第566話 明日は荷物持ち?
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舘林さんを家まで送り届けた後、俺達は沙織ちゃんの家へと向かって歩き出した。
道中、美佳と沙織ちゃんには色々話をしておきたい事があったからね。
「まずは2人とも今日はお疲れ様。2人のフォローのお陰で舘林さんも日野さんも、かなり良い状態でモンスター討伐って難事の初体験を済ませる事が出来たよ。もし身近なフォロー役が同行していなかったらと思うと、もっと大変な事になっていただろうね」
「そういうお兄ちゃん達だって頑張ってたじゃん、何時でも麻美ちゃん達のフォロー出来る様にダンジョンの中でずっと気を張り続けてたし」
「そうですよ。麻美ちゃん達は気付いていませんでしたけどお兄さん達、2人がモンスターと闘っている時はずっと臨戦態勢でしたよね。位置的には私達の方が麻美ちゃん達の近くに居ましたけど、もし攻撃が当たりそうになったら2人に気付かれない様に手を出す気だったでしょ?」
俺は美佳と沙織ちゃんの指摘に、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。どうやらバレていたらしい。
確かに俺達3人は、何時でも舘林さん達のフォローに入る事が出来る態勢を整えていた。具体的にいえば、射線が重なり死角を作らない様に位置取りを変え、ホームセンターで購入した普段使わないベアリング用の小さな鉄球を用いた指弾による狙撃だ。探索者スペックで放てば致命傷は与えられないものの、モンスターの気を逸らす有効打は可能だからな。
「まぁ、ね? 最初の探索で怪我をしていたら、面倒なトラウマを抱えかねないからね。ただでさえ初のモンスター討伐という精神的負荷がかかるんだ、余計な負担は少ない方が良いだろ?」
「まぁそうだよね。初めてのモンスター討伐って、結構クルのがあるもん」
「そうですね。その上で怪我迄したともなったら、ダンジョンへの強い忌避感が出来てもおかしくはないです。ある程度ダンジョンの雰囲気やモンスター討伐に慣れてから怪我をするのなら兎も角、最初のダンジョン探索で怪我なんかしたらまず意欲は削がれると思いますよ」
沙織ちゃんがいうように、そうなる可能性はあるだろうね。ある程度慣れた段階になったら、寧ろ何度かはモンスターとの戦闘で小さな怪我はしておいた方が良い。怪我をした際の痛みや、痛みに耐えながら戦闘の続行か撤退かを判断する練習になるからな。全く痛みを知らないまま攻略を進めると、負った怪我の深刻さが判断できずに無謀な戦闘を継続し……といった結末を迎えるかも知れなくなるからな。
だがそれを経験するのは、なにも初めてのダンジョン探索でなくてよい。
「うん、そうなるのは避けたいからね。だから2人に気付かれない様に、気付きにくい方法で援護しようとしてたんだよ。小さな鉄球を用いた指弾なんて方法、最初から存在を知っていないと初めてのダンジョン探索、初めてのモンスターとの戦闘といった緊張した状況下の2人に気付く事なんて出来ないだろうからね。まぁ今回は事前の訓練の成果が出たおかげで、コソコソ使う必要はなかったけど」
「そうだよね、私も結構びっくりしたよ。2人ともモンスターと立ち会う前は緊張していたのに、いざ正面に立ったら急に落ち着いて訓練通りの動きが出来てたんだもん」
「うんうん、私もあれには驚いたよ。これは手を貸す必要があるな?と思ってたのに、急に落ち着いたと思ったら的確に攻撃し始めるしさ」
美佳と沙織ちゃんは2人のモンスターとの戦闘シーンを思い浮かべながら、驚きと困惑と感心が入り混じったような表情を浮かべていた。
まぁダンジョン初挑戦の初心者が初めての戦闘で、いきなり冷静になり的確な動きで戦ったら驚くよな。
「事前の練習は徹底させたからね、相手と立ち会えば無意識に戦闘態勢に入る程度には鍛えたつもりだよ。まぁまだ実力が伴ってないから複数相手や格上相手じゃ普通に蹴散らされるだろうけど、単体や同格格下相手なら勝ちが拾える程度には闘えるだろうね」
「まぁ確かにお兄ちゃん達相手にあの練習をしてたら、その程度の意識の切り替えは出来ないと手加減されていても一瞬で終わっちゃうからね」
「うんうん、意識を少しでも逸らしていたらその時点で負けちゃうもんね。あの練習に慣れていたら、立ち合いだと認識したら素早く意識を戦闘態勢に切り替えるくらいできる様になるよ。それに訓練の立ち合いでお兄さん達が掛けてくるプレッシャーと比べたら、1階層に出て来るモンスターの威圧なんてないようなものだよね」
今回はダンジョンに行くまでに時間も無かったから、短期集中詰込みでそれなりに厳しく訓練したからな。技量は最低限、精神的に戦いに耐えられる様にといった方針だった。
お陰で2人ともモンスターとの戦闘では迷いなく戦え倒せたので、俺達がやった訓練は成功だといえる。
「そうだね。でも戦えるようには育てる事は出来ても、ハードルを乗り越えられるかは本人次第だ。今の所は大丈夫そうだけど、暫くは2人の事をよく見ていてくれ」
「うん、任せて」
「分かりました」
新人が最初に立ち向かうハードル、こればっかりは本人が乗り越えるしかないからな。
舘林さんと日野さんは大分マシな条件が整ってるので、まぁ大丈夫だとは思うけどね。
今日のダンジョン探索の話は一旦話はお終いにし、明日の予定について話す事にした。
「それじゃぁ明日は予定通り、5人でダンジョン探索に行くけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。今日は特に怪我も物資の消費もないしね」
「私も大丈夫ですよ。寧ろ今日はダンジョンに行って帰るだけでしたからね、ちゃんとダンジョン探索したいです。消化不良というヤツですね」
まぁ確かに今日は見本を見せた美佳はともかく、沙織ちゃんはただ歩いてただけになるからな。沙織ちゃんの消化不良だという感想は、至極当然のものだろう。ここ暫くは舘林さんと日野さんの訓練に付き合っていたので、色々とストレスも溜まっているだろうからね。
探索者が思い切り体を動かせる場所と機会って、レベルが上がれば上がるほどなくなるからな。探索者がスキル込みで思い切り動ける場所といえば、ダンジョン内か協会が用意している公共の訓練場位だ。
「そっか、我慢させちゃってごめんね。明日は2人がメインの探索だから、思いっきりやって良いよ」
「「やった!」」
「勿論、安全面には配慮して無理な探索はダメだからね?」
「「はい」」
今では美佳も沙織ちゃんも順調にレベル上げが進み、中堅探索者と名乗っても問題ないくらいに成長している。だからこそ、調子に乗って背伸びをし過ぎて痛い失敗、痛すぎる失敗をするかもしれないという事を教えておかないといけない。後ちょっとなら、後少しだけといって失敗する輩のなんと多い事やら。
順調な時ほど慎重にならないと、足元をすくわれるからな。
「とりあえず日帰りできるところまで潜るって予定だけど、どこまで潜るかは2人が決める事だからね? 今いった事を頭に入れた上で、どこまで潜るのかを相談しておくと良いよ」
「大丈夫、もう相談はしてるよ。ねっ、沙織ちゃん?」
「はい。明日はお兄さん達が同行してくれるので、一応20階層を目標にって美佳ちゃんと相談して決めました。2人で20階層まで進めるのかを測るには、お兄さん達が同行してくれる時が一番安全ですから」
どこまで潜る気なのか探りを入れると、20階層まで潜る予定だという返事がきた。20階層といえばミノタウロスが相手になるが、まぁ今の美佳と沙織ちゃんの技量なら無傷で勝てなくはないだろう。
ただし、単体のミノタウロスを2人で囲めた場合にだけどな。複数体相手だと、怪我無く切り抜けるのはきついかもしれない。
「確かに同行はするけど、2人の手に余りそうな数が出た場合や危ないモンスターが出た場合じゃないと、基本俺達は手出しはしないよ? もし俺達の事を戦力として当てにしているのなら、そんな無謀な探索計画は認めないからね」
「うん、勿論それは重々承知の上だよ。お兄ちゃん達の手は借りないで済むように探索は進めるつもりだけど、どちらかというと荷物持ちの方では協力して欲しいかな」
「荷物持ち?」
美佳の荷物持ち発言に、俺は頭を傾げ思案気な表情を浮かべた。
「うん。ほら探索者ってドロップしたアイテムを持ち帰って、換金する事で利益を得るじゃない? どれだけ多くアイテムを持って帰るかが収入に直結するから、ドロップしたものは出来るだけ持って帰りたいけど……」
「積載量には限りがあるからな。更に帰り道での戦闘を考えたら、容量一杯迄抱えるなんて出来ない」
「うん。だからお兄ちゃん達が居る時に、20階層まで潜った時にどれくらいまで安全に持って帰れるのかを試してみたいんだ。普通なら余分なものは捨ててこなきゃいけないけど、お兄ちゃん達が一緒なら余剰分を持って帰れるから」
「それにですね、どれくらいまで持って帰れるのかの限界が明確になれば、無駄にダンジョン内に長居して探索を続ける必要はなくなりますから。明日の探索では、その辺の限界を見たいと思っています」
なるほど、確かにそれは死活問題だ。沢山のドロップアイテムを持ち帰らないと収益は上がらないが、沢山のドロップアイテムを持って帰ろうとすれば帰り道の危険性が上がる。沢山のドロップアイテム持っても無事に帰れる、その無理のない範囲を見極めるのは難しいからな。
一度実際に試してみるのが話は早いが、何時モンスターが襲い掛かってくるか分からないダンジョン内という場所では危険性がかなり高い行為になる。安全な状況で試せるという機会があるのなら、是非とも試したいと思うのは当然だな。
「なるほど、それで荷物持ちにって事か。そういう事なら協力できるぞ」
「ありがとうお兄ちゃん。それと一緒に滞在可能時間一杯がんばったら、どれだけドロップアイテムが得られるのかも試したいんだけど……」
「それも大丈夫だ、良いドロップアイテムを得ようとしたら数を熟すしかないからな」
良いドロップアイテムを得られるかは、探索者のガチャ運次第だから。持って帰れる量に限りがある以上、可能な限り持って帰るモノの質を高めるしかない。
厳選する為にも、時間一杯数を熟してドロップアイテムを集める必要がある。
「ありがとうお兄ちゃん。時間一杯集めまくるから、私達が持って帰れない分は全部打ち上げの予算にしちゃおう」
「おおそりゃ豪気、打ち上げ会場のランクを上げる為にも馬車馬の如く駆け回って貰うか」
「げっ、藪蛇!?」
「20階層中心に集め回れば、良いお値段する堅苦しいお店でも打ち上げができるぞ」
20階層で過積載になるほどドロップアイテムを集められれば、5人でも余裕でいけるほど稼げるだろう。多少買取価格は下がっているが今でもミノ肉中心で集めたら、買い取り価格は数十万は余裕で越えるだろうからな。
まぁ打ち上げで態々、その手の堅苦しいお店に行きたいとは思わないけどね。皆で盛り上がって騒ぐのなら、今日行ったお店やちょっとお高めのファミレスで十分だって。
「料理は美味しいのかもしれないけど、その手のお店で打ち上げは私はちょっと……」
「私も打ち上げは、もう少し気軽に食べられるお店の方が良いです」
「ははっ、冗談だよ冗談。でもまぁそういったお店で打ち上げがやれる程度には頑張ろうって感じだね」
「う、うん」
「は、はい」
俺の冗談に美佳と沙織ちゃんは、何ともいえない微妙な表情を浮かべた。
2人も堅苦しいのは嫌みたいだが、まぁそれはそうだろうな。
道中明日の予定について話しながら歩いていると、俺達は何時の間にか沙織ちゃんの家に到着した。お喋りしながらだと、ホント時間が経つの早いよな。
「それじゃぁ沙織ちゃん、今日はお疲れ様。また明日」
「またね沙織ちゃん!」
「はい、また明日もよろしくお願いします。美佳ちゃんもまた明日ね」
俺と美佳軽く手を振りながら挨拶し、沙織ちゃんが軽く頭を下げながら玄関の扉を潜るのを見送った。
「良し、それじゃぁ俺達も帰るか」
「うん! また明日もダンジョン探索するんだし、早く帰って体を休めよう」
「そうだな、まぁ今日はそれほど疲れる様な事はしてないんだけど」
「私はしたよ! 一体だけだけど……」
まぁ2人の見本にと、美佳には闘って貰ったがあれで疲れる様な軟な鍛え方はしてないだろ? 明日20階層までの探索を目指すといっているのに、あれで疲れる様ならそれこそ鍛え直す必要がある。
そんな馬鹿話をしつつ、俺と美佳は家路へと就いた。




