第285話 使えるじゃないか、ドローン
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朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売。よろしくお願いします。
飛び立ったドローンの姿を見送りながら、俺は裕二の持つタブレットの画面をのぞき込む。柊さんも周辺を警戒しながら画面を覗きたげな興味深げな視線をチラチラ俺達に送ってくるが、周辺警戒と言う仕事を行っているので視線を送ってくるだけだ。
もう少し見た後、柊さんと警戒役を交代しよう。
「おお、飛んでる飛んでる。結構安定してるんだな」
「言っただろ? これくらいなら簡単だ、って。自動制御が進んでるから、ただ飛ばすだけなら誰でも出来るさ。 後で、二人も試してみたらどうだ?」
「そうだな、ダンジョンの外に出たらやってみるか」
ドローンを操作しながら俺達もやって見ないか?と促してくる裕二の誘いに、俺はタブレットの画面から目を離さずに軽い気持ちでのる。元々興味自体はあるのでやって見ないか?と聞かれれば否と答える気はない、まぁ流石にダンジョン内で体験飛行をやるのはモンスターに対する警戒と言う意味で不味いだろうがな。
なので、ダンジョンの外に出たら触ってみようと思う。元々山奥なので、人が集まるダンジョン周りを離れればドローン規制にも引っかからないだろう……多分。
「まずは、軽くこの辺りを飛んでみるぞ」
「そうだな、頼む」
いきなり階段近くまで飛ばし、罠なりモンスターなりに襲われたら目も当てられないからな。まずはドローンを目視で確認できる近くを飛ばしてみて、天井などに対空用の罠が無いか様子見からだ。
ドローンが落とされる様なら、今度からは上も警戒しないと……。
「じゃぁ、行け」
裕二の操作に従い、ドローンは軽く機体を傾けながら滑るように空を進んで行く。
ドローンから送られてくる映像を確認していくと、延々と一面に広がる長草が映し出される。正直に言って、かなり退屈な映像だ。
だが、ドローン搭載カメラの角度を下向きに変えてみると見えるものが変わってくる。
「おー、いるいる」
「出来たらいいな程度だったけど、意外にちゃんと見えるものだな」
タブレット画面に映し出された映像には、長草の陰に隠れたグラスリザードの姿がバッチリ映し出されていた。長草の中に鎮座するグラスリザードの硬質そうな皮膚は、保護色で多少隠れているモノの異彩を放っている。
上から見ると、長草の中にポッカリ空いた穴の中に何かが隠れていると言うのがハッキリとわかるな。
「保護色で多少見辛いけど、これだけ見えれば十分だな」
「まぁ、ね。元々、下の階層に続く階段を見つけるのが主目的だから、こっちはオマケみたいなものだし」
「階段付近に多く潜んでいるみたいだからな、どの辺りにどの位いるかが大体分かれば御の字だ」
ドローン偵察の成果は上々、これで撃ち落とされるような事が無ければ十分これからも使えるな。
「良し、じゃぁ今度は階段の方まで飛ばしてみるか。良いよな?」
「ああ、頼む。それが出来ないとドローンを導入した意味が無いからな。でも、その前に……」
俺は覗き込んでいたタブレット画面から目を離し、そわそわしながら周辺警戒を行っている柊さんに声を掛ける。
「お疲れ様、柊さん。警戒役交代しよう」
「……うん」
待ちに待った俺の警戒役交代を促す声に、高揚する気持ちを抑え平静を保とうとしている様な表情を浮かべた柊さんは一瞬の間をおいて素直に頷く。
うん。ダンジョン内ゆえ、警戒役を置く必要があるとはいえ待たせ過ぎたみたいだ。
「じゃぁ裕二、そういう事だから後は頼むな」
「おう」
裕二に一言断りを入れ、俺は柊さんと警戒役を交代する。交代した柊さんは若干早歩き気味にドローンを操作する裕二に近づき、横から興味津々と言った眼差しでタブレット画面をのぞき込んでいた。
そしてドローンは裕二の操縦に従い、31階層への階段がある方向に向かって飛び立っていく。
対空用の罠やモンスターからの攻撃を危惧していたが、ドローンによる30階層の調査はすこぶる順調に進んだ。裕二も操縦になれたのか当初のぎこちなさも無くなり、ドローンは素早い動きで縦横無尽に天井近くを飛行している。
……楽しそうだな、俺も練習しよう。
「っと、そろそろバッテリーが切れそうだな……」
「もう? でも、まだ15分も飛んでないわよ?」
「もちろん、まだ20パーセント位はバッテリーも残ってる表示されているよ。けど、表示されてる残量は大体の目安だからね。急にパワーが落ちて、ドローンが墜落したら大変だよ。余裕を持って戻しておく方が無難さ」
「……確かにそうね」
「それに大体のところは調べられたから、ココでのドローンのお仕事は終わりだよ」
若干不満げな柊さんを説得し、裕二はドローンを戻す操作を始めた。すると直ぐに、甲高いローター音を響かせながらドローンが近くまで戻ってくる。どこにも傷がついた跡も無く、邪魔される事なく偵察を終えた事を表していた。
「着陸させるぞ」
裕二がそう言うと、天井近くを飛んでいたドローンがユックリと下りてくる。無事に着陸させるのはやっぱり難しいんだろうなと思って裕二の顔を見てみたが、裕二の顔には一切の緊張の色が見受けられない。
なので、若干心配になった俺は裕二に声を掛ける。
「裕二、無事に下ろせるのか?」
「ああ。これ、自動で着地させてくれるんだよ。ボタン一つ操作すれば、一人で離着陸してくれる仕様だ」
「へー」
そして俺の心配が無駄だった事を証明するように、ドローンはピタリと裕二の前の地面に着陸しプロペラを停止させた。
うーん、ドローンって本当に簡単に飛ばせるものなんだな、色々規制はあるみたいだけど。
「ふぅ……良し、何とか無事に終わったな」
「お疲れ様、広瀬君。初めてのダンジョンでの飛行とは思えないほど、良く撮れてたわよ」
「……ありがとう、柊さん。さてと、じゃぁ撮れた映像の検証をしようか」
裕二は回収したドローンからメモリーカードを取り出し、プロポにつないだタブレットのカードスロットに装着する。
「これで見れたらいいんだけど……良し、映った」
「コレって……飛んでいる間の映像?」
「そっ、そこそこの速さで飛び回っていたからね。見落としている部分があるかもしれないから、見直しておいた方が良い」
裕二の言う事は一理ある。傍目から見ていても、ドローンはそれなりの速さで縦横無尽に飛び回っていた。カメラの画角の関係で見える範囲が狭い映像では、見落としている部分も確かにあるだろうな。
それより柊さん、俺も映像を見たいからそろそろ交代してもらいたいな……。
30分程かけ、偵察飛行映像の検証は終わった。俺と柊さんが警戒役を交代する事なくな……まぁ良いんだけどさ。
そして俺は若干拗ねた様な心境のまま、裕二が告げる検証結果に耳を傾ける。
「結論としては、この階層にはグラスリザード以外の目立ったモンスターはいないな。もちろん、長草の中に隠れ切る小型のモンスターが居なければだけどな」
「小型の潜んでる可能性は?」
「無い事は無いだろうけど、低いと思う。前回来た時もそれなりに歩き回っていたが、結局はグラスリザードとしか遭遇しなかったからな。この下の階層に潜ればどうか分からないけど、取り敢えずこの階層にはいないと思う。警戒は必要だろうとは思うけどな」
「そっか……」
「まぁ罠関係は見ただけじゃわからないから、大樹のスキル頼みだけどな」
「その辺は抜かりなくやるよ」
取り敢えず、偵察の結果としては上々だろう。大まかなモンスターの潜伏分布も割れたので安全……遭遇率の低い移動経路の算定も可能になった。敵としてみればグラスリザードも大した相手ではないが、戦闘を行うとなると足止めされ時間を取るからな。夏休み期間中に出来るだけ先に進みたい俺達としては、出来るだけ戦わないですむのなら戦いたくない。
と言う訳で実地検証を兼ね、偵察結果をもとに算定した遭遇率の低いルートを通り31階層へ向かう事になった。
「じゃぁ大樹、ドローンを収納してくれ。流石に、持ったままって訳にはいかないからな」
「それは良いけど……このまま収納して良いのか?」
「ああ、どうせ次の階層でも使うしな。折りたたんだり、分解したりは帰る前にしよう……って、忘れてた。大樹、次出す時は予備のバッテリーも一緒に出してくれ。今つけてるバッテリーは、残量が少ないから交換しないと……」
「了解」
俺は裕二から渡されたドローン一式を受け取り、“空間収納”に仕舞った。まだ検証途中ではあるが、ドローンは使えるみたいだからもう頭を打たずにすみそうだ。
俺は小さく安堵の息を漏らしながら、移動の準備を進めた。
実際に、グラスリザードが少ないルートを通り移動してみると、潜んでいる気配は感じるものの実際に遭遇する事は殆ど無い。グラスリザードが元々動かずに隠れ潜み奇襲する戦法を採っていたことも功を奏したのか、如何してもルート上回避出来ない個体を除き積極的に攻撃を仕掛けてくることは無かった。
敵を探し動き回るタイプのモンスターだったら、もう何度か戦闘を行っていただろうな。
「……良し、到着っと」
移動距離的には多少遠回りのルートではあったものの、最短ルートを通りグラスリザード達に群がられ戦闘でロスする時間を思えば十分に早く31階層への階段に辿り着けた。今回は検証を兼ねユックリと警戒しながら移動したのだが、30分と掛かっていない。
コレならば、潜んでいるモンスターの種類しだいだが、上手くやれば移動時間をもっと削れそうだ。
「うん。この階層限定ではあるものの、十分に使えるなドローン偵察」
「そうだな、戦闘もほぼほぼ予想通りの展開だったからな。まぁ相手が動かない罠で無くモンスターである以上、毎回偵察してルート検証する必要があるけど……」
「それでも十分な成果よ。目標地点と大凡の敵の配置が把握出来るだけでも、時間短縮策としては有効ね」
まだまだ検証と改善は必要ではあるが、偵察・検証・移動を含めて1時間も掛かっていない。今回のドローン偵察は上々の結果と言えた。熟れてくれば、新規階層でも30分ぐらいで下の階層に移動出来るかもしれない。
まぁ、このグラスリザード主体の草原フィールドが続いた場合だけどな。
「取り敢えず、成功って事で下の階層に移動しよう。予定より早く進んではいるけど、帰還開始の時間までそんな余裕も無いしさ。上手くすれば、新規階層の開拓にも着手出来るかもしれない」
「確かにこの調子で進めるのなら、既存階層の調査は捻出した時間内で終わられるかもしれないな」
「そうね、行けるのなら行きたいわ。既存階層の調査だけじゃ、折角泊まり掛けで来たのに勿体ないもの」
俺の言葉に二人は時間を確認し、順調にいけば新規階層開拓も出来るなと同意する。何せ長い様で夏休みは短い、泊まり掛けでのダンジョン探索など学生の身では中々出来ないからな。夏休み期間中で、出来るだけ新規階層を開拓し最速ルートを算定しておけば、日帰りでもそれなりの階層まで潜れるようになる。
その為にも、俺達としては新規階層の開拓は積極的に行っていきたい。
「そうだね、じゃぁ下に降りよう」
「おう」
「ええ」
と言うわけで、俺達は階段を降り31階層へと向かった。
階段を降りた俺達は31・32階層で、30階層で行ったドローン偵察を手早くすませられるようにと色々な手法を試しつつ改善を試みた。そして色々と試してみた結果、先ずはドローンを階層全体を外側から中心に向かって螺旋を描くように飛行させ全体像を把握、帰還させたドローンから撮影データを取り出し敵の分布を検証すると言う方法が一番手早く行えると結論が出る。まぁ、対空攻撃してくるモンスターや罠が無ければなんだけど。
因みに32階層でこの手法を用いた所、偵察・検証は15分ほどで終わった。特に31階層は下に降りる階段の位置が近かったことも有り、偵察・検証・移動を含め30分ほどで終わったな。
「不安になるくらい順調だな。それに裕二も、随分手早く偵察が終わるようになったな」
「まぁ、な。慣れればこの位の速さで飛ばすのも、何て事無いさ。まぁ何度か操作ミスって、天井にブツケてバランスを崩したけどな」
「落とさなかっただけで十分よ、お陰でかなり余裕を持って新規階層の開拓に乗り出せるわ」
柊さんの言うように、何度かドローンを天井にブツケてヒヤリとする場面があったが、プロペラガードのお陰で軽く跳ね返るくらいですんでいた。墜ちていたらドローンを回収の為に、墜落現場まで行かないといけなくなって、大幅に時間をロスしていたであろう事を思えば墜ちなかっただけで十分上手いと評せる。
「それより、これから先は新規階層だよ。どんな敵が居るか分からないんだから、これまで以上に注意深くいこう。もしかしたら、対空攻撃をしてくる敵が居るかもしれないしさ」
「そう、だな。そろそろ新しい種類のモンスターが出て来てもいい頃だからな。今まで楽勝だったからって、コレからも楽勝とは限らない。気を引き締めないとな」
ドローン偵察が予想外に上手くいって少し浮ついている感があった裕二は、軽く両手で自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。
そして……。
「良し、帰還開始まで時間はまだ十分にある。……行こう」
「おう」
「ええ、行きましょう」
俺達は気合いを入れ直し、33階層へと続く階段を降り始めた。
ドローン偵察成功です。対空攻撃してくるモンスターや罠がないと、上空からの偵察は強いですね。
次話更新は1月7日を予定しています。 では皆様、良いお年を!




