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定規戦争  作者: 思喜
クラスリーグ編

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5/5

教室の戦い④

教室のざわめきは収まらなかった。


「全国大会準優勝って本当なのか?」


「六年生だろ?」


「予備戦に出る意味あるのかよ……」


誰もが同じ話題を口にしていた。


直斗も気になっていた。


レンも窓際に立ちながら静かに耳を傾けている。


すると教室の扉が開いた。


ガラッ。


一瞬で視線が集まる。


入ってきたのは、一人の少年だった。


背は高め。


整った黒髪。


肩には学校指定ではない黒いケースを提げている。


その目は不思議なほど落ち着いていた。


「来た……」


誰かが小さくつぶやく。


少年は教室を見回した。


そして。


「ここが五年二組か」


静かな声で言った。


美咲が前に出る。


「あなたが代表選抜の参加者?」


「ああ」


少年は頷いた。


「名前は?」


「神崎翔」


その瞬間。


教室がざわつく。


「神崎ってあの神崎!?」


「大会常連の!?」


「本物だ……」


直斗は聞いたことがなかったが、周りの反応だけでどれほど有名なのか分かった。


神崎は淡々としていた。


騒がれていることにも慣れているらしい。


「先生に頼まれて様子を見に来た」


そう言いながらケースを机の上に置く。


カチャッ。


蓋が開く。


中には一本の定規。


ただの定規に見えた。


だが。


レンの表情が変わった。


「特注品か」


神崎は少し驚いた顔をする。


「分かるのか」


「普通より厚い」


直斗も目を凝らす。


確かに少し違う。


透明な定規だが、中央部分だけ微妙に重くなっていた。


重心を調整してあるのだ。


「すごい……」


美月が思わず声を漏らした。


神崎は定規を手に取る。


「誰か相手をしてくれる?」


静かな一言。


だが教室の空気が凍る。


誰も名乗り出ない。


全国大会準優勝者。


そんな相手に挑む勇気は簡単には出ない。


その時だった。


椅子が引かれる音。


ガタッ。


立ち上がったのはレンだった。


「俺がやる」


教室がどよめく。


神崎は少しだけ笑った。


「君か」


「断る理由はない」


レンは白い定規を取り出した。


静かな闘志。


直斗には分かった。


レンは本気だ。


美咲が即席の試合場を作る。


数分後。


二人は机を挟んで向かい合った。


観客たちは机を囲む。


直斗も最前列にいた。


試合開始。


パチン!


最初に動いたのは神崎だった。


透明な定規が滑る。


だが速さは普通だった。


「案外普通?」


雄太が言う。


次の瞬間。


カツン。


レンの定規が弾き返された。


「え?」


異変はそこからだった。


神崎の定規は衝突したあと、あり得ない方向へ曲がるように動いたのだ。


回転。


停止。


そして有利な位置へ収まる。


まるで最初から計算されていたかのように。


レンの目が細くなる。


二手目。


三手目。


神崎はほとんど力を使わない。


なのに配置だけで試合を支配していく。


気付けばレンが追い込まれていた。


直斗は息をのむ。


強い。


今まで見た誰より強い。


そして五手目。


カッ!


神崎の定規が走る。


白い定規に命中。


レンの定規は大きく滑り――


机の端から落下した。


カタン。


勝負あり。


教室は静まり返る。


わずか数分。


それだけで決着してしまった。


レンは落ちた定規を拾う。


悔しそうではあったが、目はまだ死んでいない。


「なるほど」


神崎を見る。


「桁違いだな」


神崎は肩をすくめた。


「まだまだ上はいるよ」


その言葉に誰も返せなかった。


全国大会準優勝。


その実力は本物だった。


神崎は帰ろうとして――


ふと直斗を見た。


「君」


突然呼ばれ、直斗は驚く。


「え?」


「さっきレンに勝ったんだろ」


「まあ……」


神崎は直斗の青い定規を見る。


そして微かに笑った。


「面白そうだ」


教室がざわつく。


まさか。


そんな空気が広がる。


神崎は扉へ向かいながら言った。


「代表選抜で待ってる」


そうして教室を去った。


残された直斗は唖然とする。


だが胸の奥は熱かった。怖い。


けれど。


戦ってみたい。


次の戦いはもう始まっている

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