第284話 そりゃ無いよ、オーガさん
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俺達は手早く壁際に陣幕を設置し、ベッドやテーブルなどを出しベースキャンプを作っていく。コレまで何度もやってきた作業なので、ものの10分程で設営作業を終えた。元々やる事も少ないので、もう少し慣れれば、10分を切れるだろう。
それはさておき食事にしよう、フリーズドライとレトルトだけどな。……何時もなら。
「扉の先に他の探索者は……居ないわね」
「上の階層にも、他の探索者は居なかったから大丈夫だろう。……と言うわけで、大樹」
「うん」
俺は“空間収納”を開き、材料と調理器具を出していく。近くに他の探索者が居れば出来ない事だが、周囲に他の探索者が居なければ態々保存食を食べる必要は無いだろう。
しかもココなら、30階層のように火気厳禁って訳でもないしな。
「カセットコンロに鍋、カット野菜に寄せ鍋スープ。後は……」
「大樹、米や取り皿も出し忘れるなよ。あと、ポン酢な」
「豆腐とゴマダレも忘れないでね、九重君」
「了解……素のスープでも美味しいと思うけどね」
一瞬、調味料の好みの違いに、ピリつく空気が流れたが、気にせずに鍋の準備をすすめる。深く突っ込むと、大揉めになるからな。個人の食の好みに関しては、そっとしておくのが一番だ……好みの押しつけは良くない。
そして、あらかた出し終えたので、俺はメイン食材を取り出す。
「最後はコレだ」
「凄い山盛りだな……豚肉か?」
「オーク肉だよ。薄切りしてるヤツはまだまだあるから、足りないようなら言ってよ。追加するから」
俺が取り出した皿には、山盛りの薄切りオーク肉、凡そ1キロ分程がのっていた。見た目は、完全にピンクの肉塊だよな。
と言っても、コレでも俺の“空間収納”に仕舞われている極々一部でしか無い。以前柊さんのお家事情で大量乱獲し、処理し切れていないものがまだ大量に保管されているからな。
「じゃぁ、準備も整ったし食べよう」
俺達は鍋を置いた机を囲むように椅子に座り、カセットコンロの火を付けた。
出来上がった鍋をつつきながら、俺達は明日の行動について話し合う。時間が無いので、元々予定していた探索は出来ないからな。帰りを遅くすれば時間を作る事も出来るが、余り遅くなると家族に無駄な心配を掛けてしまう。もしかして、俺達がダンジョンで大怪我をしたのでは……等と。
まぁ1日単位で帰宅予定が遅れなければ大丈夫だとは思うが、用心するにこしたことはない。
「出来れば、帰宅時間は余り遅くはしたくないんだけど……」
「となると、あと方法としては睡眠時間を削って探索時間を捻出する位しか無いわけだが……」
「寝不足で集中力が切れる……って可能性が無いわけでも無いのよね」
「うん。まぁ今日はそこまで疲労するような戦闘があった訳じゃ無いから、睡眠時間を少しくらい削っても問題は無いとは思う。けど……」
柊さんの心配するように、睡眠不足による認識力の低下はダンジョン探索を行う探索者にとって時として致命傷に繋がる。認識力が低下すれば、罠の発見やモンスター襲撃の兆候を見落とすことに繋がりかねないからな。
その上、睡眠時間を削るとしてどれくらい削るのかと言う問題もある。元の予定では、3交代制で6時間睡眠の3時間夜警を行うつもりだった。仮に1時間づつ削れば探索時間が3時間増えるが、4時間睡眠の2時間警戒となる。十分とは言えないが、今回の探索が1泊2日であることを考えれば仮眠としてはマシな方だろう。まぁ、以前幻夜さんのところでやった訓練を思えば、十分な休息時間ではあるんだけど。
「……うん。睡眠時間を1時間ずつ減らして探索時間を捻出、様子を見ながら休憩を小まめに取る……ってのはどうかな? 睡眠時間を4時間くらい取れるなら、1日くらいなら大丈夫だと思うし」
「1時間ずつか……なぁ、30分ずつ削って1時間半の延長じゃ駄目か? 出来れば、睡眠時間は多めに確保しておきたいと思うんだが」
「私は切りよく探索延長時間が2時間になるように、40分ずつ削った方が良いと思うわ」
3者3様、考え方はバラバラである。俺は睡眠時間を可能な範囲で削って探索時間の確保を、裕二は探索時間の延長より睡眠時間の確保を優先、柊さんは俺と裕二の間を取った案といったところだ。
と言う訳で、折衷案を出すために話し合おう。
「戻り始める時間が決まっている以上、長めに時間をとっておいた方が良くないか? 今回の目的を開拓した階層の調査に変更したんだし、罠やモンスターとの戦闘で予想以上に時間が押すって事態は考えられるんだ。時間に余裕を持って調査した方が、焦らずに階層調査を行えるんじゃないか?」
「確かに、時間的余裕があった方が戻る時間を気にして焦らずに済むな。だけど、睡眠時間を大きく削るのはどうなんだ? やっぱり、出来る限り睡眠時間は確保しておいた方が良いと思うんだが……」
「でも、1時間半の延長と言うのは、少し中途半端な時間じゃないかしら? それに調査が早く終われば、残った時間で新階層の探索も出来ると思うわ」
前回開拓した階層調査だけで終わるのなら裕二の案でも余裕が持てるが、新階層の探索を行おうと思うのなら時間が足りない。逆に、俺の案ならば複数の新階層の探索を行う時間的余裕が出来る。
それに元々今回の探索では、新階層の開拓が目的であった。協会からの呼び出しが無ければ今頃、新階層の探索に精を出していたはずだったので……。
「無理に睡眠時間を削らず探索時間を捻出するとなると、柊さんの案が一番バランスが取れているかな……」
「そう……だな」
話し合った結果、俺と裕二が折れ柊さんの案を採用。それに伴い明日の探索目標が少し変わり、既存階層の調査と1,2階層の新規階層探索に変更した。
既存階層の調査だけじゃ、せっかく泊まりでダンジョン探索をしているのに代わり映えが無くつまらないからな。
「じゃぁご飯も食べ終わった事だし、はやく寝よっか。夜番はさっき決めた順番で」
「おう」
「じゃぁ、私が最初の夜番ね。食事の後片付けはやっておくから、二人は先に休んで。纏めたゴミなんかは、九重君が夜番の時に回収をお願いね」
「了解。じゃぁ裕二、お言葉に甘えて休ませて貰おうか」
「おう、そうだな。じゃぁ柊さん、悪いけど後片付け頼むよ」
「気にしなくていいわ。じゃぁ二人とも、お休みなさい」
と言う訳で、柊さんの申し出を受け俺と裕二は一足先に休ませて貰う事にした。まぁ片付けと言っても鍋の食べ残しをビニール袋に纏め、食器類の水分をペーパーで拭き取り除菌スプレーで仕上げをすれば終わりだ。一人で片付けをしても、3人分程度なら10分も掛からず片付けられるかな?
そして片付けをする柊さんの気配を感じつつ、俺と裕二は寝床に潜り込み目を閉じた。
7時間の短い休息も終わり、ベースキャンプを片付けた俺達はオーガが控える広間に繋がる大扉の前に立っていた。一眠りした事で疲労も抜け、協会の呼び出しを受け後ろ向きだった思考も何時もの調子に戻っている。
やはり、短くとも睡眠を取るって事は大事だな。
「さて、と。……行こうか?」
「おう。何だかんだで久しぶりだな、オーガ戦は」
「手持ちの紅玉が無いから、今回はオーガ戦をパス出来ないものね。難戦にはならないでしょうけど、油断せずにいきましょう」
「そうだね、前回の事もあるし油断は禁物だね」
と言うわけで、俺は道中で手に入れたコアクリスタルを大扉の窪みに嵌め込む。すると大扉はユックリと開いてゆき、俺達の視界の先に真っ暗な空間が広がった。
さてオーガ、今回は時間が無いから手早く終わらせ通らせて貰うぞ! と、気合いを入れ広間に進んだのだが……。
「「「……あれ?」」」
広場の中央付近まで進んでも、オーガの姿が何処にも見当たらない。念の為、“光魔法”を使い天井付近に光源を作り部屋全体を広く照らしても、オーガの姿を確認出来なかった。入り口の扉で紅玉を使っていない以上、オーガと戦うことになる筈なんだけど……。
今までに無い状況に、俺達は奇襲を警戒しつつ首を傾げる。すると暫くして部屋の中央、オーガが居座っているはずの地面が淡く光りだした。俺達は罠かと思い、瞬時にその場から跳び退き警戒する。
そして待つこと数秒、光る地面から幾つかの何かが出て来た。
「? アレは……紅玉?」
光が消えた地面の上に現れた何かは俺の“鑑定解析”を使った結果、紅玉と出た。紅玉……オーガが出てこず、紅玉が出て来たのか? しかも、5個も。
俺達は不審感を抱きながら慎重に距離を詰め、出現した紅玉に近付いて行く。すると紅玉が転がる地面には、ピクトグラムの様な絵でメッセージが刻まれていた。内容は……。
「コレは……“修行の旅に出ます”か?」
「と言う事は、コッチは“探さないで下さい”?」
「その流れで行くと、“コレで勘弁して下さい”よね?」
「「「……って、はぁ!?」」」
地面に刻まれていたのは、オーガ?からの詫び文(絵)で、転がる5つの紅玉は詫びの品の様だ。そこまで思考が至った俺達は思わず、戸惑いと抗議に声を上げた。
いや、まぁ……仕方ないだろ? 流石にこの展開は予想出来ないって。中ボスに当たるだろうモンスターが、詫びの品を差し出し出陣を拒否するだなんてさ。
「おいおい、良いのかよ、こんな展開って」
「いや、まぁ確かに、勝てない敵とは戦わないって言うのも戦法の1つではあるけど……」
「フロアを守るボスキャラが、戦いの場に出てこないなんて予想外すぎるわよ」
俺達は暫し唖然とした表情を浮かべたまま、地面に残る詫び文(絵)と詫び紅玉を見つめ続けた。
正直このタイミングで奇襲を受けていれば、恐らく第一撃は避けきれなかった可能性が高い。相手が全面撤退では無く、コレを囮にした奇襲作戦を取っていたらと思うとゾッとする。
「はっ、ははっ……どうしよ、コレ?」
「どうしよって……貰えば良いんじゃないか?」
「そう、ね。ここに置いていくってのも何だし、貰えるものは貰っておいても良いんじゃ無いかしら?」
俺は暫く地面に転がる5つの紅玉を見つめた後、若干躊躇しつつ“空間収納”に全て仕舞った。
何だかな……。
不完全燃焼甚だしいオーガ戦?を終えた俺達は、階段を降り30階層に足を踏み入れた。先程までの洞窟然とした場所とは打って変わり明るく、天井には青空が映し出され、辺り一面見渡す限りの草原が広がっている。
前回の探索でも思ったけどココ、本当に地下か?
「……相変わらず、地下とは思えない光景だよな」
「そうだな。……それより大樹、そろそろアレの準備をしよう。余り時間も無いんだしさ」
「そうだな。ちょっと待って」
俺は“空間収納”から、購入しておいたカメラ付きドローンを取り出す。
「裕二、操縦の方は大丈夫?」
「おう。説明書には一通り目を通しているから、飛ばすだけなら大丈夫だ。アクロバット飛行は要望されても無理だからな」
「そんな要望は出さないって、じゃぁドローンの準備は任せるよ。俺はその間に、天井までの高さをレーザー距離計で計測しておくから」
「頼むな。一応プロペラガードはあるけど、天井の高さが分かればぶつけずに済む」
「了解。柊さん、悪いけど周辺警戒御願いね」
「分かったわ、任せて」
俺は裕二がドローンの飛行準備を行っている間に、レーザー距離計で天井までの高さを計測する。電源を入れ、距離計の底面を地面に着けレーザー発振ボタンを押す。すると距離計の先端の先、天井の青空に小さな赤い点が映し出される。
もしかしたら乱反射して使えないかもと危惧していたが、どうやらレーザー距離計は使えるようだ。
「ふぅ……取り敢えず、第一関門突破って所だな。良し、じゃぁ計測開始っと」
俺は安堵しつつ、レーザー距離計の計測ボタンを押す。すると距離計から短い電子音が鳴り、一瞬で計測が完了した。普通にメジャーを伸ばしてたら、結構時間を食うのに便利なものだな。
そして、問題の天井までの距離は……。
「凡そ、10メートルか……」
だいたい、3階建てマンション位の高さだ。……こうして具体的な数字で見ると、俺、結構高く飛び上がったんだな。
俺は前回自分の頭を強打した大跳躍を思い出し、今更ながら探索者のレベルアップによる身体能力強化の具合に微妙な表情を浮かべた。正に超人だな。
「良し、準備完了。大樹、計測出来たか?」
「えっ、ああ、うん。出来てるよ」
「じゃぁ早速、飛ばしてみるか」
裕二は飛行準備を終えたドローンを地面に置き、操縦画面が映し出されたタブレット端末が接続されたプロポ(プロポーショナル・システム)を若干緊張した面持ちで握る。
そして気を落ち着かせるように軽く息を吸った後、裕二は飛行開始の合図をだす。
「行くぞ、出発!」
裕二の声が響くと同時に、ドローンの4つのプロペラが、甲高い音を発しながら高速回転し、重さを感じさせない軽やかな動きで、地面から飛び立った。
「「おおっ!?」」
俺と柊さんは、ドローンが飛び立ったことに感嘆の声を上げ、裕二は無言のまま、緊張した面持ちでプロポを握りしめ、小さく安堵の息を漏らしていた。
オーがさん、出陣拒否です。まぁ、1種の狩り場独占対策ですかね。
すみません、用事があり少し更新が遅れました。




