第222話 有名人・・・なのか?
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いきなり見知らぬ女の子達に声を掛けられた事に戸惑いつつも、俺は出来るだけ平静を装いながら声を掛けられた理由を聞く事にしてみた。
「えぇっと……何か?」
「突然済みません。えっと、あの……これ」
「えっ、ちょ!?」
そう言って、右側の女の子が持っていたスマホの画面を俺に突きつけながら見せてきた。えっ、何だ突然? スマホを見ろって事か?
俺は少し顔を引いて焦点を合わせ、スマホ画面に映し出された動画?に目を通していく。……って、げっ!?
「あの……この動画に映っているのって、貴方ですよね!?」
女の子の突きつけてきたスマホに映し出されていたのは、先日行われて体育祭で行った俺達の応援合戦動画だった。しかもその動画は、遠目ではあるが模擬戦を行っている俺達の顔がなんとなく分かる程度の画質で、細部までハッキリとは見えないが顔見知りなら本人と判別出来るだろうレベルだ。
……どこから流出したんだよ、おい。しかしまぁ、取り敢えず誤魔化そう。
「ええっと……コレは?」
「えっ、知らないんですか? これ、再生数10万超えの注目の動画なんですよ!?」
「……はい?」
えっ、10万超えの注目動画? それ、一体何の話だよ!?
俺がスマホを掲げる女の子の言葉に動揺していると、もう一人の女の子が更に説明を付け加えてきた。
「今ネットでは、この動画について色々な噂が飛び交っているんですけど……本当に知らないんですか? こんな動きが出来るのは、有名な高レベルの探索者に違いないとか、学校休んでダンジョン探索しまくってる不登校生徒に違いないとか、ダンジョン中毒の高校中退探索者だとかって説が流れているんですけど……」
「こんな所で、噂の人に会えるとは思ってみませんでした!」
おいおい、とんでもない噂が流れてるな……。一部事実が混じってるけど、何だよそれ。
そして表面上平静を装いながら、内心の焦りを誤魔化しつつ詳しく話を聞いてみた。すると、幸いまだ個人の名前までは流れていないようだが、学校名は割れているそうなので時間の問題だろうとの事……何てこった!
「……そ、そうなんだ。でも多分コレ、他人のそら似じゃないかな? 流石に俺、こんな動きは出来ないしさ……」
「ええっ! でもでも、凄くこの動画に映ってる人と似ていますよ?」
「いや。確かに似ているかもしれないけど、この画質の動画じゃね……。さっきも言ったけど俺はこんな動き出来ないよ。只単に、似ているように見えるだけさ」
「でも、でも……」
そして数度の苦しい言葉の遣り取りの末、女の子達は納得いっていないような表情を浮かべているもののやっと人違いだという俺の言い訳を受け入れてくれた。
……かなり怪しんでいたけどな。
「その、すみませんでした。人違いなのに、騒ぎ立てちゃって……」
「いや、コッチこそ期待させるような形になっちゃってごめんね」
「……失礼します」
「あっ、うん……」
女の子達は軽く頭を下げ、建物の外へと歩いて行った。途中、何度か俺の方を怪訝気な表情で振り返ってきたけどな。
しかし……はぁ。何か面倒な事になったな。
女の子達の後ろ姿が見えなくなった後、俺は一度大きく溜息をつき、待合席を見渡す。すると、奥の方の席で美佳と沙織ちゃんが、ドロップアイテムを入れたバッグを覗き込み、それを、裕二と柊さんが見守っているのを見付けた。今、女の子達から聞いた話をするのが憚られるような、穏やかな光景だな。
そして整理券を持って皆が待つ待合席に向かうと、俺の接近に気付いた裕二が振り返り怪訝気な表情を浮かべた。
「整理券を取るだけで随分時間掛かっているなと思っていたけど……何かあったのか?」
「ちょっと、な……」
「……」
俺が浮かべた引き攣ったような堅い笑みを見て、裕二は何か良くない事が起きたなと言った表情を浮かべた。
「待ち順が近いから、詳しくは後で話すよ。それとはいコレ、整理券な」
「……おう」
裕二に一言声を掛けながら整理券を預けた後、俺は椅子に座りスマホを取り出す。あの女の子達が言っていた、ネットの情報を確認する為だ。取り敢えず先ずは、女の子が言っていた問題の動画を確認しよう。さっきは女の子達の手前、詳しく内容を確認出来なかったからな。
俺は動画サイトアプリを開き先程女の子達に見せられた動画を探す為、体育祭のワードで検索を掛けてみた。すると、出てくる出てくる。アップロード順でフィルターを掛けると、ここ2、3日の間でアップされた体育祭関連動画は100本近く。色々な高校がダンジョン解放後初の体育祭を行っているので、探索者生徒の活躍の物珍しさから多くの動画がアップされているようだ。だが……。
「うわぁ……」
思わず、俺の口から小さな呻き声が漏れ出す。俺達の応援合戦シーンを抜粋したと思わしき演武の動画が、複数個アップされていたからだ。
しかも、どの動画も再生数が10万回を超えており、むやみに高評価を沢山得ていた。
「……どうした?」
「あっ、いや……何でも無い」
「……そうか。まぁ、もうすぐ呼ばれそうだからスマホ弄るのも程々にしておけよ?」
「あっ、うん。分かった」
俺は裕二に軽く頷き返しながらそっと動画サイトアプリを閉じ、この頭が痛い問題から眼を逸らすようにスマホをポケットにねじ込んだ。
はぁ……皆に何て言おう。
「整理券番号、53番の方。お待たせしました、受付窓口までお越し下さい」
動画の件をどう話すか悩んでいる内に、俺達が持つ整理券番号が呼ばれた。すると整理券を預けた裕二が立ち上がり、皆に移動しようと声を掛けてくる。
「皆、呼ばれたみたいだから行くぞ」
「「はぁーい」」
美佳と沙織ちゃんは何処か期待に満ちた楽し気な口調で返事を返し、俺と柊さんはその様子に思わず小さく笑みを漏らす。今回の換金査定にはマジックアイテムも含まれているから、換金額は期待出来そうだからな……借金持ちで金欠の二人には無理も無いか。まぁ多分、二人とも今回の探索で借金は返済しきれるだろう……活動資金や装備更新費の方の増額は期待薄だろうけど。
そして……。
「以上で、手続きは終了です。御利用、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
買取手続きを終えた俺達に買取受付係の人が軽く頭を下げたので、俺達も軽く礼を返しその場を離れる。手続きを終えた以上、余り長居するのは後続の人の邪魔になるからな。
そして一旦、空いている待合席に戻り俺達は買取結果について軽く話し合う。
「思ったより、良い値段で買い取って貰えたな……」
「うん!」
「はい」
俺の漏らした言葉に反応し、美佳と沙織ちゃんが満面の笑みを浮かべながら相槌を返してくる。正に、ホクホク顔と言った感じだ。まぁ低階層帯のドロップ品の為、一個あたりの単価は低いが結構な数を回収したので合計では結構な額を稼げたからな。
「やったね沙織ちゃん、コレでお兄ちゃんに借りたお金を返す事が出来るね!」
「うん! 昨日の分と合わせれば、十分完済出来るよ美佳ちゃん!」
「沙織ちゃん!」
「美佳ちゃん!」
「「……」」
美佳と沙織ちゃんは椅子に座ったまま、互いにハグをし合い借金生活脱出の喜びを分かち合う。随分オーバーリアクションだな。と言うか、そんなリアクションを見た目から新人探索者らしき女の子が取ると、まるで俺がタチの悪い借金取りをしているように思われるじゃないか。
って言っている側から、そこの二人! 裕二、柊さん! 二人とも事情は知ってるんだから、ノリで俺にそんな蔑むような視線を向けないでくれるかな!? 周りの連中に、変な誤解を招くからさ!
「……はぁ。はいはい皆、小芝居はその辺りで辞めにして話し合いをしないか?」
俺は疲れた表情を浮かべながら大きな溜息をついた後、手を打ち鳴らしながら4人の下手くそな小芝居を強引に閉幕させる。これ以上、俺が悪者役の小芝居には付き合ってられないよ、ホント。
と言うか美佳も沙織ちゃんもダンジョン探索終了直後なのに、即興でこんな小芝居が出来るだなんて昨日に比べて随分と精神的に余裕があるな。やっぱりコレも、借金完済って明るいニュースがあったからか?
「ああっ、悪い。ちょっと悪ノリが過ぎたな」
「ごめんなさいね」
「ごめん」
「ごめんなさい」
「……はぁ、良いよ別に。それよりちょっと人の耳が無い場所で話したい事もあるから、場所を移さないか? 俺達、妙に目立ってるしさ」
そう言って、俺は首を左右に振って待合室の中を見回す。数は少ないが、先程の小芝居が気になったのかそれなりの人目を集めている。
ココで例の動画の話をするのは、やめて置いた方が無難だろうな。
「そう……だな。場所を移した方が良さそうだな」
4人も周りを見渡し、注目を集めている事に気付き若干バツの悪そうな表情を浮かべる。まぁ、自分達の小芝居が原因で集めた注目だからな。
「じゃぁ、ミーティング室を借りましょう。あそこなら、他人の目と耳を気にする必要は無いわ」
「それなら、急いで部屋を借りる手続きをしに行こう。ここにいても、変に注目を浴びたままだしね」
「おう」
「ええ」
「うん」
「はい」
そして俺達は借り受け手続きを行い、そそくさと待合室を後にしミーティング室へと移動した。
足早にミーティング室に移動した俺達は、荷物を部屋の隅に置き椅子に力無く座り一息つく。何故かって? それは小芝居で注目を集めたせいで、先程の女の子達のように例の動画に映っているのが俺達では無いかと声を掛けてきた連中が他にもいたからだ。
一応とぼけて誤魔化しておいたが、やはり女の子達と同じように最後まで疑わし気な表情を浮かべていたけどな。
「……なぁ、大樹? お前が後で言うって言っていたのは、この事だったのか?」
「……ああ。整理券を取った時に、声を掛けられてな」
「……そうか」
「……ああ」
「「はぁ……」」
心底疲れたというような大きな溜息が、俺と裕二の口から思わず漏れだす。
すると柊さんが疲れた表情を浮かべたまま、スマホを取り出し事実確認を行う事を提案をしてきた。
「取り敢えず、動画とネットに流れている情報を確認しましょう。どんな情報が流れているのか分からないと、対処のしようが無いもの」
「そう……だね。皆で確認しようか」
柊さんの提案を採用し、5人全員でスマホを操作し情報収集に当たる。ミーティング室に体育祭動画の音が流れ、俺達の苦々し気な唸り声が響く。
そして10分程情報収集に集中した結果、今回の騒動の概要が大凡つかめた。
「……取り敢えず分かった範囲だと、まだ俺達の個人名なんかは流れていないみたいだ」
「と言っても、流れるのは時間の問題だろうさ。まだ積極的に特定作業が行われていないとは言え、学校名は判明しているんだからな」
「特にウチの学校でも、体育祭に関する情報規制は掛けられていないものね。何れ誰かが、SNSか何かに興味本位でネタとして投稿するわ」
今のネット社会だと、少しの切っ掛けがあれば一般人でも個人情報を容易に集められるからな。特に小まめにブログやネット動画なんかを配信していれば最悪、趣味趣向や行動パターンなんかも特定されてしまう。因みに俺は、どっちもしていない。
とそんな風に頭を悩ませていると、美佳が言いづらそうに小さく手を上げながら口を開いた。
「えっと……言いづらいんだけどお兄ちゃん。今私、ウチの学校関係で検索掛けてみたんだけど……掲示板に直接的な名前は出てないけどイニシャルが載ってたよ」
「……マジか?」
「……うん。D・K、Y・H、M・K、Y・H、S・K……全部、私達のイニシャルだよ」
「うわぁっ……」
美佳の報告を聞き、俺は思わず机に突っ伏し項垂れた。絶対コレ、学校関係者から流れてるよ。……って、ん? 学校関係者?
俺は突っ伏した顔を上げ、裕二と柊さんに向ける。
「……裕二、柊さん? ちょっと疑問が浮かんだんだけど、俺達の体育祭応援動画以外の再生数って、どれくらいかな?」
「俺達以外の動画の再生数? ちょっと待てよ……ん? 何か可笑しいな……」
「……そうね。私達関係の動画以外の再生数が、ちょっと少なすぎると思うわ」
「そっか……」
俺は突っ伏した体を起こし、4人にとある疑念を口にする。
「皆、ちょっと他の動画に関しても、俺達と同じような状況になっているか調べてみないか?」
「俺達と同じような状況ってのは、お祭り騒ぎになって無いかって事か?」
「うん。何と言うか、俺達の動画だけが妙に盛り上がっている……盛り上げられているように感じてさ。もしかして誰かが故意に、煽っているんじゃ無いかって思ったんだよ」
「「「「……!」」」」
俺の言葉で何かに気が付いたように、皆一斉に眉を跳ね上げた。まぁ、ここまで言えば、その可能性に行き着くよな。何せ俺達には、その煽る誰かに、心当たりがあるからだ。
「と言うわけだからさ、ちょっと調べてみないかな?」
俺のその言葉に、無言のまま皆頭を縦に振って頷いた。




