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一話 追放


「君のことは忘れないよ。このパーティー、いや人生から去ってもらおう」


 その言葉が聞こえたとき、俺はダンジョンの奥深く奈落へと続く穴の中へ落ちていった。


 やつらの笑い声だけがあたりの岩一面に反響して、頭から離れない。


 ただ――


 理不尽に追放されてしまった。


 今まで積み重ねた幼なじみたちとの日々は無意味なものだったのだろうか。


 俺は……いや、俺も忘れない。お前たちが最期にした仕打ちを。


 人生の最期には走馬灯が頭を駆け巡るものだが、俺が思い出したのはあいつらとの最期の一日だった。


                     ☆



 俺が穴へ突き落される一日前。


 俺はパーティーメンバーが集う部屋の扉の前にいた。


 俺の所属するパーティー【幻影の集い】は冒険者ギルドきっての実力を誇っている。少し酒場に顔を出せば、「Sランクパーティー様のお出ましだ」とおだてられるほどだ。


 みな俺の幼なじみで気立てのいいやつらだが…………


 今日はなにやら朝から空気が違った。その証拠に扉ごしになにやらひそひそと声が聞こえてきた。


「あたい、昔から嫌いなんでよね、カイルのやつ。いつも金魚のふんみてぇに後つけてきて役に立ちはしない」


 エミリカだ。幻影の集いの紅一点にして炎の魔術の使い手。赤い髪の色に違わぬ炎で遠隔攻撃を行うことでパーティーメンバーをサポートしている。エミリカはどうやら俺を嫌っているらしい。今までそんな素振りは一度もなかったのに……。


「わたしも気に食わないですな。ひょひょひょ。クエスト報酬がカイルへ流れるのは」


 同調するように声をあげたのはオスカー。弓矢の使い手。エミリカ同様遠隔攻撃を得意とする。オスカーは領主の息子だが、金銭のことになるとこの通りがめついところがある。


「はああ。うっせぇ。追放一択だろあんなの」


 続けて白髪の武闘家ウルヴァンは声を荒げた。


 パーティー唯一の獣人族であるウルヴァンは力が他のメンバーより軒並み強い。エミリカとオスカーに対しては俺への悪口など初めて聞くのだが……ウルヴァン、こいつに関しては日頃から俺への風当たりは強いもので特に今の発言に驚きはしない。


「幼なじみ五人で幻影の集いだな」


「よし、剣聖イルアの名のもとに荷物持ちカイルを幻影の集いから追放しよう」


 パーティーリーダーのイルアはそう宣言したあと続けて、


「そこにいるんだろ? カイル」


 扉が風に押されたようにすーっと開いた。俺は咄嗟のことに対応できずに部屋の中央へと雪崩れ込んだ。


 みな一様に俺への軽蔑した眼差しを向ける。


「わかったよ。おまえらの気持ちを知ったら、もうここへいる気は起きねぇよ。俺も出ていく、どうなってもしらんぞ」


 俺は踵を返して部屋から出ようとした。


 誰も俺の今までパーティーに尽くしてきた功績がわからないから好き放題言うんだ。戦闘狂の馬鹿どもは一度俺がいないダンジョンに潜ってみるといい。まぁいい。俺は故郷に戻ってしばらくゆっくり過ごすかな。


「誰が帰っていいと言った? 君は明日からいなくなるんだ」


 振り返った時にはもう遅く、一斉に俺の体を取り押さえていた。


「おい。なにをする?」


「ひょひょひょ。ちょっと動かないように取り押さえるだけだ。おい、こいつの手に気をつけろ。忘れさせ屋が忘れさせにかかるかもしれん」


 忘れさせ屋。それは俺のこの街オルタリアでの通り名だ。俺のユニークスキル【忘却(ぼうきゃく)】に関係している。文字通り手で触れてものの記憶を忘れさせる能力。この能力でオルタリアの住人の記憶を操作してきた。


 といっても……やつらが望んできたときだけだが。


 誰にだって忘れたいことのひとつやふたつあるだろ?


 例えば、恋人に振られたときとか……。


 例えば、ギルド依頼の討伐クエストがうまくいかなかったときとか……。


 そんなとき、俺のもとを訪ねてくる人々が後をたたない。そんなことから俺は忘れさせ屋の通り名を頂戴することになった。もっとも訪れてきた人の半分以上は忘れたことすらわからない状態のため、俺が感謝されることも少ないが…………。それでも、どこからか噂を聞きつけてか毎日家の前に何人かは俺を求めてやってくる。


 だが、幻影の集いからすればただの役立たずの無能スキルと切り捨てしまう。実際、表向き冒険者としては不向きなスキルだから否定はしないのだが……。


「こいつを地下牢へ入れておけ」


 イルアの声が響いたとき、俺はなすすべなく地面へと組み敷かれていた。


 

                  ☆



 地下牢獄。ここは金持ちオスカーがダンジョンで拾ってきたモンスターを閉じ込めておくために作ったものだ。俺は今ここへ縄で縛られて入れられている。


 扱いはモンスター、いやモンスター以下かもしれない。


 なにやらあいつらの話し合いで明日俺はダンジョンの38階層【奈落崩落(コラプスアビス)】へ連れていかれるようだ。奈落崩落(コラプスアビス)は100年以上前からダンジョンに突如としてできた大きな穴だ。穴の底は知れず、一度落ちてしまうと帰ってくることは不可能に近い。帰らずの穴とも呼ばれており、今まで幾度の冒険者を飲み込んできたが、一度も生還したという報告は聞かない。


 証拠隠滅には持ってこいってところか。


 今まで他のパーティーでメンバーが追放されたと聞くが、殺すまではいかない。団長イルアが言うには名誉あるSランクパーティーから追放者が出るとパーティーの威厳にかかわる。よって人知れず始末しようということらしい。俺はダンジョン探索中に仲間をかばって名誉殉職になったという筋書きだ。イルアの「喜べ。君は晴れて荷物持ちから英雄になれるんだぞ」という皮肉が聞こえてきそうだ。


 今は地下牢に誰もいない。


 抜け出したいところだが、今の俺にはそれができない。今まで攻撃系統のスキルを身に着けてこなかった俺のせいもあるがあいつらのおもりに精一杯だったから仕方ない。


 だってそうだろ? 後方支援など考えているやつなど一人もおらず、回復術師すら連れずにダンジョンに潜るのだ。


 それはやつらのSランクパーティーとしてのプライドからくるもんだ。


 ったくやれやれだ。


 キィー。


 バタン。


 重厚そうな鉄の扉を開けて、だれかこちらへ向かってくる。


 赤くうねりのある髪に褐色の肌。おまけに黒色のドレスから隠しきれないほどの乳。


 エミリカだ。


 手には刺々しい鞭を携えている。


 なにをする気だ?


「さぁ 夜は長いわよ。せいぜいあたいを楽しませておくれ」

 


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