第564話 初めてのドロップアイテム査定へ
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俺と裕二は手早く着替えを済ませた後、更衣室を後にし近くの休憩用の椅子に腰を下ろした。
今回かなり早く引き上げてきたので、戻って来た探索者達もまだ少なく辺りは閑散としている。
「何とか無事に終わったね」
「そうだな。もう少し波乱があるかもと思っていたけど、今の所は問題なくてホッとしてるよ」
「そうだよね、最近ダンジョン関係では良くも悪くも何かしらか起きてたからさ」
「ホントそれな」
俺と裕二は互いに顔を見合わせた後、大きく溜息を漏らしあった。
もしかしたら成果が振るわず機嫌の悪い社会人探索者に絡まれるかもとか、舘林さんと日野さんが立ち尽くして動けず怪我をするとか、新人狩りといった最悪にタチの悪い探索者と遭遇するかもとか色々想定していたが、幸いそういう面倒な事柄は発生せず素直に帰ってくる事が出来た。ホント、何も起きなくて良かったよ。
「後は舘林さんと日野さんの、精神面の負担がどの程度出るかだけど……」
「それは時間を置いて確認するしかないだろうな。直ぐに出る事もあれば、時間が経ってから表に出る事もある。残念だけど俺達にカウンセラーとしての技能がある訳じゃない、ちょっと見ただけでどうだっていえる様な事はないからな。2人の事を暫く良く観察して、おかしいと思ったら専門家に相談するように勧める事しか出来ないよ」
「やっぱりそれしかないか……」
「前に親御さん達にもいってるけど、もう一度念押ししておいた方が良いだろうな」
2人も何かと心配させない様に取り繕うだろうから、ふと気を抜いた瞬間を観察しやすいのはやっぱり家族だろうからな。一番気を抜きやすい家という空間で一緒にいる親御さんには、その辺のフォローをして貰うのが良いだろう。
精神的に不安定な状態でのダンジョン探索は危険だ、やっぱり早期発見早期治療が事故を防ぐ一番の近道だろうな。
「そうだね。2人を家に送っていく時に親御さんと会えたら、その辺はしっかり連絡しておこう。何せ初めてダンジョン探索を終えたばかり、表だった怪我や疲労は見えてなくても確実に負担はあるだろうしさ」
「ああ、1日2日は様子見して貰っておくのが無難だろうな。回復薬をドロップ品として得てプラスの収益を確保してるから、2人も今日の探索は成功したって手応えを感じられるだろうから、そう酷い事にはならないだろう」
「うんうん。これで怪我をしていて収益もマイナスになっていたら目も当てられない、って感じになってたかもね。事前準備が甘い新人探索者だと、良くある事なんだろうけど」
「まぁ事前の準備も甘く、事前の情報収集も無くやればそれはそうなる。自業自得といったらそれまでなんだろうけど、買い取り価格の低下は探索者をやり始めたばかりの新人には特に痛いよな。俺達が始めた頃なら、コアクリスタルを数個確保出来たら収支はプラマイゼロには出来てたってのに」
今回の舘林さんと日野さんのダンジョン探索は、プラス収益を出せているので新人探索者としては成功といえる。2人にも皆でそう説明しているので、モンスター討伐は精神的に辛くとも探索自体にはそう悪い印象は持っていないと思う。
痛いし嫌な思いをした上に収支も踏んだり蹴ったりともなれば、下手をしたらトラウマ一直線である。
「まぁ今回はそんな事にならなかったから良いとして、舘林さんと日野さんが精神的に問題なくて次の探索に行くとなった時も不安だよね。次も良くて2体か3体との戦闘だろうから、ドロップアイテムに関してはそんなに期待できないだろうし」
「今回のように回復薬が1個出れば最低限の利益は出せるだろうけど、運が無いと10回戦って1個も出ない時があるからな」
探索者は強さは勿論、ドロップ運も大事なのである。いくら強くても、ドロップ運が悪くマイナス収益しか出せないのでは、探索者業専門では生活できないからな。
そういう意味では、舘林さんも日野さんも探索者としてやっていけそうなドロップ運は持っているという事になる。
「そうだね。でもその辺はまず、精神的負担の問題無くモンスターを倒せるようになってからかな。一回一回の戦闘に強い精神負担がある様じゃ、ドロップ運も何もないしさ」
「それはそうだな、まずはモンスターを倒す事に慣れるところから始めるしかないよな」
俺と裕二は次回からの簡単な探索方針について結論を出し、視線を柊さん達の入っていった女子更衣室の方に向ける。まだまだ5人が出て来る気配を感じられないので、やっぱり着替えのタイミングで舘林さんと日野さんが調子を崩している可能性があるっぽい。
「とりあえずジュースでも買って待ってようか?」
「そうだな、どれ位掛かるか分からなそうだしな」
まだ時間が掛かると思った俺と裕二は、荷物を持って近くの自販機へと向かって歩き出した。
裕二とジュースを飲みながら30分ほど待って、ようやく5人が更衣室から出て来た。
舘林さんと日野さんの表情が更衣室に入る前より少し悪いので、やっぱり着替えのタイミングでモンスターを倒した精神的疲労が一気に出たのかもしれない。そして美佳と沙織ちゃんが二人に寄り添い面倒を見ている中、柊さんが俺達が座っている場所に気付き近寄ってきた。
「お待たせ、悪いわね時間が掛かっちゃって」
「いやいや大丈夫だよ。それよりお疲れ様、やぱり影響が出ちゃったみたいだね」
「ええ、そこまで酷い物じゃなかったけど2人とも少しふらついていたから、愚痴を聞きつつ少し休ませてたわ」
「そっか、その位ならまだマシな方なのかな?」
モンスター討伐に関する後遺症が酷い場合だと、突然錯乱し泣き喚いたり、その場で嘔吐したりって反応もあるからな。
「ええ、モンスターを初めて討伐した新人の反応としてはマシな方でしょうね。こういっては何だけど、この程度で収まるのなら2人とも探索者適性は高い方だと思うわ」
「確かに全く適性が無いとなると、このタイミングで無理って分かる反応が出るからね」
「ええ、力が抜けて愚痴を漏らす程度なら数日もすれば回復するわ。もう何度かモンスター討伐を経験すれば、特に重く悩むことなくモンスターを倒せるようになるんじゃないかしら?」
「かもしれないけど、まぁその辺の結論は数日様子見してからだね」
舘林さんも日野さんもモンスター討伐の影響は比較的軽症のようだが、経過観察はしっかりしないと駄目だろう。
しかし、2人に探索者適性があって良かった。コレで全く適性がないとなっていたら、トラウマにならない様に親御さん達とカウンセリングを含め色々動かなければなかったからな。
「そうね。さっきまでよりは大分マシにはなってるけど、1人になった時にふと思い出して調子が崩れないとも限らないし……」
「夜寝る時に思い出して、ってやつだね。確かに気持ちのいい記憶じゃないだろうから、最悪は夜中に悪夢に魘され悲鳴を上げながら跳び起きて……ってのもあり得るからね」
これ、嘘みたいだが本当に新人あるあるなのだ。探索者適性がある者はそこまで酷い事にはならないそうなのだが、適性が無いあるいは低い者は暫くの間は毎晩悪夢に魘されるらしい。
俺達の中でいうと、柊さんや美佳もこれを経験したそうだ。飛び起きこそしなかったが、凄まじく夢見が悪かったとの事。
「そうよ、2人を家に送っていく時に親御さんにいっておいた方が良いでしょうね」
「そうだね、何の前知識も無しに娘が夜中に絶叫しながら起きたらビックリするからね」
「あっても驚きはするでしょうね。まぁ、そこまで酷い事にはならないとは思うけど」
「だと良いんだけどね」
俺達が心配の眼差しを向けると、美佳達4人もこちらに寄ってきた。
「2人とも大丈夫?」
「「……はい、大丈夫です」」
「調子が悪くなったらすぐにいってくれ。新人探索者には良くある事なんだから、別に恥ずかしい事じゃないからね?」
「「はい」」
顔色は優れないが2人とも足取り自体はしっかりしているので、大丈夫という言葉自体は嘘ではなさそうだ。とはいえ、調子が悪いのは顔色を見れば一目瞭然なので油断はできないけどね。
そう考え美佳と沙織ちゃんに視線を向けると、2人も心配そうではあるがそこまで深刻そうな表情は浮かべていない。
「うん。それじゃぁ早速、ドロップアイテムの換金窓口の方に行こうか? 2人も今日の探索の成果が、どれくらいになるか気になるでしょ?」
「あっ、はい」
「そうですね、気になります」
ドロップアイテムの事を話題に出すと、舘林さんも日野さんも顔色が少し良くなった。そこそこの値段にはなると教えていたので、最初の頃は儲からないと教えていたので期待に胸が膨らんでいるのかな?
初心者の探索では交通費も難しいといっていた所に、数千円の収益が出るかもしれない事になったのだ。まぁ嬉しいだろうね。
「じゃぁ行こうか。1,2時間程度は大丈夫だけど、ドロップアイテムの窓口提出が余り遅くなるのは拙いからね」
「あっ、そういえばそういう時間規定がありましたね」
「未鑑定ドロップアイテムの流通を防ぐ為、でしたっけ?」
「そっ、ダンジョンの入退出時間は記録されているから、余り窓口提出が遅いと疑われるから気を付けてね。何回も時間オーバーをやってると、暫くダンジョンへの入場を制限されるとか、不正流通に関係していないか監査が入るとかって話を聞くからさ」
「「へぇー」」
完全には防げていないだろうが、多くの探索者達への抑止力にはなるだろうからな。その結果か今の所、流出した未鑑定のアイテムが原因で……といった事件は表立っては報道されていない。
まぁ裏でどうなってるかは分からないけど、普通に探索者をやっている一般人には関係の無い話だろうな……うん。
「まぁそんな目には遭いたくないから、さっさとやる事はやっちゃおうか」
「「はい」」
「良し、じゃぁ出発」
俺達は更衣室の前を後にし、ドロップアイテムの査定窓口がある方へと移動を始めた。
まだピークには早い時間帯という事もあり、査定窓口の方も更衣室の前と同じく割と閑散としていた。窓口前の待合席に座っている探索者パーティーも数組ほどなので、それ程待たずに俺達の順番も回ってきそうだ。
「じゃぁ簡単にやり方を説明するよ。まずはそこの発券機で査定窓口の番号札を発券して、窓口の近くに移動する。後は空いてる待合席に座りながら、呼び出し音声とあそこのモニターに番号が表示されるのを待つだけだね」
「役所の様な感じですね」
「その通り、どこのダンジョンでも同じ方法だから慣れると楽だよ。さっ、番号札を引いて」
「はい」
俺に促された舘林さんが、査定窓口の待合番号札を発行する。
発行された番号札には053の数字が印刷されており、今日53組目の査定待ちであることが判明した。やっぱり、まだまだ早い時間だからな。
「良し、じゃぁ窓口前の席に……」
移動しようとしたら窓口のモニターに番号が表示され、同時に舘林さんの持っている番号の呼び出し音声が流れる。
珍しい、どうやら待っている人が少なすぎて発券と同時に即呼び出しがかかったようだ。
「どうも待たなくていいみたいだね」
「そうみたいですね」
「まぁいいや、それじゃぁ窓口の方に行こう」
「「はい」」
俺達は呼出し番号が表示されている査定窓口へ向かう。
「お待たせしました、ご用はドロップアイテムの査定でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「それではドロップアイテムと、探索者カードの方の提出をお願いします」
「分かりました。じゃぁ舘林さん日野さん、カードとアイテムを提出して」
「はい」
事前に決めていた通り、今日の査定では舘林さんと日野さんにだけ探索者カードを提出して貰う。2人の初めてのダンジョン探索という事もあり、今日の探索で得たドロップアイテムの取り分は全て2人のものと決めていたのだ。
それにまぁ1階層で得られるドロップアイテムをこの人数で割ったら、本当に雀の涙といった金額になってしまうからね。
「「お願いします」」
「お預かりします。それでは査定が終了したらお呼びしますので、近くの待合席の方でお待ちになって下さい」
「「はい」」
今回の探索で得られたコアクリスタル2つと回復薬?の提出は終了、査定が終わるのを待つ事になった。まぁ今回は提出した数も少ないので、すぐに終わるだろうな。
そして予想通り、待合席が閑散としていた事もあり5分と掛からず再び窓口から呼び出された。
「お待たせしました、査定の方が終了しました。こちらが今回提出いただいた、アイテムの査定の明細になります」
「「ありがとうございます」」
舘林さんと日野さんが明細を受け取り、恐る恐るといった様子で中に記載された数字を確認する。
そして俺達も興味津々といった眼差しで、2人の手元にある明細を覗き込んだ。どれどれ、幾らになったんだ?




