叶え
スカーの爆発魔法が周囲を無差別に攻撃、一人は持っていく事ができた。
『お前か! 成敗してやろう!』
別のメンバーが力のないスカーに接近戦を挑んでくる。
最初の斬撃を風の魔法でふんわり。
更なる追撃もひょいひょい。
氷の魔法で柱を突き上げると男が空に飛ばされる。
「なんだと!?」
無防備な姿にスカーは手を向けて握り潰す。
唐突な大爆発。
「っ……!」
その場に粒子だけが残る。
満足気なスカーはリュウキの所に向かう事にした。
リュウキが煽るとヘルは奥歯をギシギシ鳴らす。
「だから人間は嫌い!」
そう言って飛びかかろうとしてきた。
ステップを横に踏んで避ける。
その先にあった土が浮き、リュウキが体勢を崩す。
「……掛かったあ」
ヘルはリュウキを押し倒した。
「くそっ!」
「しね」
床に押し付けられ、首がギュウギュウに締められる。
「くっ……!」
対抗して首を締めるにも、腕の数が足りない!
魔力の糸はここからじゃ手繰り寄せれない。
視界の端から飛んでくる魔法は無効化されていく。
リュウキが絶望に青ざめる。
気づいたガロードはヘルの近くに足を踏み入れる。
「知ってるから」
その瞬間、ガロードの足が地面に飲み込まれてしまう。
「はあっ?」
「こいつが死ぬまで見てようね」
抜けない足にガロードも冷や汗を滲ませる。
金髪ちゃんの爆発魔法も封じ込められ、スカーが風を纏って空から接近しても。
『風から聞いてたよ』
暴走した風の魔法にスカーが振り回された。
これが情報共有? チートだろ。
リュウキは霞んでいく視界の中、そう思った。
『りゅうき!』
スカーの声はリュウキに届かなかった。
待機室に、俺は居た。
『申し訳ありません』
謝るサラも居た。
「別にいいよ」
「本当は、勝ちたかった……」
うつむき加減のサラがどんな顔をしているのか、覗き込んでみる。
「まだ負けたわけじゃないだろ?」
「もう、ダメです」
「……相手が強かった、それだけだろ」
サラの泣きそうな顔って初めて見たかもしれない。
「聞いてもいいですか」
「なんでも聞いてくれ」
「なぜ私の能力が使えるのでしょう?」
ぎくっ。
「あー、それは……」
「あれは私のアイデンティティなんです、教えてください」
俺はサラに説明した。
サラの能力に干渉して、魔力の糸が見えるようになったことを。
多分、俺が他人を魔力の世界に引き込んだらソイツも見えるようになる。
「なるほど」
「黙ってて悪かった」
勝つ為に使ったのに、打開もできなくて。
「いえ、嬉しいです」
「どうして?」
「私があなたの中に移れたような気がして、ドキドキしてます」
サラの表情に笑みが見え隠れしていた。
それからの戦いは悲惨だった。
ガロードは土に飲み込まれたし、金髪ちゃんも寝技の前に気絶してしまった。
スカーの魔法を何もかも無効化されて、力がないスカーは簡単に捕まえられる。
「やだ、離して!」
叫んでいたスカーも首絞め攻撃に力尽きてしまった。
モニターは勝者を映し、歓声が響く。
俺は電源を切って、揃った仲間を見る。
『わりい、どうしようもできなかった』
『爆発しかできないから……』
『私がミスをしなければ』
『リュウキおこらないでぇ』
みんなが俺を見て謝ってくる。
「俺に謝られても困る」
「だって、お願いがあれば腕が……」
スカーが魔道アームを見ながら握り拳を作るとプルプル震えた。
「別に死んだ訳じゃないしな」
というかお願いがあれば腕が戻ったのか!
アルカデリアンを無償にしてもらうことしか考えてなかった。
「……みんなも叶えたい願いはあったろ」
このお願いは一つのチーム一回じゃない。
一人につき、一回だけ叶えれるんだ。
この国の財力でなんでも叶うって聞いてる。
「妹の願いなんて叶えなくてもいいわ」
軽いガロード。
「特にないよー」
微かに揺れる金髪ちゃん。
「二つ叶えるほど欲張りではないのです」
首を横に振るサラ。
「…………」
何も言わないスカー。
よっぽど叶えたい願いがあったのか、唇から不満が見える。
「俺の力不足を許してくれ」
「リュウキが叶えてくれるなら、いい」
「なんだ?」
「今は……いいたくない」
そう言って俺の右手を握った。
「じゃ、解散するか。どうせ次もあるだろ、その時だな」
スカーを引っ張って一足早く待機室から出る。
そこは教室で、アステル先生が空中で静止していた。
「負けてくれて助かりました」
「そう言われると傷つく」
「お願いって色々な手続きが必要なので、皮肉ではありません」
大金が動くお願いもあるらしいしな。
「……もっと面倒なことが起きそうですが」
「えっ?」
「少し、気配を感じます」
先生は寝転がったまま水平に移動していった。
「リハビリするか」
魔道アーム使えるようになりたいし。
「スカーも応援する」
とりあえず部屋に戻る事にした。