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出逢い



「処分しろ」


まるで物を捨てるように、いとも簡単に言い放つ。

その言葉に絶望を感じつつ、成る程、と心のどこかで納得をしていた。


これが、噂の。


そう思った瞬間、伏せていた顔を上げた。

言葉を放った人物と目が合い、彼の至極面倒そうな冷たい瞳が驚いたように瞠った。

それを見て無意識に笑みを浮かべた。







ことの始まりは、父の友人の一言だった。


「絵画を数枚預かって欲しい」


父は彼を訝しんでいた。

友人といっても仲が良いというよりは縁があって何度か会ったことのある男だった。

そんな男からの頼み。


彼は公爵の爵位を持つ貴族であった。

男爵の爵位を持つ父にそんな頼みを強引に断ることも出来ず引き受けた。

それでも父は納得出来ずにいた。

渡された十数枚の絵画。

父は念入りにそれらをチェックしていた。


そして、気付いたのだ。

火薬の匂いに。


絵画の一つを切り開いてみれば、大量の火薬が敷き詰められていた。

父は蒼白な顔をした。


火薬はこの国では国が使うものであり、個人が持つことは許されていない。

しかもこれだけ大量の火薬を何に使うのかという返答次第で死罪にもなる代物だった。


あの男はこれをどうするつもりなのか。

優秀な父はすぐに答えを見出した。

恐らく隣国へ売り渡すのだろう。

自国への反逆罪だ。

戦争が始まるという噂があったが、隣国はかなり武に優れていた。

恐らく寝返ったのだろう。


だとすると、どちらの国へ寝返ったのかということになる。


エリオット・ハティルダ男爵とは父のこと。

そして父が所有するこの領地は、我が国、フェラス国の最西端であり、隣国であるノゼウス国とミョーテル国の境界がある場所だった。

あの公爵の男はミョーテル国の話を以前していたことを思い出す。

また友人からミョーテルの国産物が男の家にあったという話を聞いたことがあった。

足りない情報ではあるが、恐らくミョーテル国と繋がっているだろうと推測した。


では、これからどうするべきか。


正直に火薬の入った絵画を引き取ってくれ、なんて言えば秘密を知るものとして始末されるのは容易に想像が出来る。

かといって、このまま他国への援助を見過ごすのは反逆罪の共犯だ。

どちらにしろ、死罪となるのだ。

自分だけならまだしも、家族や下手すれば使用人たちも殺されるのだ。


悩んだ末、父は隣国への逃亡を謀った。

使用人にも逃げるよう伝え、妻と娘と一緒に隣国、勿論ミョーテル国ではなく、ノゼウス国へと逃げたのだった。

だが、それは間違いだったのかも知れない。

逃げる道中、山賊に襲われたのだ。

父と母は必死の抵抗の中、殺され、娘のレティーナは馬車の馬として連れてきた愛馬に跨がり、必死で逃げた。

逃げた先ではノゼウス国の騎士団に、隣国からの間諜かも知れないと疑われ、牢に投獄をされることになるのだから。








「お前、何故笑う?」


騎士団にフェラス国からの間諜だと疑われ、牢に連行される途中、偶然ノゼウス国の国王陛下に遭遇した。


何事だ、と陛下の言葉に騎士団の団長らしきものが説明をしていた。


恐らく団長には答えが分かっていたのだろうが、確認の為か、如何致しますか、と尋ねていた。

そして陛下は処分しろと言い放った。

隣国のノゼウス国の国王陛下はかなり有名な方だった。


クラウド・ユデラ・ノゼウス国王陛下。

人を殺すことに躊躇いがなく、少しの粗相も死罪としていた。

冷酷非道の暴君陛下。


近隣諸国では有名な話だった。

だから、自分を物のように処分しようとするクラウドにあまり衝撃はなかった。

これがあの噂の国王陛下か、と。

だが、やはり自分の死を決定する言葉に、またあの冷酷非道な国王陛下の姿を拝見するという好奇心に顔を上げたことが今の会話へと続くことになってしまった。


レティーナは、クラウドの問いに対して自分が笑っていることに気付かなかった為、怪訝な表情をしてしまった。


「陛下の質問に答えろ」


首筋に当てられた槍に、ひっ、と悲鳴を小さくあげる。


「いえ、あ…その」


今考えたことを口に出せば、この場で殺されるかもしれない。

そんな考えがレティーナの言葉を詰まらせた。

首筋に当てられた槍がより首に近付くことで、首の皮が少しだけ切れた。

ツーと首筋を伝う血でそのことに気付いた。

言わなくても殺されるのか。


「おい、槍を引け」


クラウドの言葉に騎士が槍を手元に戻す。

安堵したものの、どうせ殺されることには変わりはない。


「貴方様が、冷酷非道な国王陛下だと噂に聞いておりましたので……悪魔のような方なのだと、思っておりましたが…」


恐る恐る話すレティーナに騎士が「何と無礼な!」と槍の柄を振り落とそうとする。

ぎゅっと目を瞑って耐えようとしたのだが。


「おい、話の途中だ。余計なことをするな」


ギロリとクラウドに睨まれた騎士は、青白い顔で姿勢を正した。

続けろ、という言葉にレティーナはびくびくしながらもその続きを話す。


「その、悪魔のような方だと思いましたが、貴方様はどこからどう見ても人間で、人間も悪魔も変わらないのだと、思った瞬間無意識に笑ってしまったのだと思います。申し訳ございません」


レティーナは恐ろしくて顔を上げることが出来なかった。

このままここで殺されるのだろうか。

騎士達のピリピリとした空気が全身を包み、いっそのこと死んでしまった方が楽かも知れないと思った。


「そうか」


一言、クラウドの言葉が耳に届いた瞬間、ふわり、と体が浮いた。


何事かと顔を上げるとクラウドの顔がすぐ近くにあった。

声にならない悲鳴を上げつつ、目をぎゅっと瞑った。

どうやらクラウドに抱きかかえられているらしい。


なんでなんで!?

どうしてお姫様抱っこされてるの?と混乱する頭を必死に落ち着かせ、閉じた目の代わりに辺りの様子を耳で伺う。


「陛下!?」


驚く周りの騎士達にクラウドは平然と言った。


「仕事に戻れ」


踵を返すクラウドに、誰もが唖然としつつ、それ以上何も言う者はいなかった。




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