第575話 霜降りミノ肉は美味しいからね
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美佳と沙織ちゃんがそれぞれ1回ずつミノタウロスとの単独戦闘を終えた後、道中数回の戦闘を繰り返しながら俺達は一つ下の階層である21階層の階段前広場へと移動した。
ミノタウロスとの戦いにも慣れたみたいだし、そろそろ複数体を相手にする戦闘も大丈夫だろうからな。
「良し、到着したな」
「うん……あまり人がいないね」
「そうだね、上と比べたらだいぶ少ないんじゃないかな?」
美佳と沙織ちゃんは辺りを見渡しながらポツリと漏らす、21階層の階段前広場には疎らに人が居る程度だからな。一つ上の階層、20階層の階段前広場より休憩しているパーティーが少ない。
多分、ミノタウロス攻略に手古摺っているパーティーが多い20階層、複数のミノタウロスとの戦闘に慣れ通過するパーティーが多い21階層って感じになっているんだろうな。慣れてしまえば、より一度に出現する数が多い方がドロップアイテムの回収効率は上がるからな。
「じゃぁ予定通り、ここでお昼休憩にしようか? ダンジョンに入ってから、そこそこいい時間になったしね。寧ろ、予定時間は少しオーバーしてるんだけど」
入場するまでの待機時間、大渋滞の移動行列、ウォーミングアップがてらの戦闘、ミノタウロスとの検証を兼ねた戦闘……まぁそれなりに時間取られるよな。
「……壁際のあそこが空いてるから、シートを広げて腰を下ろすか」
「奥へ続く通路からもそれなりに離れてるし、良いんじゃないか?」
「そうね、他の利用者とも距離が置けるし良いんじゃない?」
「うん」
「はい」
俺達は辺りを回し見た後、空いている壁際に移動し持ってきていたレジャーシートを広げ腰を下ろした。本日ダンジョンに入ってからの、初めての長時間休憩だ。
大した負担にはなっていなかったが、バックパックを下ろすだけでもかなりの解放感を感じるよな。
「まずはお疲れ様、どう2人とも。ミノタウロスとの戦闘には慣れたかな?」
「うん、とりあえず緊張せずに冷静に対処できるようにはなったかな?」
「私も取り乱したり怪我をしないで済む程度には、ですかね」
ここに来るまでに10体近いミノタウロスとの戦闘を経験した結果、美佳も沙織ちゃんもある程度手慣れた様子でミノタウロスの相手を熟せるようになっていた。
もともと2人とも地力はあるので、慣れてしまえばこうなるのは必然だよな。
「そっか、慣れたのならよかった。でもこれからは一度に複数体で出て来るようになるから、絶対に油断するなよ? いわないでも分かるとは思うけど、1対1で勝てるようになったからとはいっても、複数対複数じゃぁ勝手が違うからな? 順調な時ほど、気を引き締めないと危険だぞ」
「うん、勿論。ミノタウロスじゃないけど、これまでにも複数のモンスターとは何度も戦ってきたからね。ミノタウロスは行動基準が変わってるから少し不安だけど、油断せず冷静に対処するだけだよ」
「私も複数体で組んだ時にミノタウロスがどういった行動をとるか少し不安ですけど、冷静に対処すれば1人でも倒せる敵です。相手がどんな行動を取っても、冷静さを保ってれば凌げると思いますよ」
俺の忠告に美佳と沙織ちゃんは真剣な表情を浮かべながら油断はしないと断言する。
もし2人が浮かれていたらどうしようと少し心配していたが、これなら大丈夫だろう。
「そっか。それなら飯にしよう、腹が減っては戦は出来ぬっていうしな」
「うん!」
「はい!」
話が終わったので、それぞれバックパックから用意してきたお昼ご飯をとりだす。
まぁ皆、中の具材が違うだけでおにぎりなんだけどな。食べ終わった後のゴミや携帯性を考えると、日帰り探索ならならコレが一番お手軽なんだよ。
「うん、まぁ可もなく不可もなく何時もの味だね」
「まぁそうだろさ。特に季節限定商品や変わり種を選んでなかったら、だいたい定番のラインナップになるからな」
「ええ、偶に変わり種は食べたくなるけど結局は定番の具材に戻るのよね」
「そうそう、変わり種も良いけど安定の味をって感じだよね」
「変わり種は本当に偶に、で良いんですよね」
鮭、梅、高菜、ツナマヨ、明太、おかか、昆布……とまぁ皆、安定の定番のラインナップばかりである。むろん、コンビニには季節限定商品やダンジョン食品を使った具材のおにぎりも並んでいたが、一番陳列棚の減りが早かったのも定番具材の鮭だった。
まぁダンジョンという非日常空間に居るので、食事位は日常の味をという気持ちは分かる。
「うん、美味しかった。御馳走様でした」
「「「「御馳走様でした」」」」
手軽に食べられるという事もあり、10分と掛からず食べ終えた。
そして暫く談笑しながらお腹が落ち着く迄休憩を取った後、俺達は再び出発の準備を始める。
「それじゃぁそろそろ出発しようと思うけど、2人とも大丈夫? まだ動くのに支障があるのなら、もう少し休むけど……」
「ううん、もう大丈夫だよ」
「私も大丈夫です」
別に満腹迄食べたわけでは無いので、この後戦闘になっても大丈夫との事だ。
まぁ場所が場所だからね、直ぐ動けるように俺達も食べて7,8割って所だからな。食後少し休めば、まぁ動ける程度にはなる。
「じゃぁ装備の最終点検をして出発するか、忘れ物が無いようにな」
「うん」
「はい」
取り出した荷物をバックパックに収納し、互いの装備の装着具合を確認しあった後、俺達の出発準備は完了した。
「それじゃぁ出発!」
こうして俺達のダンジョン探索は後半戦へと突入する。
ダンジョン探索後半戦は順調に進んでいた。最初の戦闘では複数体のミノタウロス相手に少し手間取っていたが、美佳も沙織ちゃんも直ぐに慣れ、手早く対処。
そして、一度慣れてしまえば油断しない様に気を付けつつ、作業の様にミノタウロスを狩っていく。
「よし、終わり!」
「こっちも終わったよ!」
倒し終えたミノタウロスの体が粒子化し始めたのを確認し、美佳と沙織ちゃんは手早く剝ぎ取りナイフを突き立て回っていく。
うん、今回は一度に3体もミノタウロスが出たのに随分と手慣れたな。相手の方が数が多いのに、特に危うげな場面も見受けられなかったしさ。
「「あっ!」」
そして21階層で十数度目の戦闘、30体近くミノタウロスを倒し、遂にそれがドロップした。
「「霜降りミノ肉だ!」」
想定外のレアドロップ品、霜降りミノ肉の出現に美佳と沙織ちゃんの顔が歓喜の表情に染まる。
俺達3人も少し目を見開き、驚きの表情を浮かべる。
「おお凄いな、もう出たのか! 運が悪いと、5、60体倒しても出ないときもあるってのに……」
「これだけ倒してるから、そのうち出るだろうとは思ってたけどな」
「運が良いわね。このペースで狩り続けたら、今日の探索中にもう一個ぐらい出るかもね」
美佳と沙織ちゃんは少々動揺した手付きで、霜降りミノ肉をビニール袋に入れ保冷バッグに詰めていく。霜降りミノ肉自体が美味いってのもあるけど、あれ1個でミノ肉10個分位の価値があるからな。
マジックアイテムやスキルスクロールなんかに比べれば安くなるが、モンスター肉を中心に集めている探索者にとっては大当たりの逸品である。まぁ企業系以外の探索者が手に入れた場合、だいたい換金せずに持ち帰って美味しくいただくのが定番路線だけどな。
「やった、霜降りミノ肉ゲット!」
「まさかこれがもう出るなんて、思ってもみなかったよ!」
ドロップした他のミノ肉を回収し終えた美佳と沙織ちゃんは、全身で喜びを表現しながら信じられないとばかりに少し興奮した様子で騒いでいた。
うんうん、美佳も沙織ちゃんも霜降りミノ肉の味は知ってるからね。あれを自分達の力で手に入れたとなったら、そりゃ興奮の一つもするよな。
「おめでとう2人とも。レアものゲットだな」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
「はい、こんなに早く手に入るとは思ってもみませんでした!」
ミノタウロスからミノ肉がドロップする事は広く知られているが、同時に高額取引される霜降りミノ肉が低確率で、なかなかドロップしない事も知られていた。剝ぎ取りナイフを使い食品確定ドロップに全振りした上で、大体平均で5,60体で一つ、運が悪いと100体越えることもある。だから高額で取引されるんだけどな。
それが30体程でドロップしたのだ、コレはかなり運が良いといえる。
「まぁまぁ落ち着いて。確かに霜降りミノ肉はレアドロップ品だけど、マジックアイテムやスキルスクロールに比べれば手に入り易い分類の品だからさ。ちゃんと数を熟せば何れは出るものだよ」
「その数を熟すのが一番面倒な事なんだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃん達ならもっと一度にミノタウロスが出現する階層で効率よく数稼ぎができるかもしれないけど、私達じゃまだそんなとこに行けないんだよ?」
「そうですよ。私も正直今日の探索中には出ないかもって、半分諦めてたんですからね?」
数を熟せば手に入る大した事ない品だという意見を伝えると、美佳と沙織ちゃんに少し呆れた表情を浮かべられながら叱られた。
ああ確かに、最近は移動の道中でミノタウロスと遭遇しても一撃で終わらせていたから感覚が麻痺してたかも。美佳と沙織ちゃんがいう様に、もう少し下の階層に潜れば一度にミノタウロスが10体前後出て来る様な所もあるからな。どうしても霜降りミノ肉が欲しいとなったら、そこで数回戦えばほぼ確実に手に入る。
「ああゴメン、少し感覚が狂ってた。確かにこの辺の階層で数を熟すのは大変だよな」
「うん! でもそっか、もっと強くなってその辺の階層まで潜れるように成れば、この霜降りミノ肉簡単に手に入るようになるんだ……」
「そうだね、もっと強く成れば……」
ん? 何か美佳と沙織ちゃんの視線が保冷バッグに釘付けになって、口元の口角が少し緩んでいる様な……。
それに、視線も何だか段々と鋭く、狩人みたいな眼差しになってきている様な?
「よし、沙織ちゃん次にいこうよ次に!」
「そうだね美佳ちゃん、早く次のミノタウロスを探しにいこ!」
「「「……」」」
何というか2人とも、食欲に素直だね、うん。俺達も経験あるよ、それ。
そして美佳と沙織ちゃんは意気揚々と次の霜降……ミノタウロスを求めダンジョンの奥へと足を進める。って、おいおい俺達を置いてくな!
美佳と沙織ちゃんは淡々とミノタウロスとの戦闘を重ね、いくつものミノ肉をドロップさせていく。一時食欲に支配され積極的に戦闘を仕掛けていったので少し心配したけど、もう完全にミノタウロスとの戦闘は作業化したな。同時出現数が3,4体ぐらいまでなら、安定してやっていけるだろう。
ただ、通常のミノ肉がドロップした時に、少し悲しげな表情を浮かべるのはどうなんだろうな?
「はぁ、また普通のミノ肉か」
「そうだね、やっぱり中々でないね霜降りミノ肉は」
美佳と沙織ちゃんはとても無念だといいたげな溜息を漏らしながら、ドロップしたミノ肉を回収していく。既に美佳と沙織ちゃんが持っている保冷バッグは満杯なので、今回回収したミノ肉は柊さんが持っている保冷バッグに入れる。
そしてあらかじめ設定していたアラームが鳴り響き、今日のダンジョン探索はここでタイムアップとなった。
「アラームが鳴ったし、今日の探索はここまでだな」
「「ええっ……」」
「只でさえ混んでいるだろう帰り路に、荷物を満載した時の検証もしないといけないんだろ? 2人はもう少しと思うだろうけど、残念だろうけどココ迄だ。さぁ帰りの支度を始めるぞ!」
「「……はぁい」」
美佳と沙織ちゃんは名残惜し気な表情を浮かべながら、渋々と帰り支度を始めた。
本当に渋々といった感じだ。
「はぁ残念、結局霜降りミノ肉は3つしか手に入らなかったよ。出来ればもう1つ欲しかったのに……」
「そうだね、もう一つ手に入れば皆で山分けできたのに……」
美佳と沙織ちゃんは無念気な表情の中に若干の申し訳なさ浮かべながら、ポツリと漏らす。
確かにあと一つドロップしていれば、俺達を含めて皆のお土産に出来たからね。
「まぁなんだ、そんなに気にするな。元々今日は2人の付き添いとして来てただけなんだしさ。それに俺達、今日は何もしてないしな」
「「……」」
気にするなといわれれば余計気になるって状態だ。
なので妥協案を提示しておく、かなり確率は低いけどな。
「……それにもしかしたら、帰り道で遭遇したミノタウロスからドロップするかもしれないしな」
「……うん、そうだね」
「……そうですね」
まぁかなり確率が低い案なので、そういう反応になるよな。
そんな少しゴタゴタはありつつも、俺達は撤収準備を整え地上へ向かっての帰路へと付いた。




