第223話 絡め手できたか……
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皆で無言でスマホをいじること数分、俺が大きなため息を吐いたことを切っ掛けにし、全員一斉に画面から目を離し顔をあげた。
そして裕二が皆の気持ちを代表するように、苦々しい表情を浮かべながら重々しく口を開く。
「……これは、嫌な予感が当たったんじゃないか?」
「……ああ、多分な」
「……そうね」
俺と柊さんも裕二の発言に苦々しい表情を浮かべながら、騒動の裏側に隠れる厄介ごとに頭を抱える。
「「???」」
だが、美佳と沙織ちゃんは俺達が気鬱している事が何を指しているのか良く分かっていない表情を浮かべていたので、俺達が何を気鬱しているのかを説明する。
事によっては、俺達が美佳達をサポート出来なくなる可能性があるからな。
「えっと、だな? 美佳達にも調べて貰ったけど、どうも俺達が映っている動画だけが、狙われたかのように世間の注目を集めているって言うのは気付いているよな?」
「うん。他の類似動画に比べて、私達の映ってた動画だけが再生数が一桁違ってたからね」
「ああ。だけど、これって少しおかしく思わないか? 類似動画が複数アップされていた場合、普通もう少し各動画で再生数が散ってもおかしくはない筈なんだ。だけど、今回に限っていえば俺達の映っている動画だけが、ほぼ満遍なく再生数を伸ばしているんだよ。ピントがぼけている動画や、引きの絵で全体像が鮮明に映っている動画関係なくな」
「言われてみれば……」
俺に指摘され、美佳も沙織ちゃんも現状のおかしさに何かを感じはじめているようだ。
「さらに、動画に貼付けられていたアドレスのネット掲示板やSNSを調べてみると、この動画をネタにずいぶんと盛り上がっていたよな?」
「そう、不自然なまでにな」
「学生探索者が参加する初めての体育祭で物珍しさがあるとは言っても、今までも似たような演武動画は沢山アップされているわ。もちろん、学生探索者がお遊びで撮影投稿した演武動画もね」
柊さんが言うそれらの動画は、効果音やエフェクト付きの見栄えする派手な演武動画だ。
ホームビデオカメラで撮影した動画をロクに編集加工もせず投稿したと思わしき、俺達の演武動画とは見栄えのよさがまるで違う。
「確かに今回俺達がやった体育祭での演武の内容は少々派手だっただろうけど、あくまでもそれら数ある動画の一つでしかなかった筈だ。なのに、何故かピンポイントで俺達が映っている動画だけが持ち上げられているんだ」
「もしかして、それって……誰かがそうなるように話題を誘導している、って事ですか?」
「俺達は、その可能性が高いとみてる」
俺達が何を気鬱しているのかを察した沙織ちゃんが不安げな表情を浮かべながら尋ねてきたので、俺は頷きながらハッキリとした口調で疑問を肯定する。
「掲示板やSNSのカキコミログを見ていると、何人かのグループで論調をそれとなく煽るように誘導している痕跡が見て取れるんだよ」
「ああ、俺もそれは感じた。話が逸れようとする度に、それとなく軌道修正している連中がいたな」
「しかも、そのグループが書き込んだカキコミの内容をよく見てみると、私達のことを知っている……
少なくとも同じ学校に所属していないと知らないような内容が幾つも書き込まれていたわ」
「「……」」
俺達の話を聞き、美佳と沙織ちゃんは絶句したように頬を引き攣らせ固まる。まぁ自分達が騒動のターゲットにされているって言われたら、そう言う反応になるよな。
しかも、煽っているのが学校関係者ともなれば、更に嫌な予感しかしないだろう。
「こうやって情報を整理して考えると、誰が動画を拡散し掲示板の論調を煽っているのか何となく絞れて来るんじゃないか?」
「……お兄ちゃん。それってつまり、後藤君達が犯人じゃないかって疑っているって事?」
「今のところ、他に俺達をターゲットにした攻撃をしかけて来るような連中に心当たりは無いからな。まぁ攻撃といっても、嫌がらせの類だけどさ」
黒に近い灰色ではあるが、今の段階では後藤達の仕業だという証拠は無い。限りなく疑わしいけどな。
「つまり今回の騒動を起こした仕掛人達の狙いは、俺達……特に俺達3人を世間の目に晒しその監視下におこうと言う事だろうな」
「多分だけど、俺達が自由に動けないように、世間の目を利用し牽制しようとしているんだろう。実際問題、話題の人物が小さくとも一騒動起こしたら無闇矢鱈に世間の注目を集めるからな」
「この動画再生数じゃ全国区の知名度は無理でしょうけど、地元じゃちょっとした有名人クラスの注目を集めるでしょうね。そんな中で下手な動きをしたら、良かろうが悪かろうが瞬時に噂が尾ヒレ胸ヒレ付きで面白おかしく噂が拡散してしまうわ」
俺達3人は眉を顰めながら溜息をつきつつ、今回の騒動を仕掛けた仕掛け人達の思惑を推測し口にする。普通の神経をしていたら、世間の注目を浴びている間は大人しくしているしか無くなるからな。
先程の動画を見たと声を掛けてきた人達の反応からすると、恐らく俺達の知名度は同年代の学生探索者の間ではそこそこあるのだろう。面倒くさい上、明日学校での反応が今から怖いな。
「しかも問題は、まだある」
「ええっ、まだあるの!?」
「ああ、残念ながらな」
ウンザリしたしたような声を上げる美佳に、俺は苦笑を浮かべながら続きを話す。
「今回の騒動、後藤達が仕掛け人だとしたら、何か違和感を感じないか?」
「違和感? ああでも、言われてみると確かに……今までの後藤君達のやり方を考えると違和感があるような」
「だろ?」
「で、でも、お兄さん。そうだとすると、何が問題になると言うんですか?」
質問の意図が分からず首を傾げる美佳と沙織ちゃんに、俺は騒動の裏にある更に嫌な予感を口にする。
「美佳達から聞いていた後藤達の手口からすると、今回の騒動のやり口は今までと余りにも違うだろ?」
「う、うん」
「……確かに、今までの後藤君達の手口は探索者としての力を見せつけつつ、金品や娯楽で懐柔して仲間を増やすと言うものでしたね」
「だろ? だけど今回は搦め手で相手の動きを封じると言うような、今までとは全く質の違う策を突然使ってきたんだ」
俺の指摘に美佳と沙織ちゃんはハッとした表情を浮かべ、裕二と柊さんは渋い表情を浮かべ頷く。
「確かに追い詰められた末に絞り出した苦肉の策って線もあるけど、コメントを違和感少なく誘導している手際には、精神的に追い詰められた連中が持つ焦燥感てものが感じられないんだよ」
「ああ。冷静に話の流れをみて、話題がそれると焦る事無く元の話に戻るように誘導しているからな。普通、精神的に追い詰められ焦っている奴が論調を誘導しようとすれば、強引にでも話を元の流れに戻そうとして他のユーザーから荒しの謗りを受けて顰蹙を買うもんだろ? だが、此奴らにはその兆候が見当たらない」
「つまり、彼等の行動は焦った上で場当たり的に起こしたものでは無く、明確に目的と手段を定めた上でおこした計画的な行動という事よ」
掲示板のコメント書き込み時間から考えるに、奴らの論調誘導は体育祭が終了して直ぐに動き出している。精神的に追い詰められた奴らだけで、ほんの数時間で冷静さを取り戻し対抗手段を立案計画実施するなどほぼ不可能だろう。
つまり今回の場合……。
「俺が思うに今回の騒動の裏には、体育祭で台頭した俺達に精神的に追い詰められている後藤君達とは別に、俺達に敵意ある第三者のアドバイザーが付いた可能性があると思っている」
「表立って俺達と敵対する気は無いけど、俺達の台頭は目障りだと思っている奴が後藤達に策を与えて情報戦を仕掛けさせているって所だろうな」
「全く、面倒な人に目を付けられたみたいね……」
表立って敵対している後藤達と違って、裏に潜んで妨害策を巡らせている奴が出てくるなんてな……面倒な事になってきたよ、本当。
しかし、こうなって来るとちょっと拙い事になって来るんだよな……。
一度大きな溜息をつき裕二と柊さんに視線を送った後、俺は少し目を細めながら美佳と沙織ちゃんの顔を見る。
「美佳、沙織ちゃん」
「……何、お兄ちゃん?」
「何です?」
俺の鋭くなった視線を受け、美佳と沙織ちゃんは若干緊張し硬い表情を浮かべる。
「明日学校に行ってみた具合にもよるけど、もしかしたら俺達は暫く身動きが取れなくなる可能性があるから、後藤達の動きには十分気を付けておいてくれ。最悪、美佳達のサポートが出来なくなる可能性もあるからさ」
「「……えっ?」」
美佳と沙織ちゃんは、俺が口にした言葉に一瞬呆気に取られたかのような表情を浮かべた。
「さっきの人達みたいに煽り動画の影響を受けて、俺達に興味を持ち付きまとってくる生徒が学校にも大勢いたら、今までのように身軽に動く事が出来なくなるからな」
「策としての成否はまだ出ていないけど、見事だよ。力で俺達を押さえ込むのが難しいと見たら無理に打倒しようとするのでは無く、搦め手で俺達を気軽に身動きが出来ない状況に追い込んで無力化を図るだなんてさ。まぁ話題としては一過性のものだろうから、1、2週間もすれば校内の騒ぎは落ち着くだろうけど……俺達が動けない1,2週間の間で壊れかけたグループを立て直す可能性が有るな」
「例え私達が美佳ちゃん達の後ろ盾として控えていたとしても、身動きが取れないというのじゃ居ないのと変わらないもの」
本来なら、体育祭のショックで崩壊寸前の後藤グループに更にもう一押をし、一気にグループを突き崩して置きたかったのだが……厳しいだろうな。俺達3人程は無くとも、美佳達の方にも動画を見たという連中は向かう筈だしさ。
その上、今回の手際を見る限り連中、既に大分冷静さを取り戻していると見て良いだろう。と言う事は、稼いだ時間でグループを立て直す可能性は高い。俺は思わず、面倒な事になったなと右手で頭の後ろを掻いた。
「後藤達がグループを立て直せたとしても、元のグループと比べれば規模は小規模にはなると思う。でもその分、グループとしての結束は強固なものになっているだろうから、今回のような手段で崩す事は出来ないだろうな」
「ああ。体育祭のショックで動揺していた今が、連中のグループを解体する千載一遇の好機だったんだろうけど……残念だったな」
「そうね……。変な横やりが入らなければ、聞いていた状況だったら夏休み前に決着は付いていたかもしれないのに……本当に残念だわ」
本当に残念だ。上手くいけば1学期中に決着が付いていたかもしれないのに、後藤グループに再建の可能性が出た以上、此方も長期戦を覚悟するしか無い。まぁ俺達3人は良いとしても、同学年である美佳達は後藤グループと卒業するまで睨み合いをする必要が出てきてしまったな。
嫌だろうな……高校3年間を学内勢力争いに費やす青春だなんて。どうやって慰めよう?
「まぁ……そう言うわけだからさ美佳、沙織ちゃん。二人とも十分に後藤達の動きには注意を払っておいて欲しい。無論、今までと同じように出来るだけサポートは続けるし、いざとなったら直接介入も辞さないつもりだけど……動画騒動に巻き込まれ一歩後れを取る可能性もあるからさ」
「う、うん。分かった、注意しておく」
「は、はい。気を付けます」
俺の忠告を聞き、美佳と沙織ちゃんは神妙な表情を浮かべながら大きく頷いた。しかし、二人の顔にはありありと不満げな表情も浮かんでいる。まぁ当然だよな、問題解決の見通しが見えかけてきていたのに、横やりのせいで不意になったのだから。
横やりを入れてきた存在に今の所コレと言った目星は立たないが、可能性として高いのは恐らく体育祭の安全対策の為に生徒会室に呼ばれたメンバーの中の誰かだろうな。今まで校内トップクラスの探索者としてのプライドも有っただろうに、ポッと出の俺達の方が探索者としては上だと言われれば反発の一つもしたくなると言う物だ。
「はぁ……。面倒だけど、黒幕捜しもしないとイケないな」
「だな。敵対関係になるかどうかは別にしても、面倒な横やりを入れてくれた奴の正体は知っておきたい」
「そうね。対策を取ろうにも、相手の正体が分かっているかどうかで此方の動きに大きな差が出るものね」
話し合いで穏便にケリが付けば良いけど、ダメな場合は……面倒事になる光景しか思い浮かばないな。嫌だぞ。1年の後藤達に加え、校内トップクラスの探索者グループとも争うなんて結末……。
動画騒動に対する対策を考えつつ貸出時間一杯までミーティング室で過ごした俺達は部屋を後にし、無言のままバスロータリーまで歩いて移動した。つい1時間程前まで思った以上の換金額に高揚感を覚えていた美佳と沙織ちゃんも、動画騒動と後藤グループ再興の可能性が浮上したせいで意気消沈している。
だけど、何時までも落ち込んでばかり居ても仕方が無い。
「良し、皆! 気分を切り替えよう! 今ココで無闇矢鱈に悩んでいても仕方が無い。対策もそれなりに考えている事だし、明日学校の様子を見て対応を決めよう」
「……そうだな。大樹の言う通りだ」
「そうね、余り悩みすぎてもイケないわね」
「うん」
「はい」
空元気ではあるが皆、何とか気分を切り替えようとしていた。なので、俺はそれを後押しするようにとある提案をする。
「ほら、折角遠征も無事に終わったんだし、無事の成功を祝って打ち上げをしよう!」
「それ良いな。でも、帰りの電車の時間を考えると、打ち上げは地元の店でした方が良いだろうな」
「そうね。地元の方が帰宅時間の調整もし易いでしょうから、先に帰ったほうが良いと思うわ」
「賛成!」
「はい!」
先程までの意気消沈振りを吹き飛ばすかのように皆、俺の提案に賛同し地元の店での打ち上げの食事会の開催が決まった。さてと、じゃぁグルメサイト経由で食事会のお店を予約しておくかな。
そして皆であの店でも無いこの店でも無いと吟味し合っていると、駅行きのシャトルバスがロータリーに入ってきた。ふぅ……コレでやっと一泊二日のダンジョン探索合宿も終わりだな。
力では敵わないと察し、後藤君達は正面からの戦いを避け搦め手で来ました。主人公達に介入されない時間を稼げば、ガタついている組織の再構築も出来そうですからね。




