことです」


 わたくしの見栄えのことだけでなく、お義母様は経済を回していくことまで考えていた。そこまで言われるとわたくしは断れない。

 色んなデザインのドレスを誂えることになってしまったが、わたくしはそれをありがたく着させてもらおうと決めたのだった。


 ソフィアとアンドレアスが一歳になって、よちよちと歩き始め、わたくしが子ども部屋に行くと、わたくしのところに歩み寄ってくるようになった。


「ねー、ねー」

「ねぇね!」


 まだ「お姉様」と呼べないようで、「ねー」や「ねぇね」と呼んでくるソフィアとアンドレアスを順番に抱き締めてわたくしは二人をゆっくりと追いかける。


「わたくしが捕まえるわよ! 待て待てー!」

「きゃー!」

「きゃっきゃ!」


 二人は追いかけて捕まえられるとぎゅっと抱き締められる「待て待て」が大好きで、これで何時間でも遊べる。「いないいないばぁ」も大好きで、わたくしは毎日のように二人と「待て待て」と「いないいないばぁ」で遊んで、絵本も読んであげた。

 絵本はよく分からないようだが、聞いているのが心地いいのか読みだすと、二人はわたくしの前に座って集中して聞いている。

 これから言葉も増えて来て、いつかわたくしを「お姉様」と呼ぶ日も来るのだろうと思うと待ち遠しくて仕方がない。


 二人の誕生日の数日後、王子様の誕生日のお茶会が開かれた。

 わたくしは王子様に誕生日にもらった薔薇の花をイメージした、薄オレンジとピンクのドレスに身を包み、王子様のお誕生日のお茶会に出席した。


 お誕生日のお茶会では、まず国王陛下が挨拶をした。


「今日はレオンハルトの誕生日を祝いに来てくれて感謝する。レオンハルトも十二歳になった。そこで、レオンハルトとベルトラン公爵家のフィーネの婚約を発表しようと思う。婚約式はレオンハルトが学園に入学する前になるが、これより、ベルトラン公爵家のフィーネはレオンハルトの婚約者となる」


 国王陛下の言葉に、わたくしに視線が集中した。

 わたくしは国王陛下に優雅に一礼する。この動作も行儀作法の先生が教えてくれたものだ。


「婚約のお話、とても光栄です。どうぞ、よろしくおねがいします」

「こちらこそ、レオンハルトをよろしく頼む」


 国王陛下に言われて、わたくしはもう一度頭を下げた。

 その日のお茶会は王子様とわたくしの婚約の話でもちきりだった。

 王子様は当然というようにわたくしをエスコートして、ダンスにも誘うし、お茶会の席も隣同士だし、周囲からは仲睦まじい婚約者に見えただろう。


「やっと内緒にしなくてもよくなった……」

「フィーネ嬢は頑張りましたね」

「とても大変でした」


 わたくしは素直なので、つい王子様との婚約のことが口に出てしまいそうになる。それを耐えるのが大変だったが、今日からはそんなことはしなくてもいい。

 わたくしが王子様の婚約者だということを、誰にでも大きな声で言っていいのだ。


「王子様、嬉しいです」

「これからは、『王子様』ではなく、『レオ』と呼んでもらえると嬉しいのですが」

「王子様じゃないの?」


 わたくしにとっては王子様は、絵本の中の王子様よりも格好よくて優しくて、完璧な王子様だから「王子様」と呼んでいたが、これからは名前で呼ばないといけなくなるようだ。わたくしがしょんぼりしていると、王子様が提案してくれる。


「それでは、公の場では『レオ』と。私的な場では『王子様』で構いません」

「本当に? じゃなかった、本当ですか? わたくし、王子様のことは絵本の中の王子様より格好よくて、誰よりも王子様らしいから、王子様と呼んでいたいのです」

「わたしもフィーネ嬢に『王子様』と呼ばれるのは嬉しいですよ。この国の王子はわたしだけなので、わたしがフィーネ嬢の特別だと分かるようで」


 これからも私的な場面では「王子様」と呼んでいいと言われて、わたくしは胸がポカポカしてきた。王子様はずっとわたくしの中では王子様のままだった。


「レオ殿下、これからもよろしくお願いします」

「『レオ殿下』と呼ぶのですか? それではコンラッド兄様と同じです」

「レオ様の方がいいですか?」

「それがいいですね。わたしは『レオ様』とは、いい響きです」


 王子様はわたくしが「レオ様」といい直せば、それで納得してくれた。


 わたくしの王子様は、レオ様。

 わたくしはそっと胸を押さえて、心の中で、レオ様と何度か呼んでみた。

 名前を呼ぶたびに、幸せな気持ちが込み上げてくるようで、わたくしは自然と微笑んでいた。


 この日、王子様は十二歳になり、わたくしとの婚約が発表された。

 わたくしは王子様の婚約者になって、隠し事をしなくても済むようになった。

 婚約式が開催されるのは春で、それまでにわたくしはドレスを誂えてもらわなければいけない。


 わたくしが気に入ったショートケーキみたいなデザインのドレスは、王子様の目にどんな風に映るだろう。

 わたくしは楽しみでお行儀悪く足がそわそわと動きそうになるのを必死に堪えていた。


読んでいただきありがとうございました。

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